2010年 11月2日
通貨安競争を回避

G20財務相会議と共同声明をめぐる社説
数値目標の見送りは妥当

日米欧と中国など計20か国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が韓国・慶州で10月22、23日開かれ、懸案の通貨安競争問題について「回避する」との共同声明を採択した。各国経常収支に関する数値目標は反対が多く、声明に盛り込まれなかった。リーマンショックから2年、世界経済の緊急課題に取り組んだ会議を36本の社・論説が論じた。

世界経済の不均衡是正へ

《通貨安競争》産経「今回の会議は、先進国と新興国の通貨をめぐる対立をどう緩和するかが焦点だった。日米欧の先進国は、新興国の通貨安競争を先導している中国に対し、人民元の切り上げを求めた。一方、新興国は米国の事実上のドル安政策で大量の資金が自国に流入し、通貨高になっていると批判した」、秋田「通貨安競争は、各国が景気下支えを優先し、輸出を伸ばそうと自国の通貨安を容認したため急速に拡大していた。一方、日米欧で加速している金融緩和で生み出された資金は、新興国に大量に流れ込んで通貨高とインフレを招いた。新興国側は為替介入を重ね、バブル発生の懸念も高まっていた」、信毎「通貨の下落を競い合う『通貨安競争』をめぐり各国の利害が対立、共同声明は中身の乏しいものに終わった。(略)『通貨の競争的切り下げを回避する』との文言がうたわれたものの、具体策は盛り込まれていない」、高知「単に通貨安をけん制しただけで、実効性は期待できないといった見方もあろう。しかし、通貨政策で対立する先進国と新興国が、協調を探る認識で一致したことは大きい」。

《数値目標》京都「議長国の韓国と米国が提案した『各国の経常収支の黒字、赤字を国内総生産(GDP)比で2015年までに4%以内に縮小する数値目標』については各国の意見が分かれ、まとまらなかった。(略)日本政府としては、自由貿易の基本原則を踏まえて、慎重な対応が必要だ」、読売「米国は、経常収支を数値目標で縛り、中国に黒字縮小と、人民元の切り上げを求める圧力をかけようと狙ったようだ。(略)数値目標が導入されれば、経常黒字国の日本は一段の円高を迫られかねない。管理貿易を助長する副作用も懸念される。数値目標の見送りは妥当だろう」、毎日「かつての日米通商交渉がそうだったように、数値目標が議論の中心になると、目標を何%に設定するかなど本質的でない問題で話し合いのエネルギーを消耗しかねない。実現性の低い目標や拘束力のない合意のために主要20カ国の閣僚や首脳らが労力を注ぐことが、果たして賢明といえるだろうか」、徳島「今回の会議で日本が輸出大国のドイツとともに、国際公約につながるような目標設置に反対姿勢を貫いたのは妥当だろう。とはいえ、世界経済の不均衡是正や通貨安定を実効性あるものにするためには何らかの指針は必要だ」。

日本は経済再生を急げ

《日・米・中》朝日「中国は人民元切り上げのピッチを上げた。9月は年率に直すと20%を超える。これは1985年のプラザ合意から87年末までに円の対ドル相場が240円から120円へと2倍に上昇した時の平均上昇率と大差ない。中国はこうした対応を今後も続ける姿勢を明確にし、世界に安心感を与えねばならない。一方の米国は、景気てこ入れを図るため、金融緩和の『予告』を連発してドル安を促してきた。だが、それは新興国などへの資本流入を勢いづけ、インフレやバブルを起こしかねない」、西日本「米国の対中貿易赤字は約2300億ドルと円換算で18兆円を超え、2番目に赤字額が多い対欧州連合(EU)の約600億ドルの4倍近くになる。中国との貿易不均衡是正が米国の一番の問題である。米中両国は綱引きを続けながら、世界経済の主役として存在感を高めていくだろう。日本の影は薄い。経済再生を急がないと完全に過去の人となってしまう」、日経「『協調的でない対応は、すべての国にとってより悪い結果をもたらす』とG20声明は指摘した。各国が自国優先に走り、自由な貿易や資本の流れが損なわれて世界経済が打撃を受ける展開は避けねばならない。とはいえ、行動が伴わなければ、通貨摩擦や不均衡の改善は進まない。中国の人民元切り上げ、住宅市場の不振を抱えた米経済の低迷打開など、懸案は明らかだ。(略)日本はデフレ脱却と成長促進への強力な政策運営が求められる。過度の円高を阻止する市場介入も、世界経済への貢献度を高めないと、理解を得られない」、中日・東京「日本の野田佳彦財務相は円高に市場介入で対応する構えを変えていないが、議論の本筋は内需拡大に何をすべきかである。小手先対応ではなく、時間がかかるとしても自前の成長を目指す大胆な規制緩和や予算編成が必要だ」。(審査室)

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