2011年 1月11日
難題山積、見えぬ道筋

在京6紙の新年号紙面
日本再生への模索促す

政治が混迷する中で、かつてなく厳しい新年を迎えた。菅直人首相は通常国会召集を前に、小沢一郎元民主党代表をめぐる「政治とカネ」問題への対応を迫られるが、党内対立やねじれ国会で打開の道筋は見えない。在京各紙の元日紙面は安全保障や税財政改革、経済開国など難題が山積する日本の現状への危機感を強調、再生への模索を促す論調が目立った。

独自ダネ3紙、連載企画3紙

【1面トップ】読売、毎日、東京が独自ニュースで飾り、朝日、日経、産経は連載企画を据えた。

読売 「流出2日前告知メール 警視庁公安資料 長官名使い捜査員へ 内部犯行と断定」。国際テロ対策に関する警視庁公安部の内部資料がネット上に流出した事件で、流出2日前に同じ文書がネット上の特定サイトに掲示された上、接続先を示すメールが同庁の捜査員ら約20人に送られていたことが分かった。メールのアドレスには警察庁長官の名前が使われていた。警視庁は内部犯行とほぼ断定、流出元特定に全力を挙げる。

毎日 「首長VS議会 ルール整備 自治法改正案提出へ 議長に招集権 住民投票に拘束力」。総務省は1月召集の通常国会に地方自治法の改正案を提出する。名古屋市や鹿児島県阿久根市で首長と議会の対立が先鋭化している事態を受け、首長だけに認められている議会の招集権を議長にも与えるなど対立解消のルールを法制化する。住民投票制度も拡充し、投票結果に行政への拘束力を持たせる。地方自治の特徴である二元代表制を活性化させるとともに、住民の行政参加を促すのが狙い。

東京 「首都の地下鉄利便向上 乗り継ぎ割引拡大 月内合意 1日50万人に恩恵」。東京メトロと都営地下鉄が乗り継ぎ運賃の割引拡大を柱とする利用者サービス改善で合意する見通しとなった。1日当たり50万人の乗り継ぎ客が恩恵を受け、現行で70円の割引額を10円上げると年間で18億円が利用客に還元される。東京都が求めている都営と東京メトロとの経営統合についても協議を続ける。

朝日 連載「教育 あしたへ」。教師による「教え込み」から子ども同士の「対話」へ授業の重点が移ろうとしている。子ども同士の意見のキャッチボールにより、どの子にも自信をつけさせる「カリスマ教師」がいる。言いっぱなしのスピーチや言い合いのディベートでもなく、相手の意見に耳を傾け、自分で消化し、新たな意見を投げかける。その繰り返しがよりよい人間関係につながることを伝える。新しい価値を共につくり上げようという教育現場の試みと未来図を描く。

日経 連載「三度目の奇跡」。日本は明治維新で幕末の国難を乗り切り、戦後の高度経済成長で第2次大戦の敗戦から奇跡的に復興した。世界でもまれな奇跡を2度も実現したが、バブル崩壊後の「失われた20年」を経て、衰退傾向をたどる今の日本は3度目の奇跡を起こすモデルと目標をつくり上げられるか。第1部では、世界最高齢社会が続く中で、どんな奇跡が実現可能か処方箋を探る。

産経 連載「ボーダー その線を越える時 プロローグ」。合成ゲノム(全遺伝情報)による人工生命創造で人類は「神の領域」に踏み出す。技術進歩や法整備で男女の性の転換が容易になり、性差もあいまいに。企業やマネーの奔放な流れは国境を越えて世界の隅々まで広がる。情報もネット上で瞬時に地球を駆け巡る。これまで確固として存在していた様々なボーダー(境界)が消えつつある。新技術やグローバル化は人類に何をもたらすのか。消える境界の現場を報告した。

経済開国進め、競争力強めよ

【社説・論説】政治の混迷の打開を迫った。

朝日 「今年こそ改革を 与野党の妥協しかない」。危機に直面する日本の命運は「税制と社会保障の一体改革、それに自由貿易を進める環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加。この二つを進められるかどうか」にかかると指摘。そのためには民主、自民という「政権交代の可能性のある両党が協調する以外には、とるべき道がないではないか」と強調。菅首相が野党との協議を求めるなら「公約を白紙に戻し、予算案も大幅に組み替える。そうした大胆な妥協へ踏み出すことが、与野党ともに必要だ。覚悟が問われる」と迫った。

