2008年 4月29日
政府の説明不足批判

七十五歳以上を対象にした後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が今月スタート、十五日からは保険料の年金からの天引きが始まった。対象者約千三百万人の新制度だが、周知不足もあって混乱が広がっている。新しい保険証が届かない、届いても誤って捨てたなどのケースが続出、保険料の徴収ミスもあった。福田康夫首相は陳謝したものの、制度自体のわかりづらさを指摘する声も多い。三十九本の社・論説が取り上げた。

保険料増減すら不明確

〈事前努力怠る〉中日・東京「七十五歳以上の高齢者それぞれの保険料が以前の国民健康保険の保険料よりも上がるのか下がるのか、また将来どこまで保険料が上がるのかが分からず、不安を招いた。さらに子供の扶養家族だった高齢者も保険料の支払いを求められるようになった。それだけに国民に対して事前に十分説明すべきだったが、ほとんどなされなかった。皮肉にも一連の混乱でようやく制度の全体像が少し国民に知られるようになった」、日経「行政側は規定どおり天引きするのが当然と考える。だが法律の成立は二年前だ。当時、報道されていても多くの人は忘れているだろう。しかもこの間に負担増の一部凍結という重要な変更があったのに、政府は分かりやすく説明する努力を怠った。説明用パンフレットも、虫眼鏡なしでは読めないような細かな字や難解な行政用語を使っていては意味がない」、福島民報「新制度導入に当たって国の対応は泥縄だった。昨年十月下旬になって関係省令がようやく示された。制度名称の『後期高齢者』がやり玉にあがると通称を『長寿』とするなど小手先の対応だ。国が後手に回っただけに、啓発パンフレットを県内全世帯に配布した県広域連合や説明会を開いた市町村の事前周知にもある程度限界があったろう」。

〈低所得で負担増も〉北海道「新制度で、三月までの保険料より『低所得者は負担減、高所得者は負担増の傾向』と強調していたが、あながちその通りにはいかないことも分かった。国民健康保険で自治体が独自に行ってきた高齢者の負担軽減策がなくなり、低所得者でも負担増になるケースが少なからずあるためだ。都合のいいことばかりアピールしていないかとの疑いが消えない」、中国「保険証の素材や大きさは、県によって異なっている。広島県や島根県は、はがきより一回り小さい紙一枚であるのに対し、山口県はカード型を採用した。長年、三つ折りの健康保険証になじんできたお年寄りの間に、戸惑いが広がるのも当然といえる」、沖縄「かなりの当事者がその中身を知らない制度とは何なのか。七十五歳以上の人たちを『後期高齢者』という名でひとくくりにし、この世代だけを対象にした医療保険制度を設けたこと自体、無理があったのではないか」、新潟「医療の現場でトラブルが出てくるのは、むしろこれからだろう。新制度は保険料の滞納が一年以上続けば保険証が取り上げられ、医療費の支払いはいったん全額自己負担となる。お年寄りが必要な受診まで控えて、容体を悪化させることになったら大変だ」。

年金制度の改革を急げ

〈生活の懸念拡大〉産経「保険料の年金天引きには批判が強い。だが、民主党の主張のように天引きをやめても、負担がなくなるわけではない。むしろ天引きは窓口で支払う手間が省ける。納付漏れを少なくするにも有効な手段だ。お年寄りにも冷静な対応を求めたい。『天引き後の年金額では生活できない』との不安も広がっている。制度は複雑で理解しづらい。政府は戸別訪問などきめ細かな対応を講ずるべきだろう」、毎日「福田首相は混乱の原因を『説明不足』としたが、本当にそれだけだろうか。むしろ、制度の中身や保険料水準、さらには地方との連携、準備などに問題があったのではないのか。新制度が発足したばかりで言い出しにくいとは思うが、過ちを改めるなら早いほうがいい」、朝日「天引きをやめたところで、保険料を払わずに済むわけではない。それでも批判に共感が集まるのは、天引き後の年金で生活できるのかという不安感がお年寄りの間に強いからだ。制度改正から2年も準備期間があったのに、これまで何をやってきたのか。ずさんで役所の都合優先の仕事ぶり。年金問題で露呈したのと同種の病根がここにもある。厚生労働省は不安の払拭(ふっしょく)に努める責任がある」、読売「新制度がめざす方向は超高齢時代に沿ったものだ。しかし、説明不足のままでは、高齢者が混乱するのは当然だろう。年金からの天引きに拒否反応が強いのは、年金制度自体がしっかりしていないことや、年金の少ないお年寄りが多いためでもある。今回の混乱によって、年金改革が急務であることもまた、浮き彫りとなった」。(審査室)

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