2012年 7月3日
信頼回復の第一歩に

原子力規制委員会設置法をめぐる社説
安全保障目的、付則が波紋

国の原子力規制を新たに担う原子力規制委員会の設置法が6月20日、参院本会議で可決、成立した。委員5人の規制委と職員1千人規模の規制庁は9月までに発足する見通しだが、民主、自民、公明3党の修正合意で、設置法の付則による原子力基本法の改正が行われ、国内外に波紋が広がった。50を超す社・論説から。

危機対応できる委員長を

《新たな組織》東奥「規制委は、国家行政組織法3条に基づく独立性の高い組織とし、事務局として原子力規制庁を置く。福島原発事故の教訓を基に、産官学もたれ合いの『原子力ムラ』から距離を置き、信頼に足る強固な安全規制組織にすべきだ」、南日本「規制委を支える事務局の官僚には、出身官庁に戻さない『ノーリターン・ルール』を課した。5年間の経過期間はあるが、中立性を保つ一歩として歓迎したい」、読売「平時の防災体制を強化するために、首相を議長とする『原子力防災会議』が新設されることも修正協議の成果と言えよう。規制委と関係府省、電力会社、自衛隊、自治体などが普段から緊密に連携し、信頼関係を築くことが重要である」、福井「問われるのは組織の形ではなく機能と陣容だ。平時と緊急時に、国民から信頼のおける体制づくりができるのか。政府は新組織が今後の原子力政策の行方を左右することを肝に銘じてほしい」。

《首相の権限》新潟「結局、首相指示権は①規制委の専門的判断を覆して介入できない②規制委の対応が遅い場合、判断を促すことができる―で決着した。(略)修正合意は妥協の産物だ。それだけにあいまいな部分が多い。何をもってして『専門的』『対応の遅れ』とするかなど線引きは困難である」、北海道「委員は国会同意人事だが、これほど重大な決断の責任を専門家集団が負いきれるのだろうか。規制委の判断に基づいて、住民避難や自衛隊、警察の出動などを決めるのは首相だ。専門的判断とそこから生じる結果について、責任の所在を明確にする必要がある」。

《委員の人選》福島民友「規制委の委員は、原発の再稼働を判断するための新たな基準づくりから原発事故の対応まで大きな権限をもつ。緊急時に対応を一任される委員長の責任はさらに重い。専門性だけでなく、中立で冷静な判断ができる人選が欠かせない」。日経「与野党内の一部には脱原発派を加えるべきだとの声があるが、それはおかしい。そもそも規制委は実務機関であり、原子力政策を決める組織ではないからだ。事故などの際、重要な判断を下す役目があるなら、危機対応ができる人材の起用が望ましい」。

《40年規制》中国「原発の運転期間を原則40年とする規制強化策が盛り込まれたものの、見直しの権限は規制委に託してしまった。これでは委員の人選と判断次第で40年規制が骨抜きになりかねない」、茨城・大分など「40年廃炉には科学的な根拠がない、との批判もあるが、『科学的な知見が不十分なことを行動を取らない理由にしない』との『予防原則』の立場に立って堅持すべきだ。(略)それが失われた原子力規制への市民の信頼を取り戻す第一歩となる」。

基本法改正に疑問

《基本法改正》朝日「原子力基本法に『我が国の安全保障に資する』という文言を入れる法改正が成立した。核兵器開発の意図を疑われかねない表現であり、次の国会で削除すべきである」、毎日「法案の国会提出から実質4日間のスピード審議である。『安全保障』目的について議論が尽くされたとは言えない。規制委設置のための法律、しかもその付則によって基本法を改正するやり方にも、大いに疑問がある」、沖縄「本来ならば基本法本体の改定を主とする法案を提案し、正面から議論を深めるのが筋だろう。(略)しかも、この追記は当初の政府案にはなかったものだ。民主と自民、公明両党の修正協議の中で、自民の意向を受けて加えられたという」。

《波紋広がる》中日・東京「二十日の参議院環境委員会では、核物質の軍事転用や核テロを防ぐための『保障措置』を意味するとの説明があったが、それなら『保障措置』と書けばいいではないか」、産経「第2条の第1項を再度、確認してもらいたい。『原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として』と、しっかり規定されているではないか。この第1項を受けて続く第2項の『安全保障』が核兵器開発などに直結しないことは明々白々だ」、京都「非核三原則を持つ日本は原子力利用を平和目的に限っているが、プルトニウムを保有し、核燃料再処理も放棄していない。韓国からは真意を注視するとの反応も出ている。国内外に疑念を抱かせてはならない。再考を求めたい」。(審査室)

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