2011年 4月12日
フクシマに募る危機感

福島原発と震災復興をめぐる社説
官民支援で生活再建図れ

東日本大震災の爪痕はなお生々しい姿を残したままだ。政府は2011年度補正予算編成を急ぐが、復旧・復興への道筋は見いだせていない。東京電力福島第一原発事故は、高濃度の放射性物質を含む水の処理という難題を抱え、事態収拾へ長期化は必至。放射性物質による汚染は農産物、飲料水、海洋へと広がり、世界の目が「フクシマ」への日本政府の対処に注がれている。各社の社・論説は連日、震災関連の動きを追った。

透明性ある情報提供を

《ジレンマ》上毛・岐阜など「原子炉を冷却し続けるため、放水は優先的に続けざるを得ない。既に核燃料が溶融、損傷して、圧力容器などの気密性は一部で損なわれている。放水すればするほど高濃度の放射性物質に汚染された排水が増えるジレンマに陥っている」、毎日「原子炉の冷却を優先し、低レベルの放射性物質を海に流すという非常手段にも踏み切った。原発で再び爆発現象が起きるようなことがあれば、放射線量は跳ね上がるだろう。長期化する放射性物質の漏えいから人々を守るには監視の強化が必要だ。それだけでなく、透明性のある情報提供も欠かせない。それがひいては、風評被害を防ぐことにもつながる」、福島民友「事態を沈静化させるには一刻も早く冷却機能を回復することだが、地下にたまった放射線量の高い水が復旧作業を阻む。長期化は放射性物質の農産物、水道水、海への広範な汚染に加え、風評被害という『人災』も拡大させてしまう」。

《世界の力で》北海道「急きょ来日したサルコジ仏大統領も菅直人首相との会談で、福島の原発事故を5月下旬に開かれるG8サミット(主要国首脳会議)の主要議題とする意向を表明した。福島の事故はもはや地球全体の問題だ―。そうした認識が各国を日本支援へと動かしている」、朝日「海外でも第一原発からとみられる放射性物質が検出され始めた。現場では、原子炉の制御を回復する作業を大量の汚染水が阻み、海水にも高濃度の放射性物質が漏れ出ている。日本はこの危機に対処できていないのではないか、という不信感も生まれている。支援の機運が高まるのは、各国に危機感があるからだ」、中日・東京「原子力発電には国家の重要機密にかかわる部分もあるが、もはや日本側だけでは対応できないのが現実のようだ。米仏の技術に頼っても、打開策を見つけるべきだ」、西日本「この際、知恵も、人材も、物資も借りよう。いまはすべてが足りないのだ。遠慮している時ではない。各国の支援には外交や産業政策での思惑も交じっているかもしれない。しかし、深読みはひとまず置いて、ここは率直に感謝しよう」。

《生活再建に向けて》神戸「災害で生活基盤が壊されると、被災者は立ち上がりたくてもできない。その後押しをするのは国の責務というのが、生活再建支援制度の理念だ。今回、住まいも家財も失い、被災者たちは途方に暮れている。再建の弾みとなる制度が欠かせない」、河北「生きて暮らしていくためには生活再建の拠点となる『住』とともに、生活の糧を得る『職』がなくてはならない。(略)再起に向け中小企業の事業主が気持ちを奮い起こし、意欲を持ち続ける。失意の先にそんな光が見いだせるよう、官民で支えたい。支援の手だてに知恵を絞り、被災した働く人たちが職を失う事態を最小限にとどめねばなるまい」、新潟「仮設住宅の早期建設が求められる。(略)政府は『県外も視野に入れざるを得ない』との見方を示す。広い用地を確保し、集落や地区単位で仮設に移れるよう工夫したい。集落ごとの移住は、中越地震の際に採り入れられ、コミュニティーや人のつながりの維持に大きな役割を果たした」。

国債増発や増税案も

《急がれる予算措置》産経「財源確保が課題となるが、増税を語る前にやるべきことがある。菅首相は会見で財源について『与野党協議で合意したい』と述べたが、まずは全ての民主党のばらまき政策を撤回し、その費用を充てることが前提だ」、読売「費用の巨額さを考えれば、予算の組み替えだけで対応するのは難しい。このため、使途を復興に限定した特別な国債を発行する手も考えられよう。ただし、日本の財政は先進国で最悪の赤字を抱えるなど、危機的な状況にある。復興費用と将来の社会保障財源などを確保するためにも、いずれ何らかの増税は避けて通れない」、日経「国債の増発や臨時の増税なども念頭に置かざるを得ないだろうが、景気へのマイナスの影響を抑えつつ、経済再生の道筋からも外れないようにする視点が必要だ。(略)復旧・復興資金はなるべく今の世代の負担増で賄い、次の世代への付け回しを避けた方がいいのは確かだ」。(審査室)

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