2009年 11月3日
民営化路線を大転換

郵政見直しと社長交代をめぐる社説
「脱官僚」に矛盾と指摘

鳩山内閣は10月20日の閣議で郵政民営化を大幅に見直す「郵政改革の基本方針」を決定し、日本郵政の西川善文社長は辞意を表明した。亀井静香郵政改革担当相は後任の社長に元大蔵事務次官の斎藤次郎氏を充てると発表。28日、斎藤氏は社長に就任したが、民主党の基本方針の「脱官僚依存」や「天下り根絶」に矛盾するとの指摘も多かった。60本を超える社・論説が論じた。

効率主義、地方では弊害

《閣議決定》毎日「郵便局で郵便、銀行、保険の3事業を一体運営することでサービスの向上を目指し、郵便だけに課せられている全国サービスを金融2社にも拡大するという内容だ。(略)臨時国会に日本郵政グループの株式売却を凍結する法案を提出する。小泉政権以来、自公連立政権が進めてきた郵政民営化路線を大転換する作業が始まったことになる」、産経「(郵政民営化の)本来の目標は『資金の流れを官から民に』であり、郵貯と簡保事業の縮小だった。(略)見直しをするなら『なぜ民営化が必要だったのか』という原点に立ち戻るべきだ。郵貯や簡保で集めた巨額の資金が財政投融資を通じて無駄な事業に使われていることに批判が集まったのである。これに照らせば、今回の基本方針は改革ではなく『改悪』とみられてもしかたあるまい」、愛媛「郵便局を地域の拠点と位置づける政府の試みは歓迎したい。県内では郵便局数こそ維持されるものの、集配局が減ったために配達が遅れる地域が出ている。競争原理の導入でサービスが向上するはずが、実際は待ち時間が長くなったとの苦情が絶えない。過剰な効率追求が逆に非効率を生んでいる」、東奥「地方切り捨てへの懸念が消えない以上、地域再生を重要政策に掲げる新政権が効率を最優先にした現在の民営化路線に歯止めをかけるのは、当然でもある」、信毎「心配になるのは、赤字が増えて国民にツケが回ることにならないか、ということだ。郵便事業はインターネットの普及などによって先細りが懸念されている。(略)一律にサービスを維持するとなればコスト高になる。(略)赤字ローカル線を抱えて行き詰った旧国鉄の二の舞いになりかねない」。

《西川氏の辞任》中日・東京「株式を早期に上場し、四分社化を前提に事業拡大を目指す経営方針が、鳩山政権の見直しに真っ向から反する以上、やむを得ない判断といえるだろう」、琉球「(かんぽの宿譲渡の)手続きが不透明な上、売却価格が不当に安く、結局、契約は白紙撤回された。(略)にもかかわらず、本来の資産価値を大きく下回る価格で施設を売却しようとした理由、瑕疵(かし)と責任の所在などに関し、いまもって十分な説明がなされていない。(略)辞める前に、国民から疑念を持たれた部分についてはきちんと説明すべきだ」。

《元大物次官》朝日「火中の栗を拾う人が他にいないということだろうが、斎藤氏は今は民間人であるにせよ、天下り先の金融取引所のトップであり、『剛腕の大物次官』と呼ばれた人物だ。これでは社長も経営も『民から官へ』ですか、と問わずにはいられない」、日経「人事は適材適所であり、元官僚を除外する必要はない。とはいえ、この人事は官僚出身者の天下りを排除する民主党の従来の方針や行動と矛盾する。鳩山首相は『斎藤氏は退官から14年もたっている』と話したが、その説明では納得できない。(略)政権の意に沿わない民間出身の西川氏を任期途中で追い出し、大蔵次官経験者を三顧の礼で迎える。そんな組織が民間会社なのか」、読売「民主党は野党時代、日銀総裁人事で財務省OBの起用に強く反対し、長期間にわたる総裁空席の事態まで招いた。それが今回、一転して大蔵OBの起用に踏み切ったことで、一貫性を欠くとの見方もある。だが、適材適所であれば元官僚といえども、起用をためらう理由はない。民主党が人材活用の手法を転換したのなら歓迎である」。

元次官では「ご都合主義」

《首相は説明を》北海道「不思議なのは、鳩山首相の指導力がまったくうかがえなかったことだ。発表前日に亀井静香・郵政改革担当相から初めて報告を受け、予想外の人選に『元官僚ではないかと驚きを感じた』と語っている。社長人事は郵政改革の方向性を左右する。亀井氏に任せきりだったとしたら、それこそ驚くべきことだ」、西日本「野党時代は『脱官僚』『天下り反対』の原理原則を声高に叫んでいたのに、政権を取ったら『まあ、そう固いことは言わずに』とお茶を濁す。世間ではこれをご都合主義と言う。(略)民営化した会社の社長に元大蔵次官が最適任と判断した根拠は何なのか。その判断は、脱官僚依存の政治姿勢とは矛盾しないのか。郵政見直しの具体的な道筋とともに、首相はしっかり説明を尽くすべきである」。(審査室)

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