1. トップページ
  2. 刊行物
  3. 新聞協会報・紙面展望
  4. 低炭素革命へ「不十分」

2009年 6月23日
低炭素革命へ「不十分」

温室ガス「05年比15%減」をめぐる社説
経済・国民の負担懸念も

麻生太郎首相は10日、2020年までの温室効果ガス排出量を「05年比15%減」(90年比8%減)とする中期目標を発表した。EUの13%減、米国の14%減を上回る数字で、首相は「極めて野心的」と強調した。太陽光発電やエコカーなどの国内対策で達成するとし、1世帯当たり年間7万円超の負担が必要との試算も示した。今後の国際的な枠組み(ポスト京都議定書)交渉での日本の基本的な立場となる。39本の社・論説が取り上げた。

首相の強い意志が見えぬ

《野心的か》北海道「首相は記者会見で、他の先進国を上回る野心的な目標数値だと胸を張った。(略)しかし、首相が力むほどに国際社会にアピールできる内容とは思えない。むしろ自国に都合のいい数字を並べただけとの印象ではないか」、京都「基準年は現行の90年比でなく05年比とした。(略)基準年の変更で欧米を上回る数字をはじき出し、交渉で主導権を握る狙いだ。しかし、この間、排出量を増やし続けた日本の失政は隠れてしまう。EUや中国などから批判を浴びそうだ」、茨城・静岡・日本海など「有力視されていた14%削減の選択肢より1%厳しくした。ごくわずか政治加算することで麻生首相の指導力を示そうとした苦心の跡はうかがえる。(略)しかし、石油や石炭など化石燃料の大量消費から脱炭素社会へ大きく転換する低炭素革命を進めるのに十分かと問えば、疑問がなお残る」。

《理念欠く》毎日「目標の土台となるビジョンが欠けている。『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)』は、地球の温暖化被害を抑えるには、20年までに先進国全体で90年比25~40%の削減が必要としている。こうした科学的判断に基づき、将来の地球をどうするのか。日本の社会をどう変えていくのか。首相はそうした未来像を描いていない」、日経「温暖化防止は将来の子孫に残すべき地球のありようを問うている。科学が予見している地球規模の気候変動と被害を抑える強い意志があるか。それが問題の本質である。目先の利益にとらわれず、将来をにらんで経済や社会を変える。その強い意志を示すのが政治の役割である。中期目標からこの強い意志はほとんど見えてこない」、河北「現在の産業・社会構造を前提とした目標である。これでは、長期目標が掲げる脱化石燃料による低炭素社会が遠のきはしないか。企業にも国民にも生産構造とライフスタイルの転換を強く促そうという首相の意欲がくみ取れないのが残念だ」。

《負担重い》読売「決して容易に達成できる目標ではない。(略)大幅な削減には厳しい排出規制が必要だ。それは経済の停滞や国民の負担増につながる。14%の削減でさえ、国内総生産(GDP)を押し下げ、失業者が11万~19万人増えるという試算がある。削減率について、首相が『大きいほど良いという精神論を繰り返すのは、国民に対して無責任だ』と指摘したのは的を射ている」、産経「この中期目標は国の経済と国民生活にかなりの苦痛を強いる数値である。(略)日本の中期目標がそのまま義務化されると大変なことになる。下方に数値の幅を広げ、弾力性を持たせることが不可欠だ」、北國「世界一の省エネ国家が背負う目標としては、あまりにも重く、先行きが思いやられる。京都議定書の削減目標すら達成できない日本は、海外から排出権を買うために官民併せて一兆円近くの支出を余儀なくされる。これに新たな目標が加わると、企業収益が圧迫され、1世帯あたり年間4万~15万円の所得減を招くという。この試算がどの程度理解されているのか、負担増の覚悟が国民にあるのか、はなはだ疑問である」。

産業構造変える覚悟必要

《起爆剤に》西日本「首相としては、世界に通用する実現可能な目標で、産業界の国際競争力や国民負担にも目配りし、ぎりぎりのバランスを熟慮した末の政治決断だろう。これをどう評価すべきか。国内では、賛否両論あるが、どんな目標にしても国民のライフスタイルや産業構造を変える覚悟が求められるのは確実だ」、朝日「肝心なのは、温暖化をいかに防ぐかである。(略)できるだけ早く、国内の産業や社会の構造を変えていかねばならない。いまこそ、排出量取引や炭素税のような大胆な政策についても検討を進め、国を挙げて低炭素化にかじを切るべき時だ。(略)削減目標は低炭素革命の起爆剤なのだ、と考えたい」、中日・東京「日本は九〇年比6%減らすどころか、約9%増やしている。約束達成は不可能だという意見が、現実味を帯び始めている。なぜ削減が進まないのか。中期目標の設定を機に、もう一度振り返ってみるべきだ。(略)数値の高さ以上に大切なもの、それは、世界に示した目標を徹底して追い掛けることである」。(審査室)

ページの先頭へ