毎日 「2011扉を開こう 日本の底力示す挑戦を」。日本の元気回復には「創造性と魅力(ソフトパワー)を鍛え」、「日米同盟を揺るぎなくする一方で日中関係を改善」し、「子育てにも若者にも最大限の支援」が必要と指摘。「消費税増税を含めた財政再建」「人材育成と教育の再建」も課題と強調した。菅政権はこれらの難題に「本気で取り組む必要がある。できないのであれば違う政権に期待するしかない」としつつ「できるかどうかはまさに日本の人々の底力にかかる」とも論じた。

読売 「世界の荒波にひるまぬニッポンを 大胆な開国で農業改革を急ごう」。民主党政権には「漂流どころか、沈没の危険すらある」と強調。特に「外交力の劣化と安全保障の弱体化」を挙げ、中国など「周辺国からの圧力や脅威に対抗するには、強固な日米同盟が不可欠」と指摘した。米軍普天間飛行場移設問題の早期解決やTPPへの参加、消費税引き上げなど「緊急かつ重要な課題」の解決には、「衆参ねじれ現象の政治的矛盾を解く新政権」が必要と強調。「懸案処理のための政治休戦と、暫定的な連立政権」を構築すべきだと説いた。

日経 「国を開き道を拓く 世界でもまれて競争力磨く志を再び」。「日本は技術に強い工業国。各国と競いながら腕を磨けば成長の余地はある」が、「怠れば国の財政破綻などを通じ今の豊かさはやがて消える。過信もあきらめも捨てて、自らを鍛える志こそが大事」と指摘。「経済開国と国内の改革」が必要で、TPPへの参加を軸に「貿易の自由化」を急ぐべきだと強調した。そのためには「農業の改革が欠かせない。生産効率を高め競争力を強める」よう求めた。

産経 「『ひこばえ』に思う国家再生」。日本空洞化の「要因は、空想的な憲法に基づく悪(あ)しき戦後の残滓(ざんし)といえる『一国平和主義』から、いまだに抜け出せないことだ。軍事の忌避が、尖閣諸島への中国の野心と無法を増長させてもいる。問われているのは国家の有(あ)り様である」と指摘。「日本人としての誇り、その芯がしっかりしていることがこの国の強みだ」と強調し、「占領を引きずる枯れ木を取り除き、芯を残した根株から『ひこばえ』を育む」べきだと主張した。

東京 「歴史の知恵 平和の糧に」。中国の海洋進出圧力が強まる中、「懸念を表すだけで対話や協力を求めるのを怠れば、中国は軍拡で対抗する」と強調。日本の「戦争放棄」や「非核三原則」「武器輸出三原則」などは「国際社会に日本が貢献する際の足かせではなく、平和を目指す外交の貴重な資産です」と指摘し、「そうした国の在り方こそ、世界第二位の経済大国の座を中国に譲っても、日本が世界から尊重され続ける道ではないでしょうか」と説いた。

日本の未来図に各紙焦点

【連載・企画】 朝日1面「教育 あしたへ」、社会面「孤族(こぞく)の国 第1部・男たち」(12月26~30日1面)▽毎日1面「働乱(どうらん)の時代に 第1部・ものづくりの現場から」(12月31日から)、社会面「ドキュメント にっぽんの絆」▽読売1面「日本の改新 第1部・識者に聞く」(3日から)、社会面「あかり」(3日から)▽日経1面「三度目の奇跡 第1部・私は45歳」、社会面「ルールの変 マナーの乱」▽産経1面「ボーダー その線を越える時」(第1部は3日から社会面)▽東京1面「座標変換」(3日から)、社会面「子ども貧国」

【ページ数】かっこ内の数字は2010、09年の順。
 朝日108(100、104)▽毎日76(76、80)▽読売108(104、108)▽日経100(100、114)▽産経80(80、76)▽東京66(62、62)(審査室)

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