2008年 3月4日
自衛隊の責任を追及

海上自衛隊のイージス艦「あたご」(七七五〇㌧、百六十五メートル)が二月十九日午前四時過ぎ、千葉県野島崎沖でマグロはえ縄漁船「清徳丸」(七㌧、十六メートル)と衝突、漁船は真っ二つになり漁師父子が行方不明となった。イージス艦側の見張り不十分、回避行動の遅れが指摘されている。石破防衛相への報告が遅れ、その後の説明も二転三転、防衛省があたご航海長を海上保安庁の捜査前に聴取したことが判明するなど対応の混乱も問題になった。百十本を超える社・論説が、防衛省、自衛隊の責任を追及、規律の緩みを厳しく批判した。

なぜ直前まで気がつかぬ

〈最新鋭艦〉朝日「双方の大きさや装備を比べれば、これほど圧倒的な差のある者同士の衝突はないだろう。イージス艦といえば、高性能のレーダーを持ち、複数の敵の攻撃に同時に立ち向かうことができる最新鋭艦だ。それがどうして目の前を航行している漁船に直前まで気づかなかったのだろうか。なんとも不思議である」、河北「上空だけでなく海上を監視するレーダーも備えていた。見張りの隊員も配置されていたというのに衝突してしまったのは、イージス艦の監視や危険回避の取り組みに欠陥があったからではないか。そう思わざるを得ない」、千葉「いずれにしても十分に見張りをしていれば事故は避けられたはずだ。まさか海上自衛隊の艦船などは『そこのけそこのけ大型船が通る』とばかりに当然のように小型漁船が先に回避行動をとるべきと考えていたわけではあるまい」。

〈人為ミス〉読売「あってはならない人為ミスがいくつも重なったことが原因だった可能性が高まってきた。イージス艦の乗員は、事前に漁船群の存在を認識しながら、十分な警戒態勢を取らなかった。現場は船舶の往来の多い海域なのに、自動操舵(そうだ)を続け、衝突一分前まで手動に切り替えなかった。衝突直前に、安全確認をしないまま、当直員26人全員が交代した―。自衛官として、気の緩みでは済まされない人為ミスだ」、沖縄「あたご乗組員らの慢心や思い込みなどの多重ミスが原因だったのではないか。第三管区海上保安本部の調べが進むにつれてそんな疑いが深まっている。衝突時の当直士官は、交代前の当直士官から清徳丸を含む漁船団の存在について引き継ぎを受け、把握していたという」。

〈説明一転〉北海道「見張り番が漁船の灯火を視認したのは衝突の十二分前だった。(略)防衛省がそう発表した。当初は二分前という説明だった。事故の原因にかかわる重要な情報が、なぜ最初から正しく伝わらないのか」、中日・東京「十二分前に漁船の灯火を確認しているのであれば、十分に衝突回避できたとされる。しかし、あたごは『相手がよけると思った』と自動操舵(そうだ)を続けたという。信じられない大失態だ。より責任が重くなる『十二分前』の公表を防衛省サイドがためらい、対応策に追われていたのではないかと疑われても仕方あるまい」、中国「視認したのが『二分前』でなく『十二分前』だったとの報告を受けながらも石破茂防衛相は半日近く公表していなかった。確認に手間取ったとしても事故の核心部分だけに情報操作を疑われても仕方あるまい」。

〈情報小出し〉産経「発見時刻の修正に次ぐ修正は情報を小出しにしているとの印象を強め、海保の捜査段階での防衛省の聴取は捜査妨害となる恐れがある。聴取に際し、けが人の同行を装ったことも隠蔽(いんぺい)工作と疑われる素地を作った。いずれも不適切であり、危機管理を担う役所としての機能に疑念を持たざるを得ない」、西日本「兵法では、兵力の小出しは愚の骨頂とされる。戦況劣勢ではなおさらだ。(略)情報を小出しにしては説明を変える防衛省は、そんな愚策を繰り返している」、上毛・静岡など「あたごの乗組員間での情報伝達ミス、石破茂防衛相への事故発生の一報や福田康夫首相に対する報告の遅れ、情報公表をめぐる不手際―と断片的に明らかになった事実だけを見ても、文民統制(シビリアンコントロール)が機能していないといわざるを得ない」。

「なだしお」の教訓どこに

〈規律の緩み〉日経「二十年前の『なだしお』事故をいやでも思い出す。その後、防衛省、海上自衛隊は再発防止策をとってきたはずなのに、ここ数年間は毎年のように海自の艦船による事故があり、そして今度の重大な一件だ。一体どうしたことだろう」、毎日「海上自衛隊では昨年来、不祥事が後を絶たない。刑事事件に発展したイージス艦のデータ流出に始まって、油の転用疑惑にかかわる給油量の隠ぺい、航海日誌の無断破棄。さらに昨年12月に起きたヘリ搭載護衛艦『しらね』の火災は、無許可で持ち込まれた隊員の私物が原因と見られている。これらの規律の緩みが今回の事故とどこかでつながっていないかどうか、海自は厳重に点検すべきだ」。(審査室)

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