2013年 2月5日
治安リスクどう回避

アルジェリア人質事件をめぐる社説
テロ防止へ非軍事支援を

イスラム武装勢力が1月16日、アルジェリアの天然ガス施設を襲撃し、日揮の駐在員ら外国人約40人を人質に立てこもった。アルジェリア軍は翌日急襲して武装勢力を壊滅させたが、日本人10人が死亡した。海外で働く邦人をいかに守るかという難題を90本超の社・論説が論じた。

人命軽視の掃討作戦

《強硬策》徳島「事件発生からわずか2日目で軍事作戦に出たアルジェリアの対応は強引すぎたのではないか。(略)助かった人質の証言によると、武装勢力メンバーが人質を5台の車に分乗させて移動し始めた際、軍のヘリコプターが襲い、4台を破壊したという。これは救出作戦ではなく掃討作戦である。人質の命を軽視した、あまりに慎重さを欠く行動だと非難されても仕方ないだろう」、新潟「米英やフランスなどは、作戦の結果は『テロリストが責任を負う』という立場を崩さない。(略)アルジェリアの当局、メディアは事件での軍の仕事を『成果』として評価しているようだ。人質を乗せた犯行グループの車を軍のヘリが爆撃している。無差別の攻撃ではないのか。罪のない人の命を奪う攻撃を正当化し、容認することにはとても賛同できない」、読売「(セラル首相は)武装勢力が人質を連れて国外逃亡を図ったほか、ガス田施設を破壊しようと爆弾を仕掛けており、それを阻止するには早期制圧が不可欠だった、とも説明した。今回の武装勢力の犯行を許せば、第2、第3のテロを誘発しかねない。アルジェリア政府としては、武力行使以外に選択肢がなかったということなのだろう」。

《自衛隊法》産経「自衛隊法には海外で災害やテロが起きたときに、航空機や船舶で邦人を輸送できる規定がある。しかし、現地の『安全が確保されている』という条件がネックとなり、実際の派遣を困難にしている。陸路の輸送についても定めがない。空港や港までしか行けないのである。安全確保が難しい地域だからこそ自衛隊の出番という『常識』が否定され、『危ないところには行かない』といった論理がまかり通っている。(略)根本的な解決には憲法改正が不可欠だが、当面は憲法解釈を変更することが急務だ」、信毎「海外で働く邦人の安全を確保するには、情報の収集、分析態勢や関係国との連携をしっかりさせるのが先決だ。(略)事件はアフリカの砂漠の真ん中で起きた。日本にとってはなじみの薄い地域である。事情は自衛隊も変わらない。様子がよく分からない場所に邦人の安全確保のため出向くことは現実的ではない。人質をむしろ危険にさらす可能性もある」。

《企業》日経「日本企業は事件の再発を防ぐために、テロや争乱に備えた情報収集体制や、非常時の行動を定めた安全対策を再度点検する必要がある。(略)中国での反日暴動や、インドの日系自動車工場での従業員の暴動など、新興国事業には先進国とは異なるリスクがある。治安や労務などのリスクをどう最小化できるかが、新興国市場で勝ち抜くための条件となる」、毎日「アフリカに限らず、成長余力のある新興国にはテロなどの治安リスクがつきまとう。国際化によるビジネスチャンスと社員が事件に巻き込まれる危険は表裏一体ともいえるだろう。(略)今回、事件に巻き込まれた日揮は、アフリカや中東での実績が豊富で、安全対策にも力を入れていたとされる。それでも危険を回避できなかったのだから、事態は深刻だ」。

各国と情報交換を密に

《重い課題》神奈川「日揮の駐在員らは異国の地で、天然ガスの発掘に携わってきた。エネルギー政策転換の最前線を担ってきたともいえる。そうした人々の安全を守り切れなかったことは、日本の行方を左右しかねない重大な問題だ。(略)6月には横浜市でアフリカ開発会議(TICAD)が開かれ、世界中から注目を集めるだろう。その場を通じてテロ根絶の方針を確認するとともに、今回のような緊急事態に人命重視で臨む姿勢をアフリカ各国に促していかねばならない」、朝日「政府は、地域情勢の調査を深めつつ、旧宗主国である欧州諸国やアフリカ各国との情報交換を密にする必要がある。企業とも情報を共有すべきだ。イスラム過激派が勢力を広げる根本には、若者の失業率の高さや貧富の格差がある。社会的不公平を正すには、貧困の撲滅や雇用の創出が欠かせない」、中日・東京「米欧のテロとの戦いは、たとえば目下、アフリカのマリでフランスが行っている武力支援がある。軍事訓練、武器の補給という方法もあるだろう。しかし日本には、欧米のような軍事介入、軍事支援とは一線を画した、日本ならではの支援があるはずだ。経済、医療、教育、文化さまざまな支援分野がある。(略)犠牲になった人々の無念にこたえるような貢献を、日本はぜひ果たしてゆきたい」。(審査室)

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