2008年 9月30日
対応後手で混乱加速

米大手証券リーマン・ブラザーズが十五日、米連邦破産法の適用を申請して経営破綻(はたん)した。米政府が公的資金による救済策を取らなかったため、世界の株式、外国為替、金融市場が大きく動揺した。だが米政府は一転、経営危機に陥った保険世界最大手のAIGに対しては公的資金投入による救済に踏み切り、金融機関から不良資産を買い取る制度の導入など金融安定化策を打ち出した。不安が広がる「米国発の金融危機」を六十七本の社、論説が取り上げた。

公的資金投入やむを得ず

〈揺れた決断〉読売「(米当局は)金融危機への対応で後手に回り、世界の金融システムを揺るがす事態を招いた責任は重い。公的資金投入を見送った米証券4位のリーマン・ブラザーズは経営破綻した。保険最大手AIGについては公的資金で救済した。場当たり的にもみえる対応が、混乱を加速させている」、信毎「政府・金融当局が、事態の急展開に振り回され、後手に回った印象はぬぐい切れない。大規模な公的資金の投入については、米国内には賛否両論がある。だが、これまでの経緯を踏まえれば、やむを得ないだろう」、北國「金融危機を経験した日本でも、金融機関への税金投入には強い批判があったのを思い出す。今振り返って思うのは、中途半端な救済や小手先の措置では、市場に信頼されず、問題解決を長引かせるだけに終わるという苦い教訓ではなかったか」、西日本「米国はいま、日本のバブル崩壊後と同じ過ちを犯しているように見える。金融機関の損失拡大が貸し渋りを招き、実体経済が悪化する結果、損失がさらに拡大する悪循環を放置していることだ」。

〈連鎖の回避〉朝日「米政府が腹をくくった。金融機関が抱える不良資産を買い取るため、公的資金を数千億ドル、数十兆円相当を投入する方針を打ち出したのだ。(略)だが、問題も少なくない。将来の値下がりを織り込んだ安い価格で買い取ると、売り手の金融機関の側で損失がふくらみ、破綻に追い込むことも考えられる」、産経「日米欧の中央銀行が、米国発の金融危機の拡大を抑止するため、協調してドル資金を供給することで合意した。(略)ただ、こうした対策は、サブプライムローン問題の核心に迫る解決策ではなく、不測の金融システム危機に備えたバックアップ体制を整えたにすぎない」、毎日「経営破綻の懸念が小さい金融機関まで、資金繰り難から〝突然死〟に追い込まれ、パニックの連鎖が起きかねない状況になりつつあった。主要中央銀行が各国の市場で一斉にドルの資金供給を行うのは、こうした新段階の危機に対処するものだ」、日経「危機の根っこにあるのは、流動性の問題ではなく、損失を膨らませた米国の金融機関の資本の脆弱(ぜいじゃく)さである。この点についての米当局の対応は、問題の後追いになっている感は否めない」、沖縄「世界経済全体が沈没するような事態を避けるためには、米国流金融資本主義の野放図な振る舞いに歯止めをかける国際的な取り組みが必要だ」。

〈消えぬ不安〉中日・東京「危機の根源にある米住宅市場は依然、値下がりを続けている。住宅価格が下げ止まらない限り、金融機関は新たな不良債権を抱えてしまう。グリーンスパン前FRB議長は現状を『百年に一度の危機』と表現した。壮大な住宅バブルのつけを処理して、金融界が安定するまで、なお時間がかかるだろう」、高知「大規模な混乱はひとまず回避できたとの見方が強いものの、危機の長期化懸念は根強い。負の連鎖を断ち切り、金融システムを維持することに全力を挙げるときだ」、茨城「危機拡大を防ぐため(米政府が)方針を転換したことは評価できるが、住宅価格の下落が続き、不良債権の全体像は分かっていない。これで金融危機が収まるのか、破たんの連鎖が止まるのか、依然不透明だ」。

日本経済にとって正念場

〈対岸の火事でない〉中国「『日本の金融機関は自己資本に厚みがあるから大丈夫』というのが日本政府の見方である。(略)一部は担保などもあるというが、どの程度の損失があるのか、まず実態の把握を急ぐべきだ」、神奈川「『円高、株安、原油高』のトリプル要因が、日本経済に影響を及ぼすのは避けられない。米国は住宅問題が解消されない限り、回復への道のりは描き切れず、輸出が牽引(けんいん)役を果たしてきた日本経済にとっては正念場だ」、北海道「日本の政府・与党からはこの事態に真剣に取り組もうとの姿勢が伝わってこない。あたかも対岸の火事のような発言も見受けられる。(略)首相の退陣表明と総裁選による『政治空白』で、国民の不信は高まっている。政府・与党はこの事態をもっと重く受け止めねばならない」。(審査室)

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