2012年 9月25日
鎮静化の糸口を探れ

尖閣国有化と反日デモをめぐる社説
「愛国無罪」は法治の否定

政府は11日、沖縄県石垣市の尖閣諸島の3島(魚釣島、北小島、南小島)を地権者から20億5千万円で購入し国有化した。領有権を主張する中国政府は強硬に抗議し、過去最大規模の反日デモが暴徒化して各地で日本企業が襲撃される事態になった。80本を超える社・論説が懸案を論じた。

国が取り組むべき問題

《国有化》西日本「(東京都の石原慎太郎)知事は尖閣に各種施設を建設する意向を示しており、実行されれば日中関係がさらに不安定化するとの懸念が強まっていた。石原知事の問題意識は一定の理解を得ているが、外交交渉や領土の保全は専ら国家の仕事である。特に領有権争いは総合的な外交力で解決にあたる必要があり、国と自治体がそれぞれの思惑で動けば混乱を招きかねない。一本化して国が取り組むのが本筋だ」、北日本「都知事に先を越された政府が押っ取り刀で交渉に割り込んだ形だが、領土に関わる問題はもともと国が担うべきであり、国有化は妥当な措置である」、朝日「中国側では、石原氏の動きに乗じて日本政府が尖閣の支配を強めたとの受け止めが強い。だが、中国への挑発的な言動を繰り返す石原氏の管理下に置くよりも、国有化の方が無用な摩擦を抑えることができる。都の購入を止める方法は、国有化のほかになかった。(略)野田政権は、港湾施設の整備や灯台建設はせず、島の現状には手を加えない方針だ。中国への配慮からだ。中国はこうした点をしっかりと受け止めるべきだ」。

《自制を》南日本「今回の尖閣諸島国有化をめぐっては、中国国営テレビが連日対日批判を大々的に繰り広げ、国民の反日感情をあおっている。ナショナリズムに訴える政治で両国関係をさらに悪化させても得るものはないはずだ」、神戸「見過ごせないのは、中国商務省高官が『中国の消費者が理性的な方法で自身の考えを表明するのは彼らの権利であり、政府は理解を示すべきだ』と述べたことだ。デモや日本製品ボイコットを容認した発言である。(略)緊密な日中経済活動への影響は避けられず、中国側にも何の益ももたらさない」、日経「中国では2005年にも反日デモが各地で発生し、しばしば暴徒化した。感情にまかせた違法行為が再び公然と行われたことに、慄然とする。7年前と同様に反日的な活動を容認するかのような中国政府高官の発言にあきれる。中国当局は違法行為を断固として取り締まるべきだ。共産党政権の指導部は、かねて法治の確立を唱えてきた。反日的な行動への当局の対応を見る限り、どこまで本気なのか疑わざるを得ない」、読売「中国政府には、尖閣諸島国有化に反発する国民の怒りを対日圧力に利用する政治的思惑がある。だが、愛国的行為は罪に問われないとする『愛国無罪』のスローガンの下、破壊行為を正当化するのは法治の否定だ。特定国の製品の不買は自由貿易に反する。中国のためにもならない」。

国際社会に正当性主張を

《日本は》産経「日本は、中国の官民一体の反日圧力に屈してはならない。うろたえることは禁物だ。中国側が、圧力に弱い日本に揺さぶりをかけている面を忘れてはならない。野田政権が直ちになすべきことは、尖閣諸島が歴史的にも国際法上も正当な日本領土だと改めて国際社会に宣言することだ」、沖縄「民主党代表選や自民党総裁選の候補者たちが、有権者を意識して普段よりも1オクターブ高い声で『実効支配を強化せよ』と叫べば、中国の世論はこれに反発して1オクターブ高い声で『尖閣死守』を主張するだろう。(略)両政府が大局的立場に立って冷静に行動することをあらためて要請したい。事態を鎮静化させるための糸口を探ること―それが外交だ」、新潟「本県から中国に進出している企業は多い。対立が長引けば、取引や事業に響きかねない。先行きに懸念が広がっている。スポーツや文化交流にも影響が及んでいる。(略)『こういう時こそ』。中国の国慶節を祝う在新潟中国総領事館主催の記念レセプションでは、日中双方の出席者が地域間交流を深めていく重要性を再認識した」、毎日「両国はあらゆる対話のパイプを駆使して対立を回避し、事態鎮静化に動くべきである。(略)民主党も自民党も党首選のさなかだが、毅然(きぜん)とした強硬姿勢で臨むだけでは問題解決にならない。アジア太平洋の平和で安定した秩序をどうつくるか、米国も巻き込んだ外交戦略こそを論じてほしい」、中日・東京「一九八七年に日本企業の先駆けとして中国に進出したパナソニックの関連工場も襲われた。鄧小平氏直々の依頼に応え、中国の近代化を手伝ってきた。奨学金提供や環境美化など、中国で積極的に社会貢献している日系企業は多い。そうした企業や邦人が中国進出に失望感を持たないような、政治の支援が早急に求められる」。(審査室)

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