2008年 10月28日
米譲歩、核検証に懸念

米国政府は十一日、北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除したと発表した。指定解除は六月二十六日に米議会に通告後、核検証で北朝鮮と対立、見送られてきた。今回、中断していた寧辺の核施設の無能力化作業を再開すると北朝鮮が表明し、申告した核施設への立ち入り調査も認めたため、米側と合意した。未申告施設の検証があいまいなことや拉致問題への影響など、懸念の残る決着だった。四十一本の社・論説が取り上げた。

未申告施設検証に抜け穴

〈実効あるのか〉徳島「北朝鮮が寧辺の核施設を復旧させる動きを強めたため、米国もこれを無視できなくなった。六カ国協議を通じて進めてきた非核化のプロセスが一気に後退してしまうことを恐れたのだろう。北朝鮮は米国の足元を見透かしながら譲歩を引き出したといえる。大韓航空機爆破事件が起きた翌年の一九八八年一月の指定以来、実に二十年ぶりの解除である。(略)これ以上、北朝鮮のペースに乗せられてはならない」、読売「譲歩を重ねてきた米国の対北朝鮮交渉の経緯や、北朝鮮のこれまでの行動を振り返れば、実効ある核検証を実現できるのかどうか、疑念はぬぐえない。北朝鮮の核申告書の中心は、核兵器の材料となるプルトニウムの生産記録だ。検証手続きは、少なくとも、北朝鮮が生産、保有しているプルトニウムの全量を確認できる内容であるべきだ」、日経「指定解除は北朝鮮を六カ国協議の場に戻し、核問題解決を促すために不可避だったとの見方もあるが、(ブッシュ政権は)次期政権の対北朝鮮政策を縛る妥協はすべきではなかった。北朝鮮は『核』の脅しで相手の譲歩を迫る常とう手段がなお有効だと確信したはずだ」、中日・東京「『核の検証』の枠組みを受け入れた見返りですが、残りが少ないブッシュ政権が大幅に譲歩したため、『抜け穴』を残しています。それもあり、金総書記にとってテロ解除は米国の敵視政策を撤回させた『歴史的勝利』です。同時に、対米交渉でのしたたかさは、国内でも口コミで伝わり始めた〝重病説〟を打ち消す格好の材料になりそうです」、西日本「抜け穴がある。未申告施設の検証には、北朝鮮側の『同意』が必要という条件が付けられた。核兵器の製造や核実験に関する施設などへの検証を、北朝鮮が簡単に認めるとは思えない」。

〈交渉はこれから〉朝日「指定解除にあたってはもっと厳密で広範な検証の約束を取りつけるべきだったろうが、今回の合意でも核兵器材料のプルトニウム抽出の実態に迫ることはできる。このままでは、流れ全体が滞ってしまいかねなかった以上、米国の選択にはそれなりの意味があると考えたい。(略)北朝鮮に核を放棄させる交渉の正念場はこれからだ。6者協議を速やかに再開して、今後の検証の具体的な内容や手順を詰めねばならない」、東奥「停滞していた六カ国協議が、第二段階から核廃棄につながる最終段階に進み、朝鮮半島の非核化に一歩近づくという点では意味ある合意と評価したい。だが、日本にとっては難しい局面に入ったとも言える。核・ミサイル問題ととも重視しながら足踏み状態にある拉致問題が、置き去りにされかねないからだ」、神戸「米朝の関係改善につながる転機になるとはいえ、日本にすれば、拉致問題の解決が遠のきかねない事態である。日本外交は戦略の練り直しを急がねばならない」。

日本の交渉能力問われる

〈拉致後退許さず〉産経「指定解除後も米国は核実験や人権侵害などで多くの制裁を維持し、実質的影響はない。日本も独自の制裁を延長した。とはいえ、北が『敵視政策の象徴』としてきたテロ支援国リストから除かれる象徴的意味は大きく、その影響は拉致問題にも及ぶだろう。(略)日本政府はあくまで厳正かつ包括的な検証の実現を要求し、拉致問題解決についても日米の連携を改めて確認すべきである」、毎日「この指定は日本人拉致問題解決のための日朝協議に北朝鮮の参加を促す役割も果たしてきた。解除でそのテコが失われる。日本が半年間延長した独自の対北朝鮮制裁の効果を薄める結果にもなりかねない。(略)日本政府は当面、6カ国協議の枠組みを通じて北朝鮮の核計画の厳密な検証を求め続けるべきだ」、新潟「実効性ある検証体制を構築するために、日本は関係国と緊密に連携すべきだ。北朝鮮への見返りとなる重油支援の問題もあり、交渉能力が問われる」、北海道「指定解除に対し、(拉致)被害者からは落胆や怒りの声が出ている。ブッシュ大統領は麻生太郎首相との電話会談で、拉致問題の重要性を再三強調した。その言葉を具体的な形で示してもらいたい。日本は米中韓と緊密に連携し、引き続き拉致と核の両面で北朝鮮に解決を迫っていかねばならない」。(審査室)

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