2010年 3月2日
医療崩壊食い止めよ

診療報酬改定答申をめぐる社説
医師の負担軽減は急務

長妻昭厚生労働相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)が2月12日、2010年度診療報酬改定案をまとめ、同相に答申した。4月から実施される改定では、医師不足が深刻な救急、小児、産科に診療報酬を重点的に配分し、過重労働の勤務医への対応として、人の配置を増やすなどの施策を講じる。また2回目以降の外来受診にかかる再診料は、診療所と病院とを一本化する。「医療崩壊」を食い止めることを公約に掲げた鳩山由紀夫政権下で初めての改定を36本の社・論説が取り上げた。

病院・診療所の格差是正

《懸案にメス》高知「『政権交代効果』を強く印象づけたのが、診療所の再診料にメスが入れられたことだ。自民党政権下では、支持団体である開業医主体の日本医師会(日医)への配慮から、『聖域』とされてきた。現在710円と、600円の中小病院(病床数200未満)に比べて高い設定が、ともに『690円』になる。財源の確保とともに、これまで指摘されてきた両者の『格差』も解消されることになる」、信毎「開業医と勤務医の格差の是正は医療を立て直す第一歩である。これを足がかりに、勤務医が意欲をもって働ける環境を整えたい。開業医と勤務医は本来、対立する間柄ではないはずだ。病院と診療所が地域で連携することの大切さは、新型インフルエンザの流行でも実証されている」、熊本「診療所は今回、再診料を引き下げられたが、長く続いた医療費抑制策で厳しい経営を迫られている実態もある。地域医療にとって、在宅を支える身近な診療所の重要性は今後も増すだろう。機能の充実、病院との連携や役割分担をどうするかなど課題は多い」、中日・東京「今回も開業医代表の委員を中心に医療側委員は最後まで診療所の再診料引き下げに反対したが、最終的には公益委員の裁定で、六百九十円に統一が決まった。外来部門で浮く財源は、診療時間外に患者からの問い合わせに応じた場合の『地域医療貢献加算』や小児科救急外来の充実、勤務医の待遇改善などに振り向けられる。適切な見直しといえる」、上毛・日本海など「収入に再診料の占める割合が大きい開業医には不満も残るだろう。だが、一方で夜間や休日でも患者からの電話に対応したり、医療費の明細書を無料で発行する診療所には加算が新設された。患者の問診だけだった場合に上乗せされる加算も使い勝手がいいように改善された。同じ開業医でも報酬にめりはりを付け、頑張っている開業医にはきちんと報いようというわけだ」。

《新生中医協》読売「政府・民主党は、これまで自民党を支持してきた日医執行部の推薦委員をはずし、民主党に近い日医非主流派の医師や大学医学部長を委員に起用した。医療機関側の委員に組織代表色が薄れ、議論の幅が広がった。ただし、今回の診療報酬改定で山積する医療の課題が解決するわけではない。中医協の変化を、医療界全体で取り組む制度改革の議論へと向かわせるべきだろう」、新潟「長妻厚労相は中医協の委員から日医の代表3人を外した。影響力を抑え、配分見直しを成し遂げるための政治力の発揮といえる。日医は政治姿勢に対する報復だと反発した。一方、歯科の初診料、再診料は今回上がり、手厚い配分となった。早くから民主党支持に傾いた日本歯科医師会への配慮を指摘する声もある」、日経「期待先行で始まった中医協だが、患者と健康保険料を負担する国民や企業は議論の蚊帳の外におかれた。(略)評価できるのは診療や投薬の明細がわかる領収書の発行を設備が整った病院・診療所に義務づける点だ。無料で明細書を出すのは困ると、世の常識から外れた主張をした医療側委員を患者代表が押し切った」。

低い日本の公的医療費

《医療再生へ》朝日「診療報酬改定だけで医療崩壊と呼ばれる深刻な状況に歯止めがかかるわけではない。医師を育成する仕組みを抜本的に強化したり、地域や診療科ごとに偏っている医師の配置を是正したりするための政策努力が問われ続ける」、産経「過酷な労働条件を嫌って病院を辞める医師は後を絶たない。地域の中核病院でさえ、閉鎖を余儀なくされる診療科がある。勤務医の労働条件や待遇の改善は待ったなしだ」、北海道「医療崩壊を防ぐには、診療報酬の引き上げだけでは済まない。医師の数を増やし、一人一人の負担を軽減することが大事だ。医師を必要とする地域に、必要な数だけ配置する仕組みづくりも急がれる」、毎日「国内総生産に占める日本の公的医療費は先進国に比べて低いことを指摘しておきたい。(略)医療を抜本的に立て直すには何が必要か、次回の改定に向けて今から議論を深めたい」。(審査室)

ページの先頭へ