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NHK経営計画に対する新聞協会メディア開発委員会の意見

2015年2月10日

 NHKは1月15日、2015年度から17年度までの経営計画を発表した。昨年9月に実施した経営計画策定に向けた意見募集では、そもそも意見募集の対象となる経営計画案が示されず、質問項目だけが示されたため、当委員会は、経営計画がまとまった時点で再度意見募集を実施するよう求めていた。このたびのNHKビジョン(2015→2020)および経営計画の公表を機に、当委員会として改めて意見を表明したい。

 NHKビジョンでは、東京オリンピックが開催される2020年に最高水準の放送・サービスを実現することを目標に設定。国際発信の強化とインターネットを活用した発信の強化に重点的に取り組むとし、「放送を太い幹としつつ、放送だけでなくインターネットも積極的に活用し」、「公共放送」から「公共メディア」への進化を図ることを打ち出した。
 インターネットやモバイル端末の急速な普及といった環境の激変のなかで、「公共メディア」への自己変革の意気込みが強く感じられるが、一方で、2014年度までの経営計画で強調していた「公共の福祉や社会の健全な発展に資する」といった「公共放送の機能を強化する」視点が後景に退きつつあるのではないかと懸念する。
 放送界は戦後、健全な民主主義の発展に寄与しようと、NHK・民放の「二元体制」のもと、多様性を確保しながら国民の知る権利の確保などを実現してきた。環境激変のなかで、NHKは自ら突出するのではなく、放送の二元体制の理念を尊重しつつ、「情報の社会的基盤」を形成していくことを目指すべきではないかと考える。
 さらに、「公共放送」から「公共メディア」へと変化を求めるならば、インターネット分野ばかりでなく、新聞・デジタル分野などとの「多元体制」をどのように築いていくかが問われることになる。通信と放送の融合が一層進むことにより、新聞と放送は、情報の流通市場でこれまで以上に競合することになる。NHKを含むメディア・ジャーナリズムは、多様な言論を展開し、お互い切磋琢磨することで民主主義の維持・発展の一翼を担ってきた。多元的な言論空間を確保するためには、NHKが公共性や市場環境への配慮といった基本的な視点を欠かさず、メディア全体を俯瞰する視点が重要であることを強調した上で、以下意見を述べる。

 経営計画で示された5つの重点方針のうち、「1. 判断のよりどころとなる正確な報道、豊かで多彩なコンテンツを充実」、「2. 日本を世界に、積極的に発信」、「3. 新たな可能性を開く放送・サービスを創造」の3項目では、施策としていずれもインターネットの活用を掲げた。

 NHKのインターネット利用業務について当委員会は、総務省「放送政策に関する調査研究会」(放政研)が打ち出した「公共性が認められること」「放送の補完の範囲にとどまるものであること」「市場への影響(への配慮)」の3原則の範囲内であることが適当であると考えている。
 この観点から、今回のビジョン、経営計画を検討すると、重点項目としてインターネットを利用した発信の強化が掲げられ、「より多くの人々にNHKコンテンツを届ける新たなサービスを創造」としている。しかし、先ほど指摘したとおり、インターネットの発信はあくまで放送の補完にとどまるべきであり、放送法の下で受信料を財源とする以上、サービスの対象はあくまで受信契約を結んだ人に原則限定すべきだと考える。

 重点方針3では、初めて「放送の同時再送信」に言及し、「“放送の同時再送信”の課題の解決を図るとともに、取り組みを推進」と明記。2015年度予算案でさっそく、インターネットを通じた放送番組等の提供に前年比18億6000万円(17.8%)増の123億3000万円を計上している。
 サービスの拡大に伴う「市場への影響」に配慮するために、当委員会としては、事前・事後に第三者機関によるチェックが行われること、実施計画の策定時と実施状況の評価時に、具体的にどのように市場競争への影響を考慮・勘案するのか、指標や基準を明らかにすることを改めて求める。
 また重点方針3には「放送やインターネット、録画視聴など、さまざまな形でのNHKコンテンツへの接触や質的・量的評価を総合的に把握する手法(“トータルリーチ”)を開発し、放送・サービスの向上に活用」することを盛り込んだ。トータルリーチは、どのような仕組みで、どういった情報の収集を想定しているのか明らかにするとともに、その結果は広く社会に公表すべきだと考える。

 重点方針4は「受信料の公平負担の徹底に向け、最大限努力」として、主な施策の一つに「放送と通信の連携など、メディア環境や放送・サービス展開を踏まえて、受信料制度のあり方を研究」との項目を挙げている。これについては、経営委員長見解でも「受信料制度に関する有識者会合等を早急に立ち上げるなど、2020年東京オリンピック・パラリンピックの年までの実現を目指して新たな受信料制度の研究を鋭意進め、この問題に関する国民的合意形成のために努力すること」と触れられている。
 当委員会は、放送と通信の融合時代に合ったNHKの業務と受信料制度のあり方について議論するための材料を、NHKが国民・視聴者に提供すべきだと考える。現時点でどのような形で研究を進めるつもりなのか、明らかにしてほしい。

 重点方針5は「創造と効率を追求する、最適な組織に改革」として、本体と関連団体の構造改革、グループ全体での人材確保・育成、コンプライアンスの徹底などを掲げている。
 NHKの子会社・関連会社については、昨年8月に答申されたNHK関連団体ガバナンス調査委員会の調査報告書の全体と「NHK関連団体ガバナンス根本的解決策についての提言」を速やかに公表するよう求めたい。
 また、NHKの関連会社等が行うインターネット事業でも、「公共性」「放送の補完」「市場への影響」というNHK本体の業務の3原則に沿ったものでなければならないと考える。

以 上

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