2011年 11月15日
首相は明確な針路示せ

所信表明と代表質問をめぐる社説
「安全運転」「説明不足」

野田佳彦首相は10月28日、衆院本会議で所信表明演説を行い、震災復興と原発事故収束に向けた総額12兆円余りの第3次補正予算案、復興増税案の早期成立を訴えた。首相は「政治家の覚悟と器量が問われている」と呼びかけたが、説明不足、安全運転が際立つ内容。31日から行われた代表質問でも、焦点の環太平洋連携協定(TPP)や消費増税問題で踏み込んだ言及はせず。約60の社・論説には、国政の停滞を打開する「覚悟と器量」が首相自身にあるのか、と問い返す論調が目立った。

危機感は分かるが……

《覚悟見えぬ》朝日「首相が語った財政への危機感は、私たちも共有する。歳出削減や増収策を徹底しても、なお足りない部分を国民が分かち合うのはやむを得まい。(略)それにしても、である。9月以来、2度目の首相の所信表明なのに、あまりにも首相の覚悟が見えない。『安全運転』はわかるが、これで政治が動くのかと心配になる」、産経「『安全運転』ばかりが目立ったのは極めて残念である。首相が明確な針路を示さなければ、国政の停滞は打開できない。冒頭で掲げた『政治家の覚悟と器量』を問われているのは首相自身であることを自覚すべきだ」、西日本「増税の要請が、国民や与野党の国会議員に向け、総じて『お願い』の口調となるのはやむを得ないのかもしれない。しかし、国民に新たな負担を求める以上、平身低頭だけでは済まされない」。

《通り一遍》毎日「なぜ税と社会保障の一体改革、つまり消費税引き上げ問題に一言も触れなかったのか。多くの国民は復興増税にとどまらず、消費税や社会保障の行方に関心を持っている。今国会の議案ではないとはいえ、何らかの形で首相の考えを示してもらいたかった」、高知「環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加については、『できるだけ早期に結論を出す』と9月の所信表明演説と全く同じ表現だ。賛否両論が渦巻く中、日本への影響をはじめ、情報が十分に提供されているとは言い難い。国民への説明も全く足りない。首相の言及不足が反対派を刺激するのを避けるためであるなら、姿勢が問われよう」、信毎「沖縄県の普天間飛行場の移設問題も、通り一遍な内容だった。首相は『沖縄の皆様の声に真摯(しんし)に耳を傾け、誠実に説明し理解を求める』と述べている。だが、沖縄県民の反対を知りながら、強引にことを進めようとしているのは野田政権である」。

《身を切れ》福島民友「野田首相は復興財源を賄う臨時増税への国民の理解を求めた。その前にしなければならないことは国民が納得するような大胆な歳出削減だ。行政の無駄や非効率の根絶に粘り強く取り組まなければならないのに具体策についてもはっきりと示さなかった」、中日・東京「例えば、政府が提出している公務員給与を約8%削減する特例法案。『早期成立が欠かせません』とどこか人ごとで、絶対に成立させるという意気込みが見えない。公務員優遇と批判された埼玉県朝霞市などの公務員宿舎についても『抜本見直しにも着手しました』と事実関係の説明にとどめ、中止を明言したわけではない」、新潟「国民負担増の前提として『政治家は身を切らねばならない』と首相は言った。最初に挙げたのが首相と政務三役の給与の自主返納だ。役に立たないとは言わないが、話が小さい。国家公務員給与を削減する臨時特例法案の内容を先行実施するだけのものである。与野党で論議が始まった1票の格差是正や定数削減、選挙制度見直しは『議論が進むことを強く期待する』と、まるで人ごとのようだ」。

改革実現へ野党も協力を

《政治を前に》日経「自民党の谷垣禎一総裁は環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加問題で『政府が情報提供しないため、参加の可否を判断するための国民的議論が全く熟していない』などと批判した。農業対策に十分な予算が確保できるのかという点にも懸念を表明した。しかし自民党の立場を明確にせず、政府を批判するだけでは、無責任である」、読売「谷垣氏はまた、消費税率の引き上げを含む社会保障と税の一体改革について、複数税率など逆進性対策や社会保障機能強化の進め方などの議論が民主党に欠け、『前途は多難だ』と述べた。だが、そうであればこそ、民主、自民、公明3党で協議すべきである。社会保障制度改革の実現には、自民党が政権に復帰しても民主党の協力が欠かせない」、茨城・日本海など「谷垣氏が解散を迫る気持ちは分かるが、現実的ではない。3次補正が成立すれば社会保障と税の一体改革など次の課題が待ち受けている。野党も協力すべきは協力して政治を前に動かしてほしい」。(審査室)

ページの先頭へ