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日本放送協会のインターネット利用及び子会社等の業務範囲に関するガイドライン等についての申し入れ

平成14年7月30日

総務大臣
片山 虎之助 殿

社団法人日本新聞協会
メディア開発委員会

貴省が本年3月、「日本放送協会のインターネット利用及び子会社等の業務範囲に関するガイドライン」を定める際、当委員会はパブリックコメントの募集に応えて意見書を提出し、「根本的な論議を経ず、現状を追認する形でインターネット利用と子会社等の業務拡大につながりかねないガイドラインが策定されようとしている」と強く遺憾の意を表明すると同時に、ガイドライン各項目に関する具体的な問題点を指摘しました。しかし、そうした意見や指摘を顧みることなく貴省はガイドラインを策定、続いてNHKが、そのガイドラインや総務省放送政策研究会第一次報告に基づいて、「平成14年度『放送番組補完インターネット利用計画』」「業務委託基準」「関連団体運営基準」の3施策を相次いで発表しました。子会社等の透明性・公平性の確保を求めてきた立場から、関連基準等の見直し・整備が行われたこと自体は是としますが、その内容をみると、まことに遺憾ながら、われわれが総務省ガイドラインについて指摘していた問題点が、解消されないまま残されています。また、全体に抽象的な表現や、とくに実効性という点で疑問の多い内容が目に付きます。これらの施策は、それが総務省ガイドライン等に基づくものとされているだけに、かえってNHKの一層の業務拡大につながるのではないかとの懸念を強く抱かせるものです。インターネットに関しても、例えば、サッカーワールドカップ開催期間中にNHKは民間の先行分野を圧迫するような、新たな携帯電話によるサービスを開始しており、すでにガイドラインの実効性が問われる事態となっています。

以上のような問題は、やはり貴省のガイドライン策定前に立ち返って、抜本的に見直す以外には解決の道がないと考えます。貴省ガイドラインに関する問題点は、これまで指摘しているとおりであり、あらためて詳述することはしませんが、以下に一連のNHKの施策のおもな問題点と、そのよりどころになった貴省ガイドラインの問題点をまとめました。貴省におかれては、これらの指摘を踏まえ、自らのガイドライン見直しおよびNHKの諸施策についてどう認識され、今後、どう対応しようとされるのか、速やかに文書の形で見解を明らかにするよう求めます。

これまでの意見書等でも繰り返し述べてきたとおり、日本新聞協会メディア開発委員会は、公共放送NHKの問題は、日本のメディア環境ひいては民主主義社会の健全な発展に重大な影響を及ぼす事項であり、その役割や業務範囲を含め、NHKのデジタル時代のあるべき姿については国民的な議論の場を設け、幅広く検討すべきであると考えております。本来は今回のような個別のテーマについて議論する前に、こうした根本的な議論が必要であるとの認識は現在も変わっていません。念のため、あらためてこの旨申し添えます。

「平成14年度『放送番組補完インターネット利用計画』」について

NHKのインターネット参入は放送法の趣旨を逸脱するものであり、民業を圧迫してはならないとして、当委員会は一貫して反対してきましたが、今回の「平成14年度『放送番組補完インターネット利用計画』」を見ても、インターネットサービスは放送の補完ではなく、それ自体独立した情報として価値を持つ、放送とは別個の通信サービスであると考えざるを得ません。最近では、ニュース番組の中で積極的にホームページや携帯電話のURL(接続先)をPRする場面なども見受けられますが、これも放送でその使命をまっとうすべき本来の在り方に合致する行為とは思えません。

また、NHKのインターネット利用計画では、「教育」「福祉」「医療」「生活」の4分野で関連情報を提供するとしていますが、当該関連情報が番組制作過程で入手したものか、インターネット用に独自に収集・加工したものかを第三者が判別するのは不可能であり、これは「独立情報」を含む、あらゆる情報の提供を可能とすることにもつながりかねません。さらに、「規模」として総務省は上限10億円程度、NHKは6億円という年間経費を示していますが、いずれにしてもこれらは新聞や民放等の支出規模と比較して相当に高額であり、受信料制度との関係でもきわめて疑問です。 

一方、インターネットに関する総務省ガイドラインについては、規定の実効性を確保する監視体制等の仕組みが示されていないとの問題も指摘していましたが、われわれはその弊害がすでに発生していると考えます。NHKはサッカーワールドカップ開催期間中に「NHKゴールメール」と称して、あらかじめ登録した希望者に試合経過などをメールで知らせるサービスを行いました。これは「態様」の項目で、インターネットでの情報提供はホームページによって行うと規定しているNHKのインターネット利用計画にも反するものです。総務省ガイドラインには携帯端末等への情報提供という概念すら記載されていませんが、それとあわせて一般にプッシュ型と呼ばれるこうした情報提供が黙認されることになれば、今後スポーツばかりでなく他の情報分野でも、すでに先行実施している同種の民間サービスを圧迫することになり、看過できません。

「業務委託基準」等について

NHKの「業務委託基準」は「受託者の選定」に関し、競争契約を原則としながらも、「業務の専門性、特殊性等から他に委託先がない場合等やむを得ない場合を除き」といった条件を付しています。また、「業務委託契約要領」のなかで競争契約の例外となるケースを示していますが、「(2)効率化に伴い移行した要員が当該業務に従事する場合」「(4)既設設備との関連で業者が一者に限定される場合」などの項目は、事実上、子会社等への優遇措置であり、「(5)緊急の必要により競争に付している時間がない場合」「(6)その他特別な事由で業者が一者に限定される場合」といった項目が入っていることと考え合わせると、実際には競争原理が入り込む余地は極めて少ないと言わざるを得ません。いずれにしても、運用上の問題は具体的な実績に基づいて判断するしかないため、一定期間ごとに業務委託費を含めた契約状況の公開を義務づけるべきです。

「関連団体運営基準」等について

NHKの子会社等への出資は、公共放送としての目的を達成するために認められているものであり、子会社等の業務範囲は放送法の目的に添うものでなければなりません。現状でも、その趣旨で放送法施行令第2条に定めがありますが、総務省ガイドラインはさらに「別紙」として、それに加えて行うことができる業務範囲を示し、今回のNHK「関連団体運営基準」でも、それが踏襲されています。しかし、総務省ガイドライン策定時にも指摘したとおり、この「別紙」は施行令にある「協会の委託により」という表現をいくつかの項目で単に「委託により」とすることで、NHK以外からの業務の受注を公然と認めようとするものになっています。また、業務範囲についても、政令にはない広義の解釈が可能な条項や文言が加えられていることなどから、子会社等の業務範囲をさらに拡大する意図が含まれているのは明らかであり、削除すべきです。また、関連団体の事業活動に関する外部からの意見、苦情を受け付け、当該事業活動の適正性を審査するという「関連団体事業活動審査委員会」については、その構成メンバーの大半をNHKの役職員が占めること、委員長や委員長代行にはNHK役職員を充てると規定されていること、受け付ける意見の内容を「関連団体の個別具体的な事業活動にかかわるもの」と制限し、苦情を申し述べることができるものもそれらの活動と直接的な利害関係を持つものに限定していること、などを見ても、公正な審査を期待できる体制とはほど遠いものと言わざるを得ません。実効性ある第三者機関による審査を行うべきであり、透明性を確保するために審査結果だけでなく、審査過程も公表するよう改めるべきです。

以上

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