大震災被災者に配慮

倫理面から見た2011年の新聞報道
総指摘件数は522件

《東日本大震災》未曽有の惨禍をもたらした東日本大震災では、記者個人あるいは報道機関も、さまざまな倫理的課題に直面した。

▽遺体の撮影 新聞協会加盟紙上では、死者の尊厳と遺族心情等への配慮から遺体の写真をそのまま掲載したケースは無かった。一方、震災被害の悲惨さを伝えるためにも、個人が特定されないような写真であれば掲載の意味があるのではないか、との意見もあった(朝日「報道と人権委員会」での本林徹元日弁連会長の発言など)。

▽メディアスクラム 児童の7割が死亡あるいは行方不明になった宮城県石巻市立大川小学校には、各社の取材が殺到。卒業証書授与式では「子供を亡くした親の気持ちが分からないのか」などPTAから苦情が出たが、こうした一部の例を除いては、被災者との間での大きなトラブルは報告されていない。むしろ、過去の地震で報道陣が避難所に集中した経験を踏まえ、岩手県報道責任者会議が3月、被災者取材では節度を持って取材することを問題発生前に申し合わせるケースなどがあった。

▽原発取材と記者の安全 各社は記者の安全に配慮しつつ取材・報道を展開したが、新聞協会が開催する5月の紙面審査全国懇談会で、講師の一人、福島民報の浜津三千雄取締役編集局長は、「(福島第一原発の水素爆発後)ある時を期して2日間ほど福島県から大手メディアの記者が一斉に消え、住民を不安に陥れた。危険があれば逃げるのは鉄則。だが住民がそのままの状態なのに記者だけ退却するのは妥当か」と問題提起した。

オフレコ報道、見解割れる

《オフレコ懇談―沖縄防衛局長》米軍普天間飛行場の移設問題をめぐり、防衛省の田中聡沖縄防衛局長が11月28日、移転先の環境影響評価書の提出時期を明言しない理由を「これから犯す前に犯しますよと言いますか」などと説明した。オフレコを前提とした非公式な懇談会での発言だったが、琉球は「人権感覚を欠き、重要な政策に関する内容。公益性は高い」として、沖縄防衛局に通告した上で翌29日付朝刊1面で報じた。同日付夕刊以降各紙も報道。しかし、オフレコ発言を報じることの是非については、東京が「発言の重大性を鑑みれば報道は当然」、読売が「取材先との信頼関係が築けない」などとして見解が分かれた。

当否の判断は難しく

《目的外使用―写真・腕章》取材で撮影した殺人事件の容疑者の写真を記者が滋賀県警に提供していた、と朝日と京都が6月明らかにした。県警は容疑者を指名手配、情報提供を呼びかけた。両社の記者はそれぞれ手配前に容疑者自宅前で撮影した写真を県警に提供、朝日の提供写真は県警が作成したチラシに使われた。両社は「結果として報道目的以外の使用となった」「報道機関としてあってはならない。極めて遺憾」などとコメントした。一方、千葉で11月発生したバスジャック事件では、県警の説得が続く現場を取材していた千葉日報の記者が、捜査員の協力要請に応じ報道用の自社腕章を貸した。容疑者は「マスコミを呼べ」などと要求していた。同紙は上司に報告するべきだったと記者を口頭で注意したが、「報道倫理、記者倫理が全てに優先するわけではない。今回は当否の判断が難しい」(大沢克之助編集局長)としている。

《指摘件数》新聞協会審査室が2011年、新聞倫理綱領、新聞広告倫理綱領の精神に照らし、協会会員の紙面に掲載するのは不適当と判断した記事・写真等の件数(「指摘件数」)は522件で、前年(694件)を下回った。指摘の基準は、もっぱら〝性表現の行き過ぎ〟。前年多くの問題表現を掲載してきた夕刊紙が09年に廃刊。その後も指摘件数は減少が続いている。内訳は、写真が266件、イラスト・漫画が256件だった。性風俗産業やアダルトビデオの紹介記事中の指摘が多い。

《第三者機関》報道で名誉毀損(きそん)やプライバシー侵害など人権侵害問題が起きた場合に、社の対応や解決手続きが適切だったかなどを検証する第三者委員会は、11年4月現在、新聞協会加盟新聞・通信社中、40社41組織ある。(審査室)

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