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第8回「放送政策に関する調査研究会」でのNHK要望事項に関するメディア開発委員会の意見

総務省 第9回「放送政策に関する調査研究会」資料(2013.6.5)

1.総論
 NHKは第8回「放送政策に関する調査研究会」で、インターネットを利用したサービス拡大を希望している。インターネットが欠かせない社会インフラとして育ちつつある中、NHKがインターネットを利用して視聴者ニーズに応えたいという希望を持つことは、一般論として理解できる。
 当委員会は、情報産業の中でNHKだけが、インターネットを利用すべきではないという意見を持っているわけではない。しかし、放送法で規制され、受信料制度で保護されるNHKのインターネット利用は、限定的なものであるべきだという主張を繰り返してきた。
 今回のヒアリングに対しては、激変する情報社会インフラを鑑みつつ、総論として次のように意見を述べる。

・租税に近い受信料制度で成り立ち、放送を主たる業務とするNHKの業務範囲が、「附帯業務」を拡大解釈し、「特認業務」という例外措置でインターネット業務に及ぶことは法の基本概念をゆがめるものではないか。

・NHKがインターネットを利用すること自体は否定しないが、その利用範囲は放送法の下、おのずと限定的なものでなくてはならない。無制限の拡大は、民間による市場の自立・発展を妨げかねない。

・上記の主張は、メディアの多様性、多元性を担保し、国民の情報選択の幅を維持するために必要であるという前提による。 

2.現況 新聞社とNHK
 放送界は、公共放送NHKと民間放送の二元体制となっている。放送以外のメディアも見渡すと、新聞や雑誌・書籍のような活字メディアやインターネットがあり、それらを下支えする通信社も存在する。新聞界では、全国紙、地方紙(県紙)、地域紙が各地域の実情によって市場を形成している。こうした様々な性格を持つメディアが複数存在することは、社会にとって不可欠である。
 新聞界は、部数の落ち込みや広告収入減に対応するため、インターネット関連事業を推し進めているが、ビジネスモデルが確定できず、苦戦を強いられている(添付資料参照)。
 このような現状の中で、NHKのインターネット業務が際限なく拡大するのは、片や受信料制度という公的補助動力を備えたNHKと、片や補助動力なしの新聞社が100メートルトラックで競争するに似た構図である。

 3.NHKの要望に対する意見

▽らじる★らじる

【NHKの要望】
 ラジオ放送を補完するものとして、現行認可期間終了後も実施できるよう、業務規定上の位置づけを希望

【新聞協会意見】
 「らじる★らじる」の恒常化は、ラジオ受信環境の悪化、災害対策などの面からは理解できる。ただし、①民間放送が行っている同様の取り組みとの調整を十分に図ること、②得られた知見は広く公開し技術的成果の共有を図ること――を求める。

▽オリンピックなど国民的関心の高いスポーツ大会の競技中継等のライブ提供
【NHKの要望】
 現行のような個別認可ではなく、業務としての位置づけ(または包括的な認可)を希望

【新聞協会意見】
 特認業務は認可の理由となった成果が得られた時点で終了するのが原則であるが、受信料を用いて高額取得した放映権の有効活用は、国民の利益に合致するであろう。
 ただ、包括的認可には賛成できない。ストリーミング提供するスポーツコンテンツの範囲を定めた明文規定が必要である。
 今後も、認可申請を得て、終了後には成果を公開する手続きを設けることは、公共放送NHKの在り方を国民が監視するために必要と考える。

▽災害情報や防災等に資する情報の提供
【NHKの要望】
 災害・危機管理情報、選挙情報、外国人向け情報のインターネットでの提供は、可能な限りNHKの自律的な判断で積極的に実施できるよう、業務規定上明確にされることを希望
 NHKが、防災・減災等、人命や国民生活への影響の軽減に資すると判断した情報について、「緊急時に限らず必要と判断したときに」「放送との先後関係等にとらわれることなく」インターネットで提供することが業務として明確に位置づけられることを希望

【新聞協会意見】
 災害報道、あるいは防災・減災報道が公共放送の理念と合致するという主張は理解する。また、日頃からNHKが災害報道や防災・減災報道を重視する姿勢には敬意を表する。
 しかし、実際に災害が起きた時、NHKだけで国民の知る権利に応えることはできない。

例)東日本大震災の影響で電気が途絶え一夜を過ごした人たちに、震災の全貌を伝えたのは新聞であった。

例)各避難所の名簿を写し、集約し、発信したのは地元紙であった。

 災害時には、NHKと民間放送局、全国紙と地方紙・地域紙、通信社など、様々なメディアが、互いに補完しあう状態が望ましい。
 防災・減災報道は、一般的な報道活動との境界線があいまいである。防災・減災報道だからといって、NHKの自律的な判断に任せて無秩序な拡大が図られることには懸念を覚える。
 放送法の理念を踏まえた運営となるよう、何が災害報道、防災・減災報道に含まれるのか基準を示すべきだ。

▽放送終了後1か月を超えた提供
【NHKの要望】
 1か月の期間の要件を廃止できるようにすることを希望

【新聞協会意見】
 教育と福祉に限った既放送番組のインターネット提供と理解した。教育・福祉の番組が活用されることは、国民の利益に合致する。
 しかし、1か月の要件を廃止した場合、受信料を財源とした権利処理や配信設備の維持管理費用の増大を懸念する。
 要件緩和の範囲を明文化するとともに、掛かった費用を明確にする公開制度を設けることを求める。

