2011年 6月21日
増税ありきでよいか

社会保障と税の一体改革をめぐる社説
政治の責任で国民合意を

わが国にとって焦眉の急である社会保障と税の一体改革に向け、政府の「集中検討会議」が改革案を2日まとめた。子育て支援、医療・介護、年金制度を充実強化する一方、医療や福祉サービスの給付を抑える。財源確保のため消費税を目的税化し10%に引き上げる、というのが柱だ。27の社・論説には、負担増の必要性を明確に打ち出した点や改革の方向性を評価しつつ、見え隠れするさまざまな問題点や課題を指摘、政府と与野党に対し、国民に明確な将来像を示した上で改革を着実に進めるよう求める論調が目立った。

基本的な考え方は評価

《改革への一歩》読売「財政赤字が拡大し、超少子高齢社会の福祉財源の確保が急務になっている。改革案は、消費税を社会保障目的税とし、『2015年度までに2度に分けて、10%まで引き上げる』との方針を明確にした。消費税率を5%引き上げる工程表を示した意義は大きい」、神戸「社会保障を子育て支援や若者世代にも広げ、低所得者層への充実を図る。高齢者を制度の担い手としても位置づけ、世代間と同一世代の公平を重視する。基本的な考え方、目指す方向は大方の国民に理解されるだろう。問題は10%の根拠である」。

《10%の根拠は》京都「菅直人首相は『国民的議論の成果』と自賛するが、実態は消費税増税ありきではなかったか。というのも政府は、国と地方の基礎的財政収支の赤字を15年度までに半減、20年度に黒字化する財政健全化目標を掲げていた。消費税を10%にすれば赤字半減が可能になるという」、北海道「社会保障の負担は、低所得者への影響が大きい消費税に偏らず所得税や法人税を含めた税制改革全体の中で考えていくのが筋である。今回の改革案は増税を既定路線として政策のつじつま合わせに終始したように見える。増税ありきの改革案では国民の理解は得られまい」。

《配分で綱引き》朝日「消費税の使途を社会保障に限定することへの懸念も広がっている。いまは消費税収の約44%が実質的に地方の自由な財源となっている。増税後に国と地方でどう配分するのか、はっきりしない。社会保障の現場を実際に運営する地方自治体とは、丁寧な話し合いが必要だ」、北國「消費税の国税分が充当される年金、老人医療、介護の『高齢者3経費』だけでなく、自治体の事業も含めた社会保障全体の必要額を考えるべきという地方の主張は理解できるとしても、消費税増税を前提にした地方の財源要求が政府の増税路線を後押しする結果になることを危惧する」。

《年金どうなる》信毎「もう一つは、社会保障改革への踏み込みが足りないことだ。たとえば焦点の年金改革は、現行制度の手直しにとどまる。民主党が公約した最低保障年金など新制度の姿は具体化していない。与野党協議に向け封印したとの見方もある。だが、年金の抜本改革を先送りして、社会保障の将来像を示したと言えるのか」、日経「保険料の未払いなどで低年金になった人は本来、自己責任で対処するのが筋だ。年金や医療制度のような社会保険に、所得分配の機能を過度に持たせれば、税財源で賄うセーフティーネット(安全網)機能との境目がはっきりしなくなる。成案を出す予定の6月下旬までに、政府はこうした問題点を整理してほしい」。

制度支える理念示せ

《大枠示すべき》中日・東京「国民、厚生、共済年金の一元化の前提となる社会保障・税の共通番号制度は導入にめどがついたが、社会保険料と税を一体的に徴収する歳入庁の議論は進んでいない。政府・与党は制度を支える理念や新年金制度など改革の大きな枠組みを示すべきだった。小手先の改革では説得力に欠ける」、産経「日本の支給開始年齢は現在、65歳まで引き上げられつつある途中だが、日本ほど少子高齢化が進んでいない国でも67歳やそれ以上の引き上げを目指す例がある。定年延長など高齢者の働き方の見直しとともに、改革メニューとしてきちんと位置づける必要がある」。

《政権どうあれ》毎日「この改革案は自公政権下で検討されてきたものを下敷きにしている。どんな政局であろうと、野党側が協議に乗らないのは筋が通らない。一方、民主党にとってはマニフェストの重要な部分の修正・棚上げを意味する。政府内や党内からは異論も聞かれるが、政権与党の責任において実現に向け最善を尽くすべきだ」、日本海・岐阜・上毛など「一体改革は待ったなしであることは確かだが、国民の合意がなければ進まない。集中検討会議の議長である菅直人首相は震災復興や原発事故対応にめどがついた段階での退陣を表明したが、政権がどうなろうとも政治の責任で着実に取り組んでいくことが必要だ」。(審査室)

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