2008年 9月9日
国威発揚あまりにも

史上最多の二百四か国・地域が参加し中国で初めて開催された第二十九回夏季五輪北京大会は八月二十四日、十七日間の熱戦の幕を閉じた。開幕直前に新疆ウイグル自治区でテロが発生、期間中にはグルジア紛争が勃発したが、大会運営は厳戒警備の下で大きな混乱はなかった。競技では世界新が続出するなど感動的な場面が多かったが、全般的に中国の国威発揚ぶりが目立ち、開会式の壮大な歴史絵巻や豪華な演出が話題を呼んだ。閉幕に当たり約六十本の社・論説が、大会と五輪後の中国を論じた。

運営は大きな混乱なく

〈不安の中で〉河北「近年、これほどまでに関心が高まった五輪はあっただろうか。四年に一度のスポーツの祭典としてだけでなく、世界がいささかの疑念と不安を抱きながら、政治や経済体制にも目を凝らしていた五輪といえる」、沖タイ「『無事、終わった』という表現が適切かもしれない。人権抑圧に環境問題、食の安全にテロの脅威。さまざまな問題を内に抱え、開幕後も大会運営に対する懸念が消えなかったからだ」、信毎「大きな混乱もなく、成功したといっていい。参加国・地域は過去最多を数えた。これだけ規模の大きな五輪を開催したことは中国にとって大きな財産になるだろう。同じアジアの一員として喜びたい」、高知「残念なのは開幕に合わせるかのように起きたグルジアとロシアの軍事衝突だ。(略)スポーツを通じた平和運動という五輪精神に泥を塗ったのは間違いない」。

〈中身は濃く〉茨城・日本海など「この大会はなかなか中身の濃い五輪といえる。それは陸上のウサイン・ボルト(ジャマイカ)と競泳のマイケル・フェルプス(米国)という二人のスーパースターの活躍があったからだ。(略)五輪史的には、この大会は二人の超人の五輪だったと記憶されることになるのだろう」、新潟「日本選手も健闘した。百、二百メートル平泳ぎを連覇した北島康介選手は、メダルの重圧や高速水着問題の雑音を振り払う快泳だった。二日間で三試合四百球以上を一人で投げ抜いたソフトボールの上野由岐子投手には、大きな勇気をもらった」、西日本「獲得メダル数は前回アテネ大会より少ないが、ソウル、バルセロナ、アトランタ、シドニーよりはるかに多い。それ以上は望みすぎというものだ」、山陽「目指した金メダル二けた総メダル数三十個以上には届かなかった。しかも二大会連覇の選手が多い。裏返せば若い層の育成が課題といえよう」。

〈異質さ露呈〉産経「『人間の尊厳保持に重きをおく、平和な社会を推進する』との理想をうたうオリンピック憲章に照らしてみるとき、北京五輪に『合格』の評価を与えるには、いくつかの留保をつけざるをえない。まず、五輪開催国が最優先すべきである報道・言論の自由と人権が完全に保障されていたかどうか。これは疑わしい」、読売「熱戦が繰り広げられている最中にも、ウイグル族やチベット族などの少数民族への弾圧は止(や)まず、人権や言論の自由に対する抑圧は続いた。伝えられた数々の『偽装』の中でも、開会式での民族融和の演出は異質だった」、日経「人権問題、報道の自由、民主化などの面では異質さが目立った。世界は急速に台頭する中国にどう向き合えばいいのか。五輪はこうした疑問も投げ掛けた。中国は世界の視線が厳しいことを十分に自覚し、国際社会と協調していく『責任ある大国』の道を歩むよう期待したい」。

簡素で平和的な祭典を

〈違和感残す〉毎日「国家の威信をかけたナショナリズム五輪だった。この点で『第2のベルリン五輪』という見方がある。『完ぺきな美』を追求するという国家権力の論理が、開会式映像のコンピューターグラフィックス偽装や愛国歌少女の口パク偽装などにつながった。過剰な警備がまかりとおり、観衆の『中国・加油(がんばれ)』というあまりにも偏った叫びは、排外的な過激ささえ感じさせた」、中日・東京「つまりこれは、オリンピックの光と影を双方ともに浮き彫りにした大会だったのだ。そして、華やかではあったが、どこかに違和感を残したまま、十七日間が過ぎたように思われる。違和感の元は、あまりにも強すぎ、むき出しに過ぎた国威発揚の意識と、巨費をかけた豪華さの裏にひそむ空虚であろう」、北海道「それにしても巨大さが印象に残る大会だった。中国は米国を抜き、金メダル獲得競争に勝利したが、あらゆる場面で国の威信が顔をのぞかせた。(略)簡素で、環境に優しく、市民が交流を深め、平和を確信できるオリンピックこそが、これからの時代にふさわしい」、朝日「競技施設を惜しみなく建て、人を大量に動員する。そんな豪華な五輪は今回の中国が最後だろう。質素で中身の濃い祭典をどうつくるか。その課題は4年後のロンドン大会へ引き継がれる」。(審査室)

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