2010年 10月5日
検察の抜本改革不可避

検察の押収資料改ざん事件をめぐる社説
捜査結果、国民に公開を

厚生労働省の村木厚子元局長が無罪判決を受けた郵便不正事件で、捜査を指揮した大阪地検特捜部の主任検事が、押収品のフロッピーディスク(FD)のデータを捜査に有利な内容に改ざんしたとして、最高検は9月21日、証拠隠滅容疑でこの検事を逮捕した。改ざんの事実は地検上層部から大阪高検へも報告されており、組織ぐるみの隠ぺい疑惑が浮上。最高検は1日、改ざんを知りながら隠したとして当時の大阪地検特捜部長と副部長を犯人隠避の疑いで逮捕した。刑事司法の根幹を揺るがす検察の「組織ぐるみの犯罪」を、100本を超す社・論説が取り上げた。

調書偏重の手法に疑問

《崩れる根幹》 北海道「証拠によって審理する刑事裁判を崩しかねない異常事態である。検察が目をつけたが最後、証拠を捏造(ねつぞう)してまでも、何が何でも犯人に仕立てあげようとする。こんなむちゃがまかり通るのであれば、法治国家などとは言えなくなる」、毎日「法に基づき適正に刑事手続きを進めるのは、法治国家の大原則である。それを、法の執行に当たる検事が自ら破って『うその証拠』を作ったとすれば、裁判制度そのものの信頼性にもかかわる」、新潟「大阪地検特捜部がやろうとしたことは、証拠をでっち上げて自白をさせ、無実の人を罪に陥れようとしたものである。刑事司法の信頼を根底から崩壊させるに等しい行為だ」、日経「村木元局長の裁判でFDは証拠にならず、正しい作成日付を記載した捜査報告書が、弁護側の請求で証拠採用され無罪判断の根拠のひとつになった。もしFDのデータが証拠採用されていたら、元局長の感想のとおり『恐ろしい気がする』」。

《特捜の在り方》 上毛・大分など「村木元局長の裁判では、検事の見立てに沿った供述を元係長や厚労省関係者に迫るなど、さまざまな問題点が明らかになり、検察の信頼は大きく揺らいだ。(略)元局長無罪で批判を浴びた『特捜捜査』の在り方にきちんとメスを入れて、捜査手法や内部のチェック体制の見直しなど抜本的な改革につなげていく覚悟が必要だ」、河北「村木元局長の無罪判決、控訴断念によって、特捜部の調書偏重の手法が見直しを迫られている。加えて特捜検事による物証偽造となれば、向けられる目は一段と険しくなる。特捜がなぜここまで、ではなく、特捜という組織は果たして必要か、と問うべきだろうか」、朝日「法と証拠に基づく刑事裁判という法治国家の大原則を、捜査機関そのものが揺るがした言語道断の事件である。特捜検察の捜査のあり方だけでなく、検察の存在そのものが問われている。最高検は、事件の責任が検察首脳を含め広範囲に及ぶことになっても捜査を尽くすしかない」、信毎「まず『筋書き』ありきの捜査と取り調べ、容疑者が罪を認めるまで保釈を認めない『人質司法』―。過去に特捜部の取り調べを受けた人たちの問題提起である。容疑者から供述を引き出す『割り屋』を評価する風潮が、検察内部にあったとされる。自白に頼らず慎重に真実に迫る検事が軽視される傾向はなかったか」。

組織的隠ぺいか

《二重の背信》 中日・東京「特捜部長は地検上層部に故意による改ざんであることを意図的に伝えなかったという。『(伝えれば)公表されるぞ』と特捜部長は言ったとされるが、まさに組織ぐるみの不正隠しだ。真実を追求すべき検察官が捜査で不正を行い、幹部がさらに不正を封印する行動をとったのは、二重の背信行為で、到底許されない」、産経「特に問題なのは、部下から改竄(かいざん)の情報を得ながら、特捜部長も副部長も敏感に反応できなかったことだ。この点だけでも、『法と正義の番人』として失格といわざるを得ない。しかも、2人は主任検事をかばい、もみ消しを図った。自分たちの保身に走った、と批判されても仕方ないだろう」、西日本「前部長らは『(主任検事から)誤って書き換えてしまったと聞いた』と話し、調べに対しても容疑を否認しているという。(略)いずれにせよ、2人が有力な証拠だったFDの書き換えを把握していたのは事実だ。把握した時点で地検内には『公表すべきだ』との声も上がった。これでは自らの責任を逃れるため、組織ぐるみで隠ぺいしたとみられても仕方あるまい」、読売「冤罪(えんざい)を作り出すことも意に介さないような改ざんを、組織的に隠蔽(いんぺい)したのであれば、検察の『正義』を自ら否定する行為である。地検の上層部をはじめ、上級庁の大阪高検や最高検も管理責任は免れない。厳正な処分が行われなければならない。(略)検察はまず捜査結果を国民につまびらかにすべきだ。その上で、外部の意見も聞きながら、組織の抜本改革を進める必要がある」。(審査室)

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