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編集と営業の連携が鍵 デジタル改革と増収策で討議《新聞協会デジタルセミナー》

 新聞協会は22、23の両日、第5回デジタルメディアセミナーを開いた。初日は編集局のデジタルトランスフォーメーション(DX)をテーマに新聞3社の担当者が討議。デジタル事業を収益の柱とするため、編集局が営業部門と連携することが必要だとの意見が出た。2日目は、企業のマーケティングやメディアのデジタル戦略を支援する2社の社長が講演。新聞社が持つコンテンツの価値を整理し、届ける情報や適した媒体を世代ごとに変えることが重要だと説いた。

 日経の山崎浩志執行役員編集局ニュースエディターは「記事の紙面掲載を前提とした業務の流れはデジタル化の足かせとなる」と指摘する。電子版に読者が集まる時間帯に合わせた出稿体制の見直しや、夜間の電子版編集を米ニューヨーク総局で実施する取り組みを紹介した。厚みのある記事を素早く出すために、記事に添えるグラフなどの図解を記者が自ら作成できるツールも内製した。

 西日本の堺成司編集局クロスメディア報道部長によれば、同社のデジタル戦略の目的は新聞社の信用と社会への影響力を維持し、地域ジャーナリズムを持続させること。通信アプリ「LINE(ライン)」で読者から取材の端緒となる情報を得る「あなたの特命取材班」もその手段の一つだと語った。全国紙と比べ人員や資金が少ない地方紙は、紙面とデジタル用の記事を書き分けるのではなく、同じ記事を読者層の異なる複数のメディアに出すことも有効だと説く。

 デジタル事業が収入の柱として期待される中、編集局が増収にどう貢献するかについても議論した。購読料が主な収益源となる電子版では、コンテンツを出す編集局の責任はより大きくなる、と山崎氏。営業部門が担ってきた読者・会員向けイベントにも編集局が関わる必要があると述べた。朝日も11月に記事コンテンツの活用策などを検討する「ビジネス連携チーム」を編集部門に組織するとした。

 朝日はまた、記事の閲覧動向を分析する指標として有料会員の滞在時間などに基づく「読者満足指数」を設定する。野村周東京本社編集局長代理は、有料会員が求める記事を出すため取材の参考にしてほしいとしつつ「数字に引きずられる懸念は常にある。コンテンツ作りへの生かし方は手探りだ」と述べた。

客層ごとに最適化必要 若年対応は若手に裁量を(企業マーケティングの西口氏) 

 「顧客・ユーザー視点のマーケティング戦略」と題した分科会は、企業のマーケティング戦略を手掛けるストラテジーパートナーズの西口一希社長が講演した。西口氏は顧客の視点に立ち「どのニュースを、どの媒体で、誰に届けるのか」を最適化することが重要だと主張した。子育て世代には地域の不審者情報をいち早く「プッシュ通知」で伝えることなどに需要があると指摘した。

 他方、紙面では時間とお金に余裕のある中高年層向けに、余暇の過ごし方や地域の穴場紹介などを充実させることを提案した。インターネット上には地域のきめ細かな情報が少ないことから、新聞社の強みを生かせるとみる。

 若年層向けのデジタル発信の強化のためには、若手のマーケティングチームを作り、意思決定を委ねるべきだと述べた。「『どんな情報が求められているのか』を理解できる人でなければ、若年層を取り込む入り口は作れない」と話した。

ブランド戦略見直し 有料サービス定着へ(メディア支援の大東氏)

 「サブスクリプションビジネスとコンテンツ戦略」と題した分科会では、メディアのデジタル事業を支援するキメラの大東洋克社長が講演した。新聞社が持つコンテンツの価値やブランドの打ち出し方を見直し、有料サービスでの情報接触を定着させる戦略を立てるべきだと語った。デジタル事業を成功させるには「アイデアをすぐに試すことが重要だ」との考えも示した。

 各社の電子版は「お試しで課金制を取り入れたものの閑古鳥が鳴いている状態」とみる。新聞社が持つ価値を整理し、最適な情報の届け方を見いだして「言語化する」必要性を繰り返した。キメラの協力先には、2週間ごとに事業の優先順位を定め、数値目標や戦略をチーム全員で毎日共有する新聞社もあるという。

 大東氏は、新聞各社の新型コロナウイルス関連情報をまとめたウェブサイトには読者が集まる傾向が見られたものの「再訪問したいと思わせる仕掛けが足りなかった」と指摘。連載企画や個人の生活や趣味にひも付いた情報は閲覧が習慣化しやすく、これを入り口にすることが一案だと述べた。

(2020年10月23日)

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