2011年 12月6日
真相明かされぬまま

オウム裁判終結をめぐる社説
被害者救済策の充実を

最高裁は11月21日、地下鉄・松本サリン事件などで殺人罪に問われ一、二審で死刑判決を受けたオウム真理教の元幹部、遠藤誠一被告の上告を棄却。オウムをめぐる刑事裁判は全て終結した。16年にも及ぶ裁判で元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚ら13人の死刑が確定したが、一連の凶悪事件の動機など全容の解明にはほど遠い。43本の社・論説が裁判の問題点や被害者への賠償などを論じた。

行政、警察、マスコミに教訓

《不満》読売「それにしても裁判に時間がかかりすぎた。その象徴が松本死刑囚の公判だ。(略)最大の要因は、弁護団の露骨な引き延ばし戦術だった。争点と関係のない尋問を延々と続けた。松本死刑囚も不規則発言で度々、退廷命令を受けた。この反省から、初公判前に争点を絞り込む手続きが導入された。裁判員制度が行われている現在、裁判の迅速化は、司法界全体で取り組むべき課題である」、信毎「刑だけが次々に決まっていくことに被害者をはじめ、多くの人が割り切れない思いを抱いていたのではないか。(略)事件の真相と背景が明らかにされることが求められていたのに、司法は納得できる答えを導き出せなかった」神奈川「オウム裁判とは、一体何だったのだろう。関係者の胸に去来するのは、ある種の無力感、いわば司法制度への諦めにも似た思いではないだろうか」。

《反省》山梨「一連の事件は行政や警察の対応にも教訓を残した。違法建築をはじめとする違法行為への対応が遅れた行政や、坂本堤弁護士一家殺害事件など証拠品がありながら摘発まで時間がかかった警察…。(略)迅速に手を打たなかったことがさらなる凶悪犯罪を招いたことは否定できないだろう」、佐賀「94年に長野県松本市の住宅街で、教団がサリンを散布した松本サリン事件では、8人が死亡し、660人が重軽傷を負った。警察が河野義行さんの家から複数の薬品を押収したことから、被害者である河野さんを犯人扱いした報道が相次いだ。マスコミは今後の自戒としたい」、中日・東京「捜査の見込み違いが地下鉄サリン事件を防げなかった背景にある。警察のリーク情報をうのみにして、河野さんを容疑者扱いする報道を続けた過ちもあった。(略)『警察記者』はいても、独自の視点で取材する『事件記者』はいなかった。河野さんの冤罪(えんざい)を生んだ体質は改善されたのか」。

《執行》徳島「裁判が終結したことで、死刑確定者は今後、執行の段階に入る。そうした中、松本死刑囚に対しては『法に従って速やかに執行することに正義の実現がある』『真相究明が最優先。執行で事件を闇に葬ってはならない』など、さまざまな意見が交錯している。法務当局の今後の動きを注視したい」、産経「まず、平岡秀夫法相は『事件の首謀者』である麻原死刑囚の刑を速やかに執行すべきだ。しかし、9月の就任時に『国際社会の(死刑)廃止の流れや国民感情を検討して考える。考えている間は当然判断できない』と語った平岡氏は執行を見送り続けている。法相の職責が放棄されたままでは、法の下の正義は守られない」、朝日「もうひとつ見逃せないのは、死刑に対する抵抗感が社会全体から薄れたことだ。世論が厳罰を求め、それを受けた司法の判断が世論をさらに強固にする。(略)このままでいいのか」。

カルト生む社会情勢を懸念

《賠償》毎日「08年にオウム事件の被害者救済法が施行され、被害に応じて給付金が支払われた。それとは別に、(オウム真理教の)二つの後継団体から被害賠償の支払いが続くが、順当に進んでいるとは言えない。しっかり賠償を続けることが最低限の社会的責任だろう」、京都「被害者や遺族に給付金を支給する救済法が成立したのは地下鉄サリン事件から13年後。米中枢同時テロの際、米政府が1カ月以内に被害者補償の基本法案を整えたことを考えれば、わが国の救済策がいかに遅れていたかは明白だ。内容を充実させ、心のケアなども定期的に行うべきだ」。

《不安》日経「かつてオウムに走った若者の多くは自己実現の道を探しあぐね、孤独にさいなまれ、『居場所』を求めていた。こんどの震災後の不安な時代は、オウムが伸長したバブル後の1990年代以上に、新たなカルト組織が生まれ育つ危険が大きいといってもいい」、北海道「事件を、先行きが見えない社会に対して抱く漠然とした不安感と結びつけて読み解く見方もある。現実の社会になじめず、自分の居場所を見つけられない若者たちは、当時より増えているのではないか」、新潟「若者の就職難や派遣切りなどが常態化している現在の社会情勢は、バブル崩壊後の当時より悪化していると見ていい。将来への絶望感を募らせ、現実から逃避する。そうした若者らが同じような道をたどる懸念は捨てきれない」。(審査室)

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