2008年 7月1日
未知の断層に警戒を

六月十四日朝、岩手県南部を震源とするマグニチュード7・2の強い地震があり、岩手県奥州市と宮城県栗原市で震度6強を観測した。震源の浅い内陸直下型で、山間部では土砂崩れが多発、道路が寸断されて孤立する集落も相次いだ。栗原市の温泉旅館が土石流にのまれて宿泊客らが犠牲になるなど死者・行方不明は二十二人。土砂が川をせき止めた「土砂ダム」などによる二次災害の恐れもあり、避難所生活を続ける住民も多い。孤立集落対策などの課題を残した「岩手・宮城内陸地震」を六十本を超す社・論説が取り上げた。

都市部と違う対策が必要

〈直下型〉日経「東北地方では宮城県沖や三陸沖で数十年おきに繰り返し起きる海溝型の大地震への警戒感が強かった。しかし、今回の地震は内陸部の直下型だ。阪神大震災や昨年の新潟県中越沖地震などと同じタイプの地震である。震源域近くにはよく知られている活断層が存在するが、未知の断層が動いた可能性があるともいう」、新潟「中越地震や中国・四川大地震と同じ逆断層型だ。震源地付近の岩手県南部には五つの活断層があるとされるが、地元の地震研究者は『今回の震源域はこれまで知られていない場所だ』と言う。日本は地震の活動期に入ったとされる。今回の地震はこれを裏付けるものといえないか」、神戸「(奥州市の)石淵ダムでは震度7相当の二一〇〇ガルの加速度を観測した。内陸部でこれほど大きな地震が起きたことに、あらためて警戒を強める必要がある。(略)未知の活断層はないかどうかも含め、詳細な調査が必要だろう」、産経「地震は山間部を襲った。これが都市域で発生していたらどうだろう。大都市の住民は、想像力を働かせ、地震防災の教訓とすべきであろう。(略)直下型を起こす活断層は、わかっているだけで2000にも上る。次は関東や近畿の都市域で動くかもしれないのだ」。

〈土砂災害〉朝日「山あいの地形は、崩れやすい。雨の季節ならなおさらだ。だから土砂災害が地震の被害を増幅する。今回もその怖さを見せつけた。茶色い山肌がむき出しとなり、地形が変わるほど崩落した場所がある。崩れた土砂が道路をのみ込み、橋がぽっきりと折れたところもある」、河北「栗原市・荒砥沢ダム付近上空からの映像は衝撃的だった。山並みの一部が一キロ四方にわたって深さ百五十メートルほど陥没したように見える。防災科学の専門家によると、国内最大級の地滑りという。もともと火山灰が積もった地層で発生しやすく、雨による崩落はこれまでも繰り返されてきた」、中日・東京「農村や山間部の集落には、都市部とは違った地震対策が必要だ。しかし平成の大合併で、広い面積を抱えた自治体が増えた。人口の希薄な集落が点在するところで、土砂災害の防止事業の効率も考える必要がある」。

〈孤立集落〉山陽「今回の地震の特徴は、外部と行き来できなくなる孤立集落が続出したことだ。最大で七百人以上が一時山あいに取り残された。(略)孤立した人は『道も閉じているので外の様子が全く分からなかった』と恐怖を語っていた」、読売「内閣府は05年に、孤立集落の発生に備えた災害対策をまとめている。情報収集や物資輸送、救援のため、夜間を含めヘリコプターに飛行してもらう、自衛隊、警察のオフロードバイク隊などにも出動を求める、などだ。あらゆる手を尽くして、漏れをなくすことが大切だ」、毎日「農山間地では消防団員の減少や団員の高齢化などによって地域防災力が都市部より大きく低下しているのが実情だ。自衛隊への出動要請や消防、警察の救助隊の派遣などは、空振りになることを恐れず、早め早めに手を打ちたい」、岩手日報「日本建築学会は二〇〇五年、建物の耐震性強化や集落ごとに地域の特性に応じて防災対策を築き継承する―など、中山間地向けの提言をまとめた。中越地震後、県が地震や津波、風水害で孤立する恐れのある地域を調べたところ、三百近くに上ることが分かっている。この提言は今でも生きている」。

情報活用できる態勢作れ

〈緊急速報〉西日本「地中を速いスピードで伝わる初期微動(P波)をとらえ、本震の大きな揺れ(S波)が来る前に地域に知らせる気象庁の緊急地震速報は、どう機能したか。震源地から少し離れた地域では本震が来る数秒前に速報が出たものの、今回の地震が内陸直下型だったため、震源に近い地域では本震の後になったようだ。これが、緊急地震速報の可能性であり、限界でもある」、信毎「(緊急速報の最大の問題は)住民がその情報を十分に活用できる態勢が整っていないことだ。速報の精度を高める努力が引き続き必要なのはいうまでもないが、一人でも多くの住民に素早く伝えるシステムづくりが必要である」。(審査室)

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