2010年 3月23日
国民を欺いた罪重い

日米間の密約報告書をめぐる社説
虚構だった非核三原則

外務省の有識者委員会(座長・北岡伸一東大教授)は日米間の密約問題について3項目を密約と認定し、9日、報告書を岡田克也外相に提出した。3項目は①核搭載艦船の寄港による核持ち込み容認②沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わり③朝鮮半島有事の米軍出動の合意。返還後の沖縄への核再持ち込みの合意は認定しなかった。菅直人財務相は、米国の銀行に計1億ドルの無利子預金をしていたという財政密約を公表した。岡田外相はあらためて非核三原則の堅持を表明。64本の社・論説が取り上げた。

政権交代で実現した検証

《評価・背景》北海道「米側の公開文書などで(密約の)存在は確実視されていた。だが歴代政権の『うそ』に政府自身がメスを入れ、実態を明るみに出した意義は大きい。昨年の政権交代直後に調査を指示した外相の見識を評価したい。(略)冷戦時代の激しい東西対立が背景にあったとはいえ、戦後の日本が掲げた非核政策を裏切った。国民への重大な背信行為である」、中日・東京「密約を結ぶに至ったのは、冷戦期、基地使用の制限を嫌う米国の軍事戦略と、反核・反基地感情が強まる日本の世論の間で、日本政府が苦渋の選択をしたという背景があったのかもしれない。しかし、冷戦終結後も密約を否定、国民を欺き続けた罪は重い」、産経「日本の究極の安全がかかっている核の問題で、当時の為政者らがとった対応は、国民の反核感情の強さと核抑止の必要のつじつまを合わせる『政治の知恵』だったともいえよう。沖縄返還など他の事例も、結果として日米同盟の維持・強化が担保されたのは事実であり、国民の利益と安全も守られたと見るべきではないか」、日経「作業は戦後外交史の再点検であり、政権交代がなければ、こうした調査はできなかったろう」。

《怒り》長崎「核兵器廃絶を願う長崎の被爆者は、被爆国日本が核廃絶の先頭に立つべきと訴え、非核三原則の堅持をその重要な一歩と考えてきた。ところが、密約の確認で、『三原則堅持』は虚構にすぎず、ほかならぬ被爆国日本の政府自らの手によって踏みにじられていたことが明白になった。被爆地の受けた衝撃は大きい」、琉球「沖縄返還時に沖縄の米軍核兵器をすべて撤去することが日米の合意であり国民、県民の共通理解だった。その裏側で将来再び核兵器を沖縄に持ち込み、貯蔵することに日米首脳が合意していたとは国民、県民の誰も知らされず、了解していない。これを密約と言わずに何と呼べばいいのか」、神奈川「密約の存在が表面化した後も核搭載に関する横須賀市などの照会に対し、空疎な事前協議を盾に事実上うそを重ねてきた代々の政権の姿勢は許されまい」、山陽「(無利子預金は)沖縄返還時に日本政府が円と交換して回収したドル資金1億300万ドル余りが原資とみられる。当時の為替レートで計算すると315億円余りで、財務省は25年間預金した場合、7千万ドル以上の運用益が出たとしている。(略)隠された財政負担、不利な資金運用でツケを回されたのは納税者である国民だ」。

《非核三原則》朝日「日本の安全保障にかかわる危機の発生に備え、このさい核搭載艦の寄港は認める『2・5原則』に転換すべきだとの主張も出ている。しかし、現実に米国による日本への核持ち込みは考えられない。(略)オバマ大統領が『核なき世界』を唱え、国際社会は核軍縮・不拡散への取り組みを強めている。三原則の堅持を足場に、できるだけ核への依存を低くした安全保障や北東アジアの平和構築に指導力を発揮することこそ、今の日本にふさわしい役割といえる」、読売「オバマ米大統領が提唱する『核なき世界』は、あくまで遠い将来の理想にすぎない。北朝鮮の核の脅威や中国の軍事大国化など日本周辺の現状を踏まえれば、米国の『核の傘』は不可欠だ。(略)鳩山政権が、非核三原則の見直しはタブーだと思いこんでいるのだとすれば、健全な安全保障論議ができなかった半世紀前の密約締結時と変わらない」。

文書の不自然な欠落批判

《消えた公文書》毎日「報告書はまた、『重要文書の管理に対する深刻な反省が必要』と強く批判した。当然あるべき文書が見つからず、見つかった文書に不自然な欠落が見られたという。岡田外相が省内に『外交記録公開・文書管理対策本部』を設置し、すみやかに改善を図ることを明らかにしたのも当然の措置だろう」、熊本「有識者委員会は、2001年の情報公開法施行前に『関連文書が破棄された』との省内情報があった事実を把握している。情報通りなら、密約を闇に封じるために、証拠となる歴史資料を闇に葬っていたことになる。『歴史への冒瀆(ぼうとく)』であり、極めて悪質だ。国会は真相を究明して、責任の所在を明らかにすべきだ」。(審査室)

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