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2008年 8月5日
今もつかめぬ被害の実態追う

神戸「石綿禍の闇 クボタショック3年」

二〇〇五年六月、大手機械メーカー・クボタの旧神崎工場(兵庫県尼崎市)内外で石綿(アスベスト)による深刻な健康被害が明らかになった。その「クボタショック」から三年。全国各地で発覚した被害の全容は今もつかめないままだ。連載(六月に計五回)は、毎回一面と別面を使って石綿禍の現在を追った。

クボタショック後、患者や遺族の救済が進められ、この六月には救済対象を広げた改正石綿健康被害救済法も成立した。しかし、石綿が原因の中皮腫によって今後四十年間で十万人が亡くなると予測されている「史上最悪の産業災害」の実態は分からないことが多い。

従業員や周辺住民の死亡が明らかになった旧神崎工場では、正規の従業員のほか多くの下請け作業員が石綿繊維が飛び散る中で働いていた。また毒性の強い青石綿が大量に使われた一九五七―七五年当時、尼崎市には全国から出稼ぎ労働者が集まり、十数万人が同工場周辺で暮らした。

連載は、下請け作業員たちの被害や周辺住民のどれだけが工場から飛散した石綿を吸ったのかなどの実態把握が進んでいない現状を報告。さらに医療現場で石綿による健康被害が広く認識されるようになったのはクボタショック以降で、潜伏期間が長い中皮腫の治療法確立を目指した臨床試験の取り組みも始まったばかりであること、石綿規制の遅れなどをめぐり、国や企業の責任を法廷で問う動きが各地で続いていることなども伝えた。

阪神・淡路大震災では復旧・復興を急ぐ被災地で崩れたり傾いたりしたビルなど十一万棟以上の建物が解体されたが、解体に伴う石綿飛散被害などの検証もこれからだ。「被害はどこまで広がっているのか。石綿禍の闇は深い」と志賀俊彦・社会部デスクは語る。加藤正文(論説委員)、増井哲夫、永見将人、岡西篤志の四記者が担当。(審査室)

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