「言葉にできないものも、ちゃんと書いてある。」
以前、日本郵便の母の日の手紙啓蒙広告で
そんなコピーを書きました。
人の気持ちを載せた手紙は、
単なる情報を超えて大切なものを届けてくれる。
それをマスメディアで最も忠実に実現しているのが
他ならぬ新聞広告だと思うのです。
新聞広告はよく、企業から世の中への手紙と言われます。
だから新聞広告を出す企業の気持ちは、
手紙を出すときのあの純度と熱量で構成されている。
私は勝手にそう想像しています。
けれど、誰かに手紙をしたためるのは、
なかなか苦しい時間でもあります。
真剣に相手のことを考える。
手紙を受け取った瞬間の気持ちを想像する。
自らを強制的にデジタルデトックス状態に持っていき、
時間や魂を消耗しながらメッセージを絞り出す。
なぜそんなことをするのか。
それは「どうしても」伝えたいことがあるから。
伝えたいというより、何が何でも伝えなければいけない、
くらいの覚悟といった方が正確かもしれません。
腹を割って話す感じというか。
さらに映像メディアやデジタルメディアとちがい、
時間軸にも前後の展開にも寄りかかれない条件の中で、
その企業の人格が滲(にじ)み出るものにしなければいけない。
だから新聞広告を制作するときは、
緊張感が高まります。そしてとても疲れます。
でもそれが新聞広告と向き合うときの
制作者のあるべき姿だと思います。
気がつけばもう20年近いお付き合いになる
「バカラ」の広告クリエイティブ。
その始まりとなったのは、フランスのブランドである
バカラから日本のみなさんへ
感謝を伝えるための新聞広告でした。
それまであまり饒舌(じょうぜつ)にしゃべってこなかった
バカラという人が、これまで何を考え、
今どんな感謝を伝えようとしているのか。
広告というより手紙を書くような気持ちで書き綴(つづ)った結果、
一度きりの出稿となるはずが10年、15年と続き、
「新聞広告を商品といっしょに贈りたい」という
顧客の声まで生まれるようになっていきました。
こういう反応が時々あるから、あれだけしんどかったのに、
またつくりたいと思ってしまうのかもしれない。
これからも、そんな魅惑の新聞広告に振り回されつづける
コピーライターであり続けたい。その覚悟はできています。
野澤 幸司(のざわ・こうじ)氏
コピーライター/クリエイティブ・ディレクター
日本郵政グループ「進化するぬくもり」、中外製薬「創造で、想像を超える」 、
niko and ...「であうにあう」、日野自動車「ヒノノニトン」、
東京ガス「電気代にうる星やつら」、リクシル「いつもを、幸せに」、
SEIYU「安いクセして」、カンロ「Sweeten the Future」、
TIS INTEC GROUP「ITで、社会の願い叶えよう」、
サントリー 伊右衛門「清々、堂々」、ヘーベルハウス「地球発想住宅」、
SHIPS50周年「青いまま進む」、TBSラジオ「何かが始まる音がする」、
NTT東日本「つなぐ、を、つよく」、楽天東北イーグルス「日本一の東北へ」、
ベルメゾン「愛、のち、アイデア」、「三井のカーシェアーズ」ネーミング、
バカラの新聞広告など。毎日広告賞グランプリ、カンヌシルバー、
アドフェスト グランプリ、ACC賞、ACCクラフト賞、TCC審査委員長賞ほか。
「妄想国語辞典」(扶桑社)でAmazon本総合ベストセラーに。これまで計9冊を上梓。