2010年 4月20日
核なき世界への一歩

米NPRと米ロ軍縮条約をめぐる社説
小幅な削減、抜け道も

米政府は6日、核戦略体制見直し(NPR)で核拡散防止条約(NPT)を順守する非核保有国には核攻撃しないと宣言。8日には米国とロシアが戦略核戦力を史上最低水準に削減する新核軍縮条約に調印した。12、13日の核安全保障サミットも核物質管理の共同声明を採択、核軍縮への動きが加速している。ただ、米戦略見直しでは「先制不使用」宣言を見送ったほか、米ロ条約でも実際の核弾頭や運搬手段の削減には抜け穴も。中国など他の核保有国や北朝鮮、イランをどう取り込むか課題も山積する。40本を超す社・論説が論じた。

意義深い核超大国の協調

《期待》毎日「NPT体制に従う国への核攻撃を否定して、反米国家などの核兵器開発にブレーキをかける。それがオバマ政権の狙いだろう。北朝鮮やイランがどう反応するかはともかく、NPT体制の強化を積極的に支持したい」、長崎「オバマ政権のNPRに限界があるのは確かだが、これまでの『核信仰』『核依存』とも呼ぶべき米歴代政権の考え方から決別したという点で、重要な意義を持つ。特に、NPT重視の姿勢を鮮明にしたことから、5月のNPT再検討会議に弾みがつくと期待できる」、徳島「世界の核兵器の95%を保有する核超大国が協調して核軍縮を主導する姿勢を示した意義は大きい」、千葉「両首脳の言葉の通り、新条約が全面核廃絶という理想に向けての長期的な取り組みの第一歩となることを大いに期待したい」。

《失望と疑念》中国「先に核攻撃はしないという『核の先制不使用』の宣言は見送った。核兵器をなくすために欠かせないステップとして、ヒロシマ、ナガサキの被爆者たちが期待していただけに残念だ」、琉球「正直言って物足りない。核廃絶を提唱するオバマ大統領になって初の指針としては、むしろ失望に近い。核兵器の先制不使用宣言を見送ったからだ。」、静岡・日本海など「削減比率がまだまだ足りない。戦略核は広島、長崎に投下された原爆とは比べようのない破壊力を持つ。それを冷戦が終わってから約20年たつ今、1550も保有するのはなぜなのか。米ロ両国は論理的な説明ができないはずだ。両国指導層に潜む核信仰の深さにはあきれる」、産経「弾道ミサイルや爆撃機などの運搬手段についても、削減義務は小幅にとどまった。オバマ氏が掲げた『核なき世界』の第一歩としては、きわめて控えめな内容といわざるを得ない」、南日本「核弾頭の数え方にも問題がある。戦略爆撃機は核弾頭を最大20発程度搭載できるが、1機1発と数えるルールだ。削減目標を骨抜きにする抜け道になりかねない」、北海道「これが限界であり、さらなる削減は困難との見方も強い。求められるのは、核抑止論からの脱却である。抑止論に立つ限り、核の役割を弱める先制不使用宣言などは行えず、核削減も進められない」。

《課題も山積》朝日「中国には国連安全保障理事会の常任理事国としての、大きな責任がある。米ロの動きを待つばかりでなく、自ら具体的な構想を示して欲しい。とりわけ、北朝鮮の核問題も含めた北東アジアでの核軍備管理、地域安全保障への将来構想を示してもらいたい」、京都「他の核保有国にも『非核保有国に核攻撃しない』といった新機軸を広げられるかどうか。核軍縮の『潮流』を定着できるのか、試金石となる」、読売「それでもなお、世界には約2万発の核兵器が残る。その9割以上を保有する米露には、さらに大胆に核を削減する責任がある。配備から外して備蓄に回した戦略核弾頭や、巡航ミサイルなどに搭載する戦術核は、まだ手つかずだ。今後、こうした核兵器の削減も実行しなければならない」、中日・東京「不安材料は米国が進めるミサイル防衛(MD)構想にロシアが不信感を抱いていることだ。新しい条約を軌道に乗せるためにも、MDをめぐって緊張を高めることがないよう両国には緊密な外交努力を望む」。

安全保障の国民的論議を

《日本は》日経「日本が米国の『核の傘』に守られていることも現実だ。中国や北朝鮮などをにらんだ米国の核抑止力が揺らぐ事態は防がねばならない。抑止力を維持しながら、一層の核軍縮を後押ししていくためにも、日本は米軍普天間基地の移設問題などの懸案を早く解決し、日米同盟のきずなを強める必要がある」、信毎「日本は米国の核戦略に組み込まれているにもかかわらず、核について国民レベルの論議は乏しかった。被爆国である日本がその体験を踏まえ、核廃絶に本気で取り組む気があるかどうか、が問われている」、新潟「非核を国是とするわが国は核軍縮、不拡散に向けた取り組みを一層強化する必要がある。米国による『核の傘』の在り方を含め、国内外での真剣な安全保障論議も求められよう」。(審査室)

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