2009年 9月1日
市民が下した「厳罰」

初の裁判員裁判をめぐる社説
評議実態知る手立てを

全国第1号となった女性刺殺事件をめぐる裁判員裁判が8月3日から、東京地裁で行われた。6日の判決公判では、裁判員6人と裁判官3人の評議の結果、殺人罪に問われた被告男性(72)に懲役15年の実刑(求刑同16年)が言い渡された。審理した事件は近隣トラブルであり、被告や被害者の日常の言動を市民感覚で判断し、厳しい刑が選ばれたと思われる。裁判員6人と補充裁判員1人は記者会見し、「大役を終えられた」「心が揺れた」などと感想を語った。裁判の開始・判決を74本の社・論説が取り上げた。

分かりやすい工夫、随所に

《様変わり》毎日「検察官や弁護人は難解な用語を平易な言葉に換え、写真やイラストを使うなど、周到な準備でわかりやすい説明に努めた。(略)難解な専門性を砦(とりで)としてシロウトを踏み込ませなかった司法に国民感覚の風を吹き込むのが裁判員の役割である」、北海道「『わかりやすい』裁判の工夫が随所に見られた。当初はほとんど質問しなかった裁判員も、3日目には6人全員が被告人に供述の疑問点などを問いただした。法廷が大きく様変わりしたことを印象づけたことは間違いない」、南日本「裁判所、検察側、弁護側が『見て、聞いて分かる』裁判に向けて、周到な準備で臨んだ成果だろう。判決文も平易な言葉でつづられ、『開かれた司法』に一歩踏み出したことは評価できる」、産経「6人の裁判員は、緊張と精神的な重圧を受けながら、検察、弁護側の意見に耳を傾け、被告人に活発に質問した。『市民参加の裁判員裁判』という目的は、立派に達成できたといえる」。

《量刑に焦点》朝日「プロの法律家だけによるこれまでの裁判で積み重ねられた『量刑相場』に比べ、『懲役15年』をどう評価すべきか。評議の内容は非公開で、軽々には判断できないが、市井の人々がみずからの感覚を生かして真剣に取り組んだ結果は重く受け止めるべきだろう」、新潟「今回の裁判は被告が罪状を認めているため、量刑が焦点となっていた。(略)裁かれる側だけでなく、いつ裁判員に選任されるかもしれない国民が知りたいのは、『なぜ15年としたのか』だ。それが不明では『市民参加』であっても開かれた裁判とはいえまい」、秋田「市民が刑事裁判に参加すればどうなるか。最も端的に表れたのは、やはり判決そのものだろう。通常は求刑の7~8掛けとされる。それよりかなり重い結果となったのである。(略)裁判員制度導入の目的である『市民感覚の反映』が『厳罰化』を生むとすれば、果たしてこのままでいいのか」。

《重い体験》上毛・日本海など「裁判員の1人が体調を崩して補充裁判員と交代したことは、裁判員という立場の重さを感じさせる。ストレスによるものなのか、検察側が遺体の写真を示したことは影響していないのか。これから裁判員になる人に漠然とした不安を抱かせないためにも、もし、そのような影響があったのであれば、立証方法を見直すなどきちんと対応することが必要だ」、読売「連日の公判が、裁判員にとって大きな負担であったことは間違いあるまい。死刑か無期懲役かの判断などを迫られる裁判では、負担は、さらに増すだろう。最高裁は、既に設置した電話相談窓口を円滑に機能させるなど、裁判員の心のケア対策に万全を期していく必要がある」、京都「裁判員や補充裁判員を務めた7人が記者会見で『大役を終えられた』と達成感を語った。(略)同時に『心が揺れた』『これでいいのかとの思いが消えない』と、人を裁くことへの迷いや葛藤(かっとう)が語られたのを重く受け止めたい」。

守秘義務の見直しも必要

《浮かぶ課題》中日・東京「課題も浮かんだ。第一に弁護人の負担である。視覚に訴える分かりやすい立証のためには、準備に労力と資力が必要だが、弁護人は組織に支えられた検察官に比べ圧倒的に不利である。(略)関係者が対等、公平に立証、主張し、多様な背景を持つ人々がそれについて真摯(しんし)な議論を尽くすことで、裁判は公正と評価される」、山陽「裁判員の一人は会見で、『お上』に何も言えなかった日本に裁判員制度が生まれたことを喜び、個人個人が声を上げないと社会は変わらないと語った。そのためには守秘義務の見直しや評議の仕方の公開検討も含め、国民が情報を共有し参加する民主的な制度へ向けた法曹界の努力がより必要だ」、日経「判決要旨を読んだだけでは、評議の進め方や結論の導き方は分からない。裁判員が意見を十分に言えたのか、意見は判決にどの程度反映されたのか、裁判官は裁判員と対等の立場で接したかなど評議の実態を知る手立てがなければ、裁判員裁判を望ましい姿に近づける制度改善の議論はできない」。(審査室)

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