▽業務ツールとしてのコンテンツの利用
【NHKの要望】
 無料催し物(音楽コンクール、ロボットコンテスト)のブロック大会、地区大会の動画を、「催し物の開催」の一態様としてライブ提供している。これらを、可能な限りNHKが自律的に適否を判断して業務を実施できる観点から、業務規定上明確にされることを希望

【新聞協会意見】
 NHKの独自催事に関する補完的な利用なのであれば、特段の意見はない。これを機に実施できる範囲と、申請、認可、成果の公開といった手続きを定めた明文規定を設けるべきだ。 

▽ハイブリッドキャスト
【NHKの要望】
 ハイブリッドキャストをNHKが十全に実施できるような制度整備を要望

【新聞協会意見】
 同分野においてNHKがけん引車の役割を果たしていることは理解できるが、現時点では具体的サービス内容が判然としない。当委員会としては、討議材料がまとまってから、改めて意見表明する。

 ▽学校教育コンテンツ
【NHKの要望】
 インターネットの特質を生かしたインタラクティブな学習コンテンツの提供ができるようになることを希望

【新聞協会意見】
 今回の要望は、放送の補完という範囲を大きく逸脱している。このようなコンテンツ、およびシステム開発は、民間事業者に任す分野と判断する。NHKが行うべきは、他の民間事業者ではなしえない放送番組の充実である。

※「2.その他」の要望項目に関しては、今回は特段の意見を述べるのは差し控える。

4.おわりに
 今回NHKは、公共放送の理念に合致することを理由に、自律的な判断の下で様々なサービスを展開したいとの要望を行った。しかし、それぞれの内容が公共放送に合致するかどうか判断するのは、第三者の目であるべきだ。
 個々の視聴者の立場として、その時々に応じた便利なサービスを求め、それを評価することはありうる。しかし、メディア環境を踏まえ、NHKの取り組みを無制限に拡大しないためにも、透明性のある手続きが必要ではないか。
 そのために、展開したいサービス内容が公共放送の業務範囲に合致するか事前・事後に検証する第三者機関などを設け、インターネット活用の理由や活用状況、支出額などを事後に公開する義務を課すなど、NHKの活動を監視する何らかのルールが必要ではないか。
 放送・通信の融合が進む中、放送法が実態に沿わなくなりつつある。抜本的な法改正も視野に入れなければならない。
 その際は、NHKの資産を社会のために開放し、広く国民の利益にかなうよう、抜本的な論議が必要だ。

以 上

添付資料(第9回放送政策に関する調査研究会 新聞協会意見)

 経営関係の指標から見た新聞界の現状とインターネットの取り組み

▽総発行部数の推移と1世帯あたり部数(「データブック日本の新聞」参照)

 ・総発行部数:2002年・5319万8444部→2012年・4777万7913部

 ・1世帯あたり部数:2002年・1.09部→2012年・0.88部

 新聞協会経営業務部の調査によると、当協会会員新聞の総発行部数は、最新の2012年10月調査結果で4777万7913部だった。10年前の2002年は5319万8444部だったので、542万531部減少している。これに伴い1世帯当たりの部数も2012年は0.88部であり、2008年以来1部を切ったままである。

▽新聞広告費の推移(「データブック日本の新聞」参照)

 ・新聞広告費:2002年1兆707億円→2012年6242億円

 発行部数の減少とともに、新聞広告費も減少した。電通の調査によると、2002年には1兆707億円あった新聞広告費は、6242億円と4465億円も減少した。

▽総売上高の推移(「データブック日本の新聞」参照)

・新聞社総売上高:2002年度・2兆3721億円(集計対象99社)→2011年度・1兆9529億円(集計対象93社)

・参考)NHKの受信料収入(決算):2002年度・約6425億円→2011年度・約6725億円

・参考)ヤフージャパンの連結売上高:2003年3月期・約591億円→2013年3月期・約3430億円

 新聞協会経営業務部が調査している新聞社の総売上高も、2002年度は2兆3721億円(集計対象99社)だったのが、2011年度は1兆9529億円(集計対象93社)となり、4192億円の減少となった。なお、同期間にNHKの受信料収入は約6425億円から若干増加し6725億円と、非常に安定した推移を見せている。また、新聞社総売上高は、新聞協会会員日刊新聞社の合計値(一部推計値をもとに算出)なのに対し、NHKだけで6000億円超の安定財源を確保している。ちなみに、インターネット上の様々な分野で存在感を示しているヤフーは、2013年3月期の連結売上高が約3430億円。その10年前の2003年3月期は約591億円だった。

▽新聞社の電子メディアの取り組み状況

 ネット社会の進展に応じて、新聞社も紙とデジタルの両面で報道機関の責務を果たそうとしてきている。数年前までは多くが「広告収入モデル」として、利用者からの対価ではなく、広告主企業からの広告掲載料を収入源として、ニュースサイトを運営してきた。

 現在では、広告収入だけのモデルから転換を目指す動きが出ている。また、購読者に紙とデジタル両面で情報を届け、報道機関としての務めを果たそうとしている。

 新聞社の電子新聞および有料デジタルサービスは、2013年1月現在、27社44サービスが提供されている。これらのサービスの内容は、一様ではない。非会員・無料会員・有料会員の別で読める記事の分量や本数が異なるサービス、紙面イメージの配信サービス、スマートデバイス(スマートフォン・タブレット型端末)限定サービス、購読者限定サービスなど、それぞれの戦略に沿って展開、価格帯も様々で、どのように収益を上げていくか競っている。一方で、現在でも、緊急かつ公共性の高い情報などは迅速に無料で公開している。 

以 上

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