新聞大会会長あいさつ

第76回新聞大会 新聞協会長あいさつ

2023年10月18日 長野県軽井沢町
一般社団法人日本新聞協会 会長 中村 史郎

 第76回新聞大会をここ、長野県軽井沢町で開催することとなりました。開催に当たり多大なご協力をいただきました、小坂壮太郎社長をはじめとする信濃毎日新聞社の皆さまに、厚くお礼を申し上げます。また、信濃毎日新聞は今年7月5日、創刊150年を迎えられました。長年にわたり不偏不党、言論の自由を貫き、地域社会への貢献を続ける信濃毎日新聞社の功績に、改めて敬意を表したいと思います。

 新型コロナウイルスの感染拡大で停滞した経済活動がようやく再開し、企業業績は回復基調にあります。一方、エネルギー価格の高騰や円安に伴う物価の上昇は、国民の消費生活に深刻な影響を与えています。言うまでもなく新聞社経営も厳しい環境にあり、2022年度「新聞社総売上高推計調査」によると、販売収入、広告収入ともに前年度実績を下回りました。新聞用紙など資材費の高騰も、各社の経営を圧迫する要因となっています。

 こうした中、新聞各社はニュースコンテンツの充実に力を入れるとともに、新たな経営基盤の構築に向けて、デジタル事業やメディアビジネスの強化に取り組んでいます。新聞協会も昨年12月、各社トップによる「デジタル特別委員会」の設置を決定し、年明けからプラットフォームや生成AIに関わる各社共通の課題について、本格的な検討を開始しました。偽情報が拡散するデジタル時代において、報道機関が提供する良質な情報の価値が正当に評価される仕組みを築き、健全な言論空間を形成していくためにも、新聞界が一致団結して適切な対応を進めることが重要です。

 プラットフォーム問題に関しては今年9月、公正取引委員会が「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」を公表しました。報告書は、報道各社が提供するニュースコンテンツは「民主主義の発展において不可欠」とした上で、プラットフォーム事業者が報道機関に対し、「優越的地位を占める可能性がある」と初めて明記しました。プラットフォーム事業者の過度な行動を独占禁止法の観点から、いわばけん制する内容になっています。今後、新聞協会として取引や関係の適正化に向けて、プラットフォーム事業者との対話を進めていくことになります。

 生成AIへの対応も急務です。生成AIは社会に利便性をもたらすことが期待される一方、偽情報の拡散や個人情報の漏えいを招く恐れがあり、さらに報道コンテンツの価値と権利がないがしろにされるリスクもあります。新技術が登場した今、新たな著作権保護策の検討は喫緊の課題です。生成AIについては、本日午後からの研究座談会で議論しますので、さらに理解を深めていただきたいと思います。

 無購読者対策は新聞界にとって最重要課題の一つです。小・中・高校生の子どもがいる無購読家庭を対象とする販売委員会のモニターキャンペーンは、今年で4回目を迎えました。1か月間、新聞を読んでもらい、新聞が子どもの学力向上に役立つことを実感いただき、試し読みから定期購読につなげる取り組みです。また、メディア強化委員会は昨年から、新聞が親の学びのツールとなることをオンラインセミナーなどでPRしています。子育て世代の新聞読者を中心とするオンラインコミュニティーでは、新聞ファンとの関係を深める取り組みも進めており、こうしたネットワークを通じて、新聞社が子どもや親の成長をサポートする存在であることを広く伝えていきます。

 全国各地の自治体で、訪問販売を一律に規制する動きが続いています。新聞販売所の優れた奉仕活動を表彰する「地域貢献大賞」などを通じて、新聞販売所が地域社会で果たす役割を広く紹介するとともに、新聞販売に関するルール順守を徹底し、行き過ぎた規制で健全な事業者の営業活動が排除されることのないよう理解を求めていきます。

 学校教育の現場では、インターネットやSNSの急速な普及と、生成AIの登場により、情報の真偽を確かめることを習慣付け、情報活用能力を育むことが重要になっています。情報を正しく読み解くスキルを向上させるには、確かな情報を発信する新聞を軸としたメディアリテラシー教育が有用であり、新聞界としてNIE活動を一層充実させることが大切です。横浜市のニュースパーク(日本新聞博物館)でも、「情報と新聞」の博物館として、メディアリテラシー教育のための展示や資料提供を充実させるとともに、親子向け・教育関係者向けのイベントを企画しています。

 新聞広告をめぐるビジネスは、新聞社の持つリソースを活用し広告主の課題を解決する形態へと変化しつつあり、新聞各社は組織を再編し体制を整えました。今年の新聞広告賞を見ても、信頼性や拡散力、到達力といった紙媒体の強みを生かしつつ、SNSやウェブ、映像、イベントなどと連動させる広告活動が目立っています。データマーケティングのビジネス展開も本格化しています。メディアビジネス部門の新たな取り組みについても、本日の研究座談会で取り上げ、現状と課題を共有いただきたいと思います。

 本日ご出席の方々との活発な意見交換、情報共有を通じて、本大会が有意義なものとなることを祈念し、開会のあいさつといたします。

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