2011年 9月20日
経験則を超える事態

台風12号豪雨被害をめぐる社説
被害拡大、行政判断ミスも

今月初めに日本列島を横断した台風12号は、広い暴風雨域を保ちながらゆっくり進んだため各地に記録的な豪雨をもたらし、紀伊半島を中心に死者・行方不明100人に迫る大きな被害を引き起こした。和歌山・奈良・三重県では河川の氾濫や土砂崩れが相次ぎ、道路や電話の寸断で集落が孤立、土砂ダム決壊が懸念される事態となった。35本の社・論説が被害の激しさや避難の問題点を指摘、防災への備えを訴えた。

「深層崩壊」の可能性も
 

《記録的な豪雨》紀伊「台風12号は8月30日から紀南地方に断続的に雨を降らせ続けた。4日まで72時間の最大雨量は県南部すべての観測地点で観測史上最高を記録し、千ミリを超えた地点も相次いだ」、福井「長時間にわたる大雨で、奈良県上北山村の一部では累計雨量が2000ミリを超えた。(略)避難住民が『経験したことがない』と声を震わせ、自治体関係者も言葉を失った。東日本大震災による巨大津波同様、この豪雨災害もまさに『想定外』であろう」、愛媛「台風の恐ろしさが進路よりも速度にあることを、あらためて思い知らされる。12号はまれにみる『のろのろ台風』だった。徒歩や自転車並みの速さで列島に居座ったため、想像以上に広く長く猛威を振るった」、信毎「雨の降り方が変わりつつある。短時間に集中して降る『ゲリラ豪雨』に加えて、台風が接近するときなどは、激しい雨が何日も同じ地域に降り続く。(略)経験則を超える事態が起きている」。

《山間部を直撃》西日本「今回の災害で特徴的なのは、被害が下流の河口部ではなく、上流の中山間地で目立ったことだ。(略)多数の死者・行方不明者を出した和歌山県那智勝浦町は、過去にも台風被害に遭っているが、上流部の被害は今回が初めてだった」、高知「河川の氾濫と大規模な土砂崩れが各地で発生した。中でも、多くの犠牲者が出た土砂崩れは『深層崩壊』の可能性が指摘されている。豪雨や地震などを引き金に、地下深くの岩盤から大きく崩れる現象だ」、北海道「山の一部が地盤ごと崩れる『深層崩壊』も起きたようだ。巨大な岩や木々が集落に押し寄せた。津波並みの威力にあらためて驚かされる」、毎日「被害が大きかったのは山あいの過疎地が多く、お年寄りの避難に手間取ったケースもあり、こうした地域で災害が起こった場合の深刻さと対策の難しさも浮き彫りになった」。

《避難指示なし》上毛・岐阜・長崎など「1人が亡くなり多数が行方不明となった奈良県五条市内の地区には、市から避難指示が出ていなかった。(略)奈良県十津川村や、住宅6棟が土砂にのみ込まれた和歌山県田辺市でも多くの死者・不明者が出たが、いずれも避難指示はなかったという。行政の判断ミスが被害拡大につながった可能性も否定できない」、中日・東京「台風12号に伴う大雨による土砂災害などの犠牲者が出た地区は、避難勧告すら出ていないところがあった。危険地域からの避難は一刻を争う。〝空振り〟を恐れず、迅速な対策をとるべきである」、朝日「確かに記録的な豪雨だった。しかし、突然起きる地震とは違って、台風の危険は相当程度、予測できる。(略)台風や水害時には、最悪を想定し、判断に迷ったら逃げる。これを約束事として徹底する。それが改めての教訓である」。

避難基準の見直し必要

《対応見直しを》読売「避難勧告・指示は、災害対策基本法に基づき、市町村長が判断して発令することになっている。ただ、近年の自然災害では、この仕組みが十分に機能しないケースも目立つ。風水害の形態や規模が変化してきたためだ。(略)状況の変化に合わせて、市町村長に災害対応が委ねられている現状を見直す必要があろう」、日経「気象庁は昨年、それまで都道府県の地域ごとに出していた大雨などの警報を、市町村ごとに出す方式に改めた。しかし、市町村がそれをどう活用し、避難指示や勧告を出すかがあいまいで、結果的に避難の遅れにつながった。国と市町村がもっと連携し、避難の基準作りを急ぐべきだ」。

《災害に備えを》新潟「自然災害のすさまじさを、またしても思い知らされた。東日本大震災から半年足らずである。本県が記録的豪雨に襲われたのはつい7月末のことだ。『災害列島』で暮らす知恵があらためて問われている」、産経「異常気象が多発する当今において、民主党が否定的なダム建設も治水や電力確保の観点から再考されるべきではないか。(略)気象災害への備えには、山林などの生態系が持つ潜在力を再生させる工夫も必要だ」、静岡「東日本大震災以降、防災意識は高まっている。だが、津波避難対策に関心が集まりがちではないだろうか。水害、土砂災害に対する備えに綻(ほころ)びはないのか―。(略)この機会に、いま一度、点検してもらいたい」。(審査室)

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