2008年 11月25日
政府は「暴走」許すな

田母神俊雄航空幕僚長が「わが国が侵略国家だったというのは濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)だ」などと戦前の日本の侵略と植民地支配を正当化する自説を民間企業の懸賞論文で展開、「政府見解に反する」として十月三十一日に更迭された。定年退職となった田母神氏は十一月十一日、参院の外交防衛委員会に参考人招致され、自分の歴史観の正しさを主張し続け改憲の必要性にまで言及した。更迭から参院招致まで八十本を超す社・論説が取り上げた。

正当化は議論のすり替え

〈薄気味悪さ〉岩手日報「昭和初期のわが国では世界恐慌を背景に軍部が次第に発言権を強め、ついには戦争への道を踏み出した。そして現在、世界的な金融危機というタイミングで、こうした発言が出てきたことに薄気味悪さを覚える」、琉球「驚きを通り越して、あきれるほかない。いや、旧日本軍の亡霊が生き返ったかのような錯覚さえ覚えて、あぜんとする思いだ」。

〈言論の自由〉茨城・長崎など「個人の思想信条の自由が認められていることは言うまでもない。だが防衛相らを補佐し唯一の武装組織である自衛隊を率いる一人として職責上、政治の統制に服する義務がある。持論が正しいかどうかではない。自分の論文は間違っていないと繰り返すのは議論のすり替えにほかならない」、読売「昭和戦争などの史実を客観的に研究し、必要に応じて歴史認識を見直す作業は否定すべきものではない。だが、それは空幕長の職務ではなく、歴史家の役目だ。(略)(田母神氏の論は)『言論の自由』を完全にはき違えた議論だ」、産経「第一線で国の防衛の指揮に当たる空自トップを一編の論文やその歴史観を理由に、何の弁明の機会も与えぬまま更迭した政府の姿勢も極めて異常である。(略)個人の自由な歴史観まで抹殺するのであれば、『言論封じ』として、将来に禍根を残すことになる」。

〈組織的広がり〉日経「空自小松基地『金沢友の会』の会長は『真の近現代史観』をめぐる懸賞論文を企画したアパグループの代表である。田母神氏は小松勤務の経験がある。(略)懸賞論文の応募総数二百三十五件のうち九十四件が航空自衛官だったのは、代表と空自首脳部との関係と無縁ではないだろう。田母神氏自身も『航空幕僚監部教育課長に紹介した』と認めた。空自内部に一定の歴史観を広める結果につながっていないだろうか」、毎日「(統合幕僚学校に田母神氏が新設した)『歴史観・国家観』講座は現在も続いている。(略)『大東亜戦争史観』『東京裁判史観』などが並ぶ。(略)田母神氏と同様の主張が幹部教育の場で行われていたのではないかとの疑念がわく。もしそうなら、偏った歴史観を持つ自衛隊幹部が量産され、第2、第3の田母神氏を生む仕組みが作られていたことになる」、西日本「空自に『田母神史観』が浸透しているとすれば、見過ごせない。自尊心をくすぐる威勢のいい言葉は、耳に心地いい。不祥事続きで、肩身の狭い自衛隊員の鬱屈(うっくつ)も分かる。だが、一部の突出した軍人の声が組織全体を覆い、侵略戦争への坂を転がっていった過去の教訓を忘れてはならない」。

断固とした処分をすべき

〈文民統制―政治の責任〉朝日「自衛隊の部隊や教育組織での発言で、田母神氏の歴史認識などが偏っていることは以前から知られていた。防衛省内では要注意人物だと広く認識されていたのだ。なのに歴代の防衛首脳は田母神氏の言動を放置し、トップにまで上り詰めさせた。その人物が政府の基本方針を堂々と無視して振る舞い、それをだれも止められない。これはもう『文民統制』の危機というべきだ」、北海道「危惧(きぐ)するのは、自衛隊運用の根本となるべき文民統制が形骸(けいがい)化していることである。(略)文民統制を強化するなら『自衛隊は動けなくなる』と批判し、憲法改正を明言した。委員会終了後には、侵略と植民地支配を認めた村山首相談話は『言論弾圧の道具だ』とまでエスカレートさせている」、山梨「インド洋へ海自、イラクへ陸自と空自の派遣を進めた小泉政権以降、政治家が制服組の軍事専門知識や経験を必要とし、制服組は発言力を増していったようだ。そんな側面が、制服組のおごりを助長してこなかったか。田母神氏の暴走を許した政治の責任を、しっかり検証する必要がある」、中日・東京「〝暴走〟を放置してきた政治の責任も重い。自民党の国防関係合同部会では擁護論すら飛び出したという。何をか言わんやだ」、新潟「浜田靖一防衛相は懲戒手続きを取らなかったことについて『(持論を展開されると)自衛隊の士気が落ちる』と釈明した。制服トップとしてあるまじき行いをした者を処分できずに士気もヘチマもあるまい。理非曲直を明確にするためにも断固とした処分を行うべきだ。文民統制とはそういうことだ」。(審査室)

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