2011年 2月1日
公共放送の未来像問う

NHK新会長人事をめぐる社説
斬新な発想で改革断行を

NHK経営委員会は1月15日の臨時会で、同24日で任期満了の福地茂雄NHK会長の後任にJR東海副会長の松本正之氏を選出した。アサヒビール出身の福地会長に続き、再び経済人からの起用。会長人事は、昨年末に小丸成洋経営委員長からの要請を受諾していた安西祐一郎・前慶応義塾長について、経営委が一転して辞退勧告し内定人事を翻すなど混乱。小丸委員長の引責辞任に発展する異例の事態となった。メディア環境が激変する中での公共放送の使命を担うNHK新会長人事を30本の社・論説が取り上げた。

選出方法の問題点露呈

《迷走劇》毎日「慶応義塾の安西祐一郎前塾長の擁立から就任要請撤回、本人による拒絶に至る経営委員会のご都合主義的な対応は、改めて厳しく批判されるべきだろう。その後、松本氏の選出は、一部委員の推薦を受ける形で、委員の多くが面談することもなく決まった。時間切れを前に即決したもので、改革途上のNHK会長はどんな人物がふさわしいのかを十分に議論したとは到底、評価できない」、茨城・上毛など「迷走に迷走を重ねた人事は、NHK経営委員会の不手際にとどまらず、会長ら役員選出の在り方の問題点を浮き彫りにした。(略)経営委は会長選出手続きを明文化し、できる限り透明にする必要がある。会長に求める要件を提示して、候補者を広く公募したり、視聴者の推薦を受け付けたりするのも一つの方法だろう」、中日・東京「今回は政治家との調整が慣習化していたかつての会長選びと一線を画した。政治と明確に距離を置く決意を経営委、全職員が共有する好機とすべきだ。それが、経営計画に記された『もっと身近にNHK』への早道になるだろう」。

《経営手腕は》産経「新会長に就く松本氏は、NHKと同じ公的責務を負うJR東海の経営に長く携わってきた。昨年4月までの6年間は社長を務め、自主財源によるリニア中央新幹線の本格着工などに道をつけた経営感覚は評価されている」、京都「JR東海社長を経た松本氏は、受諾後、次期会長としての抱負の中で、NHKと鉄道は『高い公共性とサービスが求められる点で似ている』と語った。人事・総務部門などで国鉄改革を担い、経営者としての強いリーダーシップを発揮したとされるだけに、NHKの組織、経営両面での改革に向け、その手腕に期待したい」、新潟「(松本氏は)国鉄改革をはじめとして、十分な場数を踏み、実績を持つ経営者であることは間違いない。だが、特異な組織といえるNHKの会長として力を発揮できるかは、現段階では未知数だ」。

《改革へ向け》読売「肥大化した組織や業務の大胆な合理化も課題だ。NHKは、受信料という形で、年間6000億円以上の負担を国民に求め、その収入で事業を展開している。だが、そうした公的機関としての自覚が薄く、リストラが徹底されていないとの批判が根強い。(略)だからこそ、『外部の目』による斬新な発想に基づく経営が何より重要になる」、日経「報道機関として、また公共放送局として、組織と職員に規律を徹底させてほしい。(略)さらに、受信料を柔軟な体系にする検討を始めてもらいたい。ニュース、災害報道など視聴者に不可欠な情報の提供には今より安い基本料金を一律に適用し、娯楽性の強いテレビ番組などには付加的に徴収するといった工夫があってもよい」、高知「地上波のデジタル化への完全移行を7月に控え、2012年度には受信料収入の10%還元という難題が待ち構えている。60年ぶりの放送法改正が示すように、放送と通信の垣根が低くなる中で、公共放送の未来像が問われる時期でもある」。

報道の自主・自律守れ

《ジャーナリズム組織》朝日「松本氏に知ってほしいのはジャーナリズムの精神だ。(略)会長の権限は、人事から番組編成にいたるまで広く大きい。松本氏は政治からの自主・自律を守り、現場が生き生きと働く環境を保ってもらいたい。職員の不祥事など、信頼を損なう事態には断固たる態度で律してほしい」、北海道「重要なのは、報道機関として視聴者に信頼される態勢を確立することだ。(略)民放と見まがうような視聴率重視の番組づくりへの批判も多い。公共放送にふさわしい報道のあり方を、職員とともに考えてほしい。政治から独立して、歴史の批判に耐えられるような番組作りに一層力を入れることも必要だ」、山陽「08年に記者によるインサイダー取引事件が発覚、昨年秋には大相撲の野球賭博事件に絡んで記者の捜査情報漏えい問題が起きるなど不祥事が絶えない。松本新会長は信頼回復を急ぎ、報道倫理の確立に努めてもらいたい」。(審査室)

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