2011年 8月9日
隠蔽に内外から批判

中国高速鉄道事故をめぐる社説
国威発揚で安全を軽視

中国浙江省温州市で7月23日夜、落雷で停止していた高速鉄道列車に別の高速列車が追突、4両が高架橋から転落し40人が死亡、200人近くが負傷した。制御システムや運行体制に問題があったとみられるが、当局は事故車両を一時穴に埋め1日半後には営業運転を再開させた。批判が高まり温家宝首相は現地で釈明会見をしたが、国内メディアへの規制は強まり「幕引き」を急ぐ姿勢も見られる。36本の社・論説が安全軽視の体質を批判、事故処理に疑問を投げかけた。

「寄せ木細工」の不安的中

《不安が現実に》朝日「中国の高速鉄道は危ない、という不安が現実になった。(略)肝心の技術が長年をかけて培ったものではなく、各国からの寄せ集めのため、不具合が起きやすいという見方があった。また、突貫工事で架線や信号などのシステムの安全性を軽視している、との声も出ていた」、神戸「日本ではまず考えられない事故だ。(略)事故が起きた路線では在来線型の列車も走り、ダイヤも複雑で、事故になりやすいという指摘があった。もう一つの特徴は、車両や運行管理、信号システムなどの技術を各国から取り入れ、一つの集合体にしたことだ。この点でも安全性が憂慮されていた。事故で不安が的中した形になった」。

《急拡大のツケ》山陽「背景には、国家威信を懸けた中国が鉄道高速化を急速に拡大してきたことがあろう。中国が高速鉄道を本格化させたのはここ10年にすぎないが、営業距離は昨年末までに世界最長の8千キロ超に達し、最高速度は日本の新幹線を上回った」、高知「日本の新幹線の最高時速記録を追い抜き、鉄道省幹部は『中国の技術の多くは日本の新幹線より上』と言い切っていたという。その慢心や過信の裏に、安全最優先の思想が欠如していたのではないか」、中日・東京「建設と速度の両面でスピードを追求した高速鉄道には安全性への懸念が出ていた。(略)開業したばかりの北京―上海間の高速鉄道でも運行トラブルが続いている。世界一にこだわるあまり、安全性を軽視したのではないかとのそしりは免れまい」、産経「国威発揚を最優先した安全性軽視の発想が大惨事を招いた。(略)各国からかき集めた技術で建設を急ぎ、基礎からの開発を留守にしてきた、『寄せ木細工』のツケが一気に出た結果ともいえる」。 

《不信招く対応》日経「事故の原因や現場の処理をめぐる当局の対応には首をかしげざるを得ない。(略)システムの不安を解消しないまま、事故から1日半で運行を再開したことは、理解に苦しむ。国民や利用者が納得できる再発防止策を実施したうえで再開するのが筋だ。追突した車両の最前部を破壊し、車両を現場近くに埋めたことは、さらなる不信を招く」、琉球「『安全軽視』『事故原因隠蔽(いんぺい)』に映る性急な対応が国内外から強い批判を浴び、今度は逆に埋めた列車を掘り返した。こうした対応が、中国の大量交通機関に付きまとう安全性への懸念を高め、国際的な信用を大きく失墜させたことは間違いない」、読売「今回の事故では、中国政府の隠蔽体質と人命軽視の姿勢に、国民の怒りが爆発した。事故直後に車両を地中に埋め、国民から『証拠隠滅だ』との批判が起きるや、あわてて掘り出したり、事故発生から1日半で運行を再開したりした。捜索活動の打ち切り後に、車両から2歳の女児が救出された。人命軽視もはなはだしい、と批判を浴びたのは当然だ」、愛媛「抗議に立っていた遺族が姿を見せなくなるなど、当局の切り崩しも見え隠れしている。賠償額の大幅引き上げは口封じを図り事態の収束を優先するかのようで、原因調査がどこまで進むのか懸念せざるを得ない」。

汚職体質の改善も必要

《足元を固めよ》上毛・日本海・大分など「中国は海外の技術を基にした高速鉄道の最新車両を『完全な国産』と主張して輸出を目指し、特許申請の国際的手続きを開始。日本や欧州で反発が強まっている。中国は輸出の前に、国内の高速鉄道網の安全な運行システムを確立するなど、まず自らの足元を固めるべきだろう」、毎日「今回の事故の背景には、国威発揚の危険な体質がある。それが構造汚職につながっている。計画を推進した前鉄道相、前副技師長らが日本円で総額二千数百億円の賄賂を建設業者からとった容疑で逮捕された。事故の直前には6人目の鉄道省高官、前運輸副局長が捕まった。(略)事故原因の徹底究明とともに汚職体質の改善が必要だろう」、中国「気になるのは共産党が国内メディアに対し事故をめぐる独自の報道を禁じたことだ。それで政権批判を抑えたとしても、問題解決にはなるまい。海外からの観光、ビジネス客も利用する高速鉄道。対応によっては国そのものへの信頼感を一層損なうことを中国政府はまず自覚すべきだ」。(審査室)

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