「取材源秘匿の意識不十分で公権力の介入招いた」と批判--供述調書漏洩問題で講談社第三者委員会が報告書
奈良県の医師宅放火殺人事件で逮捕された少年の供述調書を引用した書籍の出版をめぐり、供述調書を漏えいした精神科医が秘密漏示罪で逮捕・起訴された問題で、取材・出版の経緯を検証した講談社の第三者調査委員会は4月9日、「取材源秘匿の意識が不十分」で「公権力介入を招いた。表現の自由に悪影響を与えた社会的責任は大きい」とする報告書を公表した。これを受け講談社は社内に出版倫理委員会を設け、倫理意識の向上やチェック機能を強化すると表明した。
第三者委は奥平康弘(おくだいら・やすひろ)東大名誉教授を委員長に、5人で構成する。2007年12月以降、草薙厚子(くさなぎ・あつこ)氏と鑑定医、講談社の関係者ら計15人から約30時間に及ぶ聞き取り調査を行った。
報告書は、鑑定医への取材や調書の入手については「問題は見あたらない」とした。しかしながら調書の利用方法では、同医師と、入手交渉をした草薙氏、週刊誌取材班との間で、1.コピー禁止2.直接引用の禁止3.原稿の事前確認――の三点に関する合意があったと認定した。
ところが、書籍の編集者は、調書の入手・公表に当たっての約束事を確認しなかったと指摘。調書を直接引用し、原稿の事前確認も行わなかった。取材源との約束をすべてほごにしたことは「出版倫理上の重大な瑕疵(かし)がある」との考えを示した。
調書の内容を大量に引用する一方、筆者・書籍編集者らの取材源の秘匿への認識・対応は「無防備・無理解」だったと批判した。「取材源を絶対に守り抜く、あるいは守ることが絶対的に優先されるべきだという強い意志に欠けた」。具体的には調書だけに依拠した取材や、調書の入手を強く印象付ける本の記述や装丁・帯を挙げ「取材源割れの危険性を高めるとの認識が決定的に欠けている」とさえ述べた。
こうした「出版社と筆者の脇の甘さ」が、取材源の逮捕・起訴という公権力の介入を招いたとし「出版界、日本の表現の自由の保障において、悪影響を与えた」と指摘した。それにもかかわらず「公権力の介入に対する批判に終始し、責任をもっぱら権力側に転嫁している」として、講談社の対応には真摯な反省が見られないとした。
第三者委の報告を受け、講談社の中沢義彦(なかざわ・よしひこ)常務取締役らが記者会見を開いた。問題となった書籍「僕はパパを殺すことに決めた」草薙厚子著の出版に「意義はあった」との認識を示した。情報源の精神科医が、少年の精神鑑定を担当した崎浜盛三(さきはま・せいぞう)医師であることも明らかにした。
同医師が第三者委の聴取に対し「調書を見せたことは後悔していないが、見せる相手を間違えた」と述べたと報告書に記載されたことについて、中沢氏は「最も厳しく受け止めた」と述べ改めて謝罪した。
再発防止に向け設けられる出版倫理委は、編集総務局の担当役員を委員長に、法務部長、出版局長ら10人で構成する。法務知識や取材ルールなど出版倫理にかかわる研修会を定期的に開く。「高度な判断を要する案件」は、各出版局長からの報告を受け、顧問弁護士の助言も踏まえ審議し、適切に指導する役割も担う。
社内委員だけで構成することについて、渡瀬昌彦(わたせ・まさひこ)広報室長は「自らを検証し、律していく精神の表れだ。社内の自由な表現活動も担保しなければならない」と説明した。
「個人情報の保護に関する基本方針の一部変更」に見解表明--新聞協会 編集委員会
日本新聞協会編集委員会は4月25日、「個人情報の保護に関する基本方針」一部変更の閣議決定に対し、変更内容は不十分であり、抜本的な見直しを求める見解を表明した。
今回閣議決定された変更内容において、新聞協会が再三にわたり求めてきた保護法への過剰反応、情報隠しの問題に対する具体的な措置はとられず、現状が改善される見込みがないことから、報道機関への情報提供は法の適用除外であり、社会にとっても有用であることが広く理解、徹底されるよう法改正をも視野に入れ抜本的に見直すよう求める見解を表明した。
個人情報保護法は、2005年の全面施行後3年をめどに見直すことになっており、内閣府の国民生活審議会個人情報保護部会を中心に見直し作業を進めてきた。新聞協会は、官公庁をはじめ、病院・消防・学校などの公共機関、一般企業など各分野での「個人情報」の扱いの変化の調査の実施や、意見書を提出するなどして、過剰反応や官の法の名を借りた情報隠しなどの問題点を指摘し、実効ある具体的な措置を講じるよう求めてきた。今回の基本方針一部変更案についても、2月15日に内閣府に意見書を提出していた。
新聞協会は個人情報保護法施行以降、06年4月7日、同年10月20日、07年7月3日、08年2月15日の4回にわたって意見を表明している。