新聞には若年から高齢層まで幅広い世代を読者に持つ「三世代メディア」という特性があり、近年こそいわゆるシニア層の読者比率が高まる傾向にあるものの、これまでも新聞は広範な年代層に訴求するコミュニケーションを模索し提供してきました。昨今は社会情勢の変化を受けて生活者の消費行動や価値観などが変容しつつあり、従来の「若者像」や「シニア像」にとどまらない行動傾向が見られることや、年齢・世代による価値観の違いが小さくなっているという指摘もあります。これからの読者層の行動特性や関心をつかむことで、今後新聞広告や新聞社ビジネスが果たすべき役割や可能性について考察します。
――メディアプラットフォームnoteが生まれた経緯について
出版社で編集者をしていた頃、インターネットの普及によりメディアの環境が劇的に変わるのを経験しました。当時担当していたパソコン雑誌は、最もインターネットの勢いにのまれた分野だったのです。コンピューターが出てきたばかりの頃は、エクセルの使い方の特集や関数辞典の付録など、皆が使い方を学べるメディアとしてよく売れましたが、ネットで検索をすれば情報が出てくるので、瞬く間に売れ行きが落ちていきました。出版業界の中でもネットとの親和性が高いパソコンの実用書は、いち早くメディア環境の変化の影響を受けたのではないでしょうか。
その後、書籍も編集するようになりましたが、こちらでも市場の変化を感じました。以前は電車で新聞や本を読む人もいましたが、ある時からほとんどの人がスマートフォンを開くようになりました。スマホでコンテンツを見てもらい収益化する仕組みを作れないと、継続的に事業ができなくなると思いましたね。
その頃、電子書籍のアプリも作りました。アプリ自体はかなり売れたものの、アプリストアの中の1コンテンツ事業者として勝負しなければならず、限界を感じました。競合が増えれば、結局は値下げ競争になってしまいます。ネット空間はとても広いのに一部の狭い場所の中だけで勝負しないといけないのは、事業としてあまり面白くないですよね。インターネットの広い場所でちゃんとコンテンツを発表して、それをお金に変えられる仕組みが必要ではないかと考えるようになりました。既存メディアのように持続してコンテンツを作り続ける仕組みをネット上で実現するためには、課金も含めたエコシステムが必要。それができるプラットフォームとして始めたのがnoteです。
――noteの事業内容とビジネスモデルの仕組みについて
noteはあらゆる人が記事を発信して見てもらうことができ、売ることもできるサービスです。11年たって多様な人々にご利用いただき、会員登録者数は2025年6月時点で1000万人、月間アクティブユーザー数は2025年2月時点で7359万です。
コンテンツのジャンルは幅広く(2025年6月時点で6000万件)、月に150万から200万件ほどの記事が投稿されています。一部のコンテンツは有料で販売され、年間の流通金額が170億円程度です。
――昨今活字離れと言われる中、noteが幅広い世代、特にビジネスパーソンの利用者に支持される要因とは
動画などメディアの種類が増えた結果、相対的に活字離れと言われますが、実は現代は人類が歴史上で一番文字を読んでいる時代といっていいのではないでしょうか。みんなスマホで、さまざまなアプリを通じて毎日大量のテキストを見ていますからね。むしろ我々を含めた業界全体で新しいビジネスモデルを模索している段階というのが正確な表現かと思います。
多くの方にnoteを利用いただいている理由としては、テキストベースの発信がしやすく、見てもらいやすい場所になっているからだと思います。しかも、そこで事業もできる。そうした環境でビジネスパーソンにも多くご利用いただいています。
――利用者の傾向とは
私たちはnoteを街に例えています。にぎわっている場所で活動した方がさまざまな人に見てもらいやすいし、出会いも起こりやすく、仕事もしやすいですよね。都会に人が集まってくるのと同じ原理です。街だからこそ、さまざまな人がいます。利用者は日本のネット人口の分布と近く、年齢層は幅広いです。最近は、中央官庁や企業など法人の利用も増えています。
――noteを利用する企業について
企業には採用、ブランディング、そして実際にメディアとしても活用いただいています。自社でシステムを作ると金銭的にも人的にもコストがかかりますが、noteであればほとんどかかりません。基本的には無料で利用いただけますし、より高機能なことがしたければ法人向けの「note pro」もご用意しています。具体的には、採用面では企業の考え方や文化を記事として発信することで、価値観の合う人材に出会いやすくなるという声をいただいています。また、ちょっと専門的な雑誌を発行されている出版社では、noteで年間数千万円規模の定期購読収入を上げている事例もあります。
――コミュニティーづくりをサポートする具体的取り組みについて
第一に、使い勝手の良いサービスを作ることです。SEO(検索エンジン最適化)やレコメンデーションの仕組みを改良したり、SNSやメルマガなどさまざまな方法で見てもらえる仕組みを強化したりしています。
課金など収益化できる仕組みも大事ですが、機会づくりも重要な仕事です。にぎわっている街に人が集まるのは、仕事や学校、友達がいるように、そこに未来につながる機会があるからです。noteでは日本最大級の創作コンテストである「創作大賞」を開催しています。前回は約5万件の作品が集まりました。今年は38のメディアが参加して、書籍化や映像化したい作品を探しています。また、クリエーター向けには確定申告や著作権の勉強会といった実務的なサポートから、プロの作家を招いた創作の仕方を学ぶ勉強会まで、さまざまなイベントを開催。企業向けにはオウンドメディアの作り方のセミナーなども行っています。私の出版社での経験を生かして、noteのサービス自体が編集者のような機能を持っていると言えます。クリエーターが一番やりたいことは、本を書くことではなく想いを届けることです。作ることから届けること、そして、それを収益にして事業にするまでの過程をお手伝いしています。法人においても同様で、記事を見てもらうことで採用につなげたい、売り上げを上げたい、ブランド力を伸ばしたいという目的をnoteがサポートしています。
一方で「治安の良い街」作りも重要です。例えば、生成AI(人工知能)が記事を確認して配慮が必要な表現があったらアラートが表示される機能など、人とAIを組み合わせて運営しています。街の作り方というのは結構考える必要があって、にぎわいも必要なんだけど、安心感も必要だし、そこをうまくどうやって作っていくのかが重要だと思っています。
加藤 貞顕(かとう・さだあき)氏
note株式会社 代表取締役CEO
アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『ゼロ』(堀江貴文)、『マチネの終わりに』(平野啓一郎)など話題作を多数手がける。2012年、コンテンツ配信サイト cakes(ケイクス)をリリース。2014年、メディアプラットフォーム note(ノート)をリリース。