2013年 3月26日
被災者本位の復興急げ

東日本大震災2年をめぐる社説
原発惨事の痛み、かみしめて

東日本大震災から2年。死者1万5881人、行方不明者はなお2668人に上る。岩手、宮城、福島の東北3県を中心に被災地の復旧・復興が遅れている。31万人を超える被災者がいまも避難生活を強いられる。東京電力福島第一原発事故では廃炉への道筋が見えず、住民帰還のための除染も滞る。震災2年後の3月11日をめぐり、120本を超す社・論説が復興の加速を訴え、記憶の風化を戒めた。

住宅確保に不安募る

《不安》河北「被災地では生存権が脅かされている。いら立ち、不安、焦りが募る。はっきりしていることがある。国の被災者に対する『いとおしさ』が決定的に不足しているのだ。震災は天災だが、その後の窮状は人災と言うほかない」、岩手日報「見えてくるのは、数年後の自分がイメージできず、1人で悩む被災者の姿だ。相談する相手もなく、孤立している人が目立つという。岩手日報社が行ったアンケートでも、今後の不安は『住宅の確保』『自分や家族の体調』が抜きんでて多かった。将来が不透明な理由の一つは、生活の基盤となる住宅建設の遅れだ」、読売「被災地のプレハブの仮設住宅には、今も約11万人が暮らす。不自由な生活にストレスや不安を訴える住民が増えていることが懸念される。安定した生活が送れる新住居に早く移れるよう、自治体は復興住宅の建設を急ぐべきだ」。

《復興》北海道「被災者から見て、復興の足取りはあまりに重い。政策が実態に合わない弊害が続いてきた。国が被災地を苦しめてきた2年間と言っていい。遅れを取り戻すには、被災者本位の制度に組み立て直すほかない。政治、行政が一体となって取り組んでほしい」、福島民報「雇用をめぐり不安定な状態が続く。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故以降、求人が急激に増え、人手の足りない職種がある。求人と求職がかみ合わない『雇用のミスマッチ』も起き、希望の多い正社員の求人は少ない。復興を支える人材確保、避難者帰還を実現するためにも、受け皿となる多様な職種を用意する必要がある。施策の充実が急がれる」、日経「東北の将来を考えると、地元企業などを大震災以前の状況に戻すだけでは不十分だ。例えば、水産業では漁船や加工施設の復旧が進むが、競争力を高めるためには関連業者をできるだけ1カ所に集積させ、生産性を高める必要がある。農地の規模拡大も不可欠だ。再生可能エネルギーなど新産業の立地を後押しすることも欠かせない。産業の復興なくして、安定した雇用は生まれないだろう」。

《原発》福島民友「東京電力と国には、第1原発の廃炉に向け事故の収束を急ぐことを重ねて求めたい。同社は、第1原発は安定的な冷温停止状態にあるとするが、油断はできない。収束に向けて全力を傾注してほしい」、毎日「安倍晋三首相は、民主党政権が掲げた『2030年代に原発ゼロ』という目標を見直すという。経済界を中心に早期の原発稼働を望む声も強まる。しかし、『原発ゼロ』からの後退は認められない。再出発する原子力政策の起点は、あの事故であることを忘れてはならない」、中日・東京「エネルギーとしての原子力は持続可能性が極めて低いという現実を、福島の惨事が思い知らせてくれたのだ。見方を変えれば原子力時代の終焉(しゅうえん)は、持続可能な社会への移行を図るチャンスに違いない。そのような進化を遂げれば、世界に範を示すことにもなる」、産経「福島事故の完全収束には、長い年月がかかる。一方で、世界的にみれば原発は増え続ける傾向にある。安全な原発を必要とする世界の求めに対応するためにも、事故の痛みをかみしめつつ原発の再稼働に取りかかるべきだ」。

関心薄れていないか

《風化》神戸「東北3県で活動する全国からのボランティア数そのものは伸び悩んでいる。全国社会福祉協議会によると、2年間で計約118万人と、阪神・淡路の同期間に比べて約25%も少ない。特に昨秋以降は大きく減少した。被災地外の関心の低下が懸念されている」、佐賀「時の流れとともに、私たちの社会から被災地への関心が徐々に薄れてきてはいないか。2万人近くが犠牲になり、今なお、多くの住民がふるさとを離れて避難生活を強いられている現実から目をそらしてはいないか―。東日本大震災から2年、社会的風化が始まってはいないかと気づいて慄然(りつぜん)とする」、朝日「事故直後は、『恐怖』という形で国民が思いを共有した。2年経ち、私たちは日常が戻ってきたように思っている。だが、実際には、まだ何も解決していない。私たちが『忘れられる』のは、今なお続く危機と痛みと不安を『フクシマ』に閉じ込めてしまったからにすぎない。福島との回路をもう一度取り戻そう」。(審査室)

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