2010年 11月9日
自由貿易で経済再生を

日印EPA合意とTPPをめぐる社説
国内農業改革が急務

菅直人首相とインドのシン首相は10月25日、両国間の貿易や投資を自由化する経済連携協定(EPA)締結で合意、共同声明を発表した。EPAが発効すれば、人口12億人を抱えるインド市場へ日本からの輸出や投資が大幅に拡大すると期待される。菅首相はまた、関税障壁を除いて大胆に貿易を自由化する環太平洋連携協定(TPP)への参加に意欲を示したが、農産物市場の開放には民主党内の議員グループからも強い抵抗が示され、党内の亀裂も表面化した。自由貿易協定をめぐる動きを40本を超す社・論説が取り上げた。

魅力的な12億人市場

《巨大市場に期待》南日本「インドは中国に次ぐ12億人の人口大国である。日本の貿易額に占める割合はまだ1%ほどだが、高い経済成長率と人口増に伴って、ますます魅力的な市場になるだろう。EPAで貿易の垣根を低くし、『世界の成長センター』とされるアジアの主要新興国の勢いを取り込むことは、日本経済の再生に欠かせない」、山陽「日本農業に配慮してコメや麦、牛肉、豚肉などは自由化対象から外された。自動車や電機など産業界は、EPA締結が魅力的なインド市場展開への強力な後押しになると歓迎する。企業が活気づけば、低迷の長引く日本経済を元気にさせよう」、日経「世界が中国に供給を依存するレアアース(希土類)についても、日印協調の意義は大きい。インドは埋蔵量が豊富で、開発に必要な技術と投資を求めている。日本の商社が手がける開発計画で、インド側との土地利用交渉が難航しているが、両国政府は早急に計画を進めるべきだ」。

《中国を意識》毎日「安全保障に関し両国は7月にインドで外務・防衛次官クラスによる初の定期対話を行い、今回の共同声明でこれを『歓迎』した。テロへの共同対策やシーレーン防衛協力のあり方を模索するのが主眼だが、東シナ海などで活動を活発化させ、インド洋でも影響力を強め始めた中国をけん制する効果もある」、読売「安全保障面の協力も重要だ。日本は東シナ海で、インドはインド洋で、中国の海洋進出による直接的な脅威にさらされている。(略)米国に加え、南シナ海で対中摩擦の最前線に立つ東南アジア各国とも連携を図る必要がある。そのためにも、地域の大国である日本とインドは、2国間関係をいっそう深めなければならない」、佐賀「今回、日本がインドとの二国間協定を強化しようとする背景には、経済、軍事面で台頭する中国へのけん制という狙いがある。両国とも対中国で思惑が一致し、中国への経済依存を減らすには役立つだろう。ただ、中国を包囲して孤立させるのは得策ではない」。

《TPPに参加を》朝日「TPPは米国や豪州、チリ、マレーシアなど9カ国が交渉に参加している。輸出倍増を狙うオバマ米大統領は来秋の妥結をめざす。カナダや韓国の参加も予想され、これが環太平洋版の広域な自由貿易協定(FTA)に発展する可能性が大きい。新興国の成長力を取り込んで経済再生を図りたい日本としては当然、加わる必要がある」、産経「多国間で自由化を進めるTPPの枠組みを積極的に活用すれば日本のデフレ脱却に有効だ。経済のチャイナリスクや尖閣諸島問題などの安保戦略面からも首相はTPP参加を決断し、指導力を発揮すべきだ」、中日・東京「菅首相が環太平洋自由貿易圏への参加に意欲を示している。日本は自由化に出遅れ、貿易立国の道も危うい。安い農産物輸入で打撃を受ける農家を支え、新たな自由貿易網に果敢に加わるべきだ」、西日本「高関税で守っているコメなどを抱える日本にとっては、より厳しい交渉であることは間違いない。しかし、挑戦しようということすらも許さない、取り付く島もないような態度はいかがなものか」。

開放は「もろ刃の剣」

《農業崩壊に懸念》愛媛「日本経済の低迷打破に向け、各国・地域との貿易自由化を積極的に進めようとの方針は間違っていない。が、TPPは、原則100%の関税撤廃を求められる。協議には米国やオーストラリアなど農産物輸出国が参加しているだけに、安い農産物の大量輸入により国内農業が受ける影響は計り知れない」、秋田「第1次産業は単純に経済原則のみで語られるべきものではない。日本各地の文化や食生活、地域コミュニティーなどと一体化している。地方の風土の根っこでもある。『国を開く外交』とは聞こえがいいが、一歩誤ると地域崩壊を引き起こす『もろ刃の剣』であることを忘れてはなるまい」、北海道「市場開放にかじを切る前に、克服すべき課題は多い。政府が貿易自由化と国内農業との両立は可能と判断するなら、その根拠を国民に丁寧に説明すべきだ」。(審査室)

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