2011年 7月12日
具体化へ手順見えず

復興構想会議提言をめぐる社説
増税に国民理解不可欠

政府の東日本大震災復興構想会議(五百旗頭真議長)は6月25日、「復興への提言」を菅首相に提出。住宅の高台移転や「特区」活用による規制緩和、法人、所得、消費税の基幹税を中心とする臨時増税などを求めた。28日には復興対策本部も始動したが、松本龍復興担当相の辞任など政治の混迷で、本格復興への道筋はなお見えない。50本を超す社・論説が提言を取り上げ、復興の在り方を論じた。

必要最低限にすぎず

《物足りない》岩手日報「高台移転の財源や浸水した土地の公有化などには明確な結論が出ず、家や事業所を失った被災者の再建の行方はまだ見えてこない。経済再生策としては特区のほか、市町村の力を引き出すために自治体向けの自由度の高い交付金に言及したが、これだけで被災地の産業が元気を取り戻すかは不透明だ」、福島民報「今もなお(福島原発)事故の影響に苦しむ本県にとっては必要最低限の取り組みにすぎない。県が求めていた損害賠償と地域再生に関する特別法制定には明確な言及がなかった。さらに強く国へ働き掛けるべきだ」、北海道「物足りないのは身近な問題への対策が生煮えなことだ。津波対策として住民の高台移転を推進する方針を示したが、国がどこまで費用を負担するかなど具体策がはっきりしていない。対策本部は住民や自治体の意見をよく聴いて設計図と工程表を示す必要がある」、中日・東京「問題は特区の中で『何をするのか』にあったはずだ。ところが、提言は『各種支援措置を具体的に検討し、一元的かつ迅速に行える特区手法が有効』などと記したにすぎない。具体的どころか、まったく抽象的だ。それは霞が関が抵抗したためだ」、朝日「被災自治体が提案を具体化する手順が見えない。どの計画を優先的に進めるべきか、どんな段取りが必要なのか、という工程表も不可欠だ。そうでなければ、事業の着手や制度設計を省庁に委ねざるをえず、『地域主体』の原則が絵に描いた餅にすぎなくなる」。

《増税の是非》読売「構想会議が臨時増税を打ち出したことは理解できる。具体的には政府に対し、『基幹税を中心に多角的な検討』を求めている。(略)政府内には、消費税増税に慎重論がある。だが、提言がうたうように、財源を『今を生きる世代全体で連帯し、負担の分かち合いで確保』するには消費税率引き上げも前向きに検討すべきである」、日経「本格的な復興経費は10兆円規模に膨らむ公算が大きい。まずは余分な歳出を削減し、財源を捻出するのが筋だ。民間資金の活用も検討すべきだ。それでも足りない分を復興債で賄い、償還費用の一部を臨時増税で手当てするのはやむを得ない」、福島民友「増税に当たっては景気への目配りを忘れてはならないし、歳出の徹底的な見直しも前提になる。なぜ増税が必要なのか、国民が納得できる丁寧な説明も欠かせない」、産経「税目や増税時期は政府に委ねたものの、増税の『結論ありき』と指摘せざるを得ない。(略)法人税をみても、政府は企業の国際競争力強化に向けた減税方針を打ち出したばかりだ。そんな中で増税に踏み切れば、企業の競争力低下や日本脱出に拍車をかけることになりかねない。増税の前に政府がなすべき課題は多い」。 

政争やめ実行に移せ

《政治の実行力》河北「提言の数々をどう受け止めて優先順位を決め、肉付けしていくか。これからは政治の仕事である。これまでの遅れを取り戻す迅速な復興支援策づくりが必要だ。提言を受けた首相、延長国会に臨む与野党に自覚と決断と行動をあらためて求めたい」、毎日「今後、提言がどこまで政府の施策に反映されるかが問われる。本来、提言の足らざる部分を補うくらいの気概で政治が総力を挙げるべき局面だが、現状はほど遠い。提言を受け取った首相が復興の担い手となるかすらわからない状況こそ、被災地から希望を奪いかねない。本格復興予算となる3次補正予算案を誰の下で編成するか、与党は早急に結論を出さねばならない」、信毎「肝心なのは提言を実行に移すスピードだ。強い政治力が必要になる。新設される復興庁に力を持たせるにも、特区をつくるにも、各省庁の縦割りを廃し、規制を取り払うことが前提になる。政争ばかりが表に出てくるいまの状況では、とても期待できない」、沖縄「増税論議はもちろん、特別な制度を設ける特区の実現には政治の決断が不可欠だ。ところが被災地そっちのけの政争を見ていると議論は深まるのかどうか不安が募る」、新潟「復旧・復興が思うように進まない一因は、いまの政治状況にあるといって間違いない。復興の方向性を具体的に示し、それに向けてまっしぐらに取り組んでいかねばならない時に、不毛な政局騒動が続いているのだ。懲りない面々には早く目を覚ませと言いたい」。(審査室)

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