「NHKネット実施基準の認可申請に対する総務省の考え方」へのメディア開発委員会の意見
2015年1月15日
「日本放送協会の放送法第20条第2項第2号及び第3号の業務の実施基準の認可申請に対する総務省の考え方」に対する日本新聞協会メディア開発委員会の意見
日本新聞協会メディア開発委員会は、今般総務省が示した標記考え方に対して、下記の意見を述べる。
当委員会は、NHKが10月に公表したインターネット実施基準の要綱に意見表明した際、貴省「放送政策に関する調査研究会」(放政研)が指摘した、「公共性が認められること」「放送の補完の範囲にとどまるものであること」「市場への影響(への配慮)」の3原則を踏まえ、業務内容、実施方法、費用の面で公共放送として抑制的であるよう求めた。今回NHKが認可申請したインターネット実施基準案は、当初打ち出した要綱に比べ、全般的に限定的な内容になったことは評価できる。
しかし、今回の基準案でも、3原則を十分に反映していない内容が残っている。さらに見直しが必要と思われるので、以下指摘したい。
同時再送信を実施する範囲について
基準案では、災害情報に加え、「国民生活や社会全体に大きな影響を及ぼす情報」を同時再送信する放送番組として新たに掲げた。これは、貴省も指摘しているとおり「具体的にどのような放送番組がこのケースに該当するか必ずしも明らかではな」く、過度な範囲の拡大を招きかねない。公共性、放送の補完性の観点を踏まえ、実施基準にふさわしい抑制的な表現に改めるよう求める。
次に、基準案は試験的提供として[A]スポーツイベントの生放送を年間5件程度、1日最大4時間の範囲で提供、[B]総合テレビとEテレの番組を1回当たり1週間から3か月、1日16時間以内で受信契約者から募集した数千人から1万人に提供――の2種類を明示した。
まず[A]では、オリンピックなど民間放送とNHKの双方が放映権を持っており、民放がテレビ中継しているケースも含まれる。そのような場合にNHKがインターネットで同時再送信を行えば、民放の放送に重大な影響を及ぼし、「市場への影響(への配慮)」の原則に反することになる。こうしたことを踏まえて、提供内容をより限定して定める必要があると考える。
[B]は、1日16時間以内の実施としている。これでは深夜・早朝帯を除くほとんどの時間帯が対象になり、改正放送法20条2項2号「テレビジョン放送による国内基幹放送の全ての放送番組を当該国内基幹放送と同時に一般の利用に供することを除く」の趣旨にもとるのではないか。対象時間を試験的提供として適当な時間に限定すべきだ。また、提供期間を1回当たり1週間から3か月以内としているが、提供する回数の定めがないため際限なく実施することも可能だ。年間の総提供時間も定めるべきだ。
受信料制度との整合性について
受信料制度との整合性について、基準案は「提供する放送番組等の一部について、必要に応じ、その提供対象を受信契約者に限定することがある」と定めている。これは、受信契約者に限定せずに提供することを原則とし、限定した提供を例外と定めているもので、受信料制度との整合性を軽視しているとの懸念を抱かざるを得ない。受信料財源で行うインターネット業務は、大規模災害時等を除いて受信契約者に限定することを原則とすべきではないか。
[A]も提供対象者を受信契約者に限定していない。例外とする場合はその理由を明確にするよう求める。
また、基準案は受信契約者に限定した試験提供を行うなどとしてインターネット業務と受信料制度との整合性を図っているが、具体的にどのように限定するのかは不明だ。技術的、制度的にどのような方法で実施するのか、NHKの情報公開を求めたい。
業務実施に要する費用
基準案で2号受信料財源業務の費用の上限を受信料収入の2.5%と定めたことを、貴省は「一定の合理性があると認められる」と評価している。しかし、民間と比較すると過大な額であり、市場への影響についての配慮に欠けているのではないか。
また、業務実施に要する費用の上限を対受信料総額比で表示しているが、受信料収入が増えれば上限も増額することになる。上限は実施事業を積み上げた金額で示すべきではないか。
NHKは、2.5%という数字について、現在の事業費と人件費に今後3年間の増加見込み分などを加算したと説明する。しかし、具体的な業務に沿った積算根拠が示されておらず、その適否が判断できない。検証できるよう、NHKオンデマンド並みのデータを公表すべきだ。併せて、上限額の妥当性について、1、2年後に見直しをすることを明示すべきだ。
市場への影響について
基準案は、実施計画の策定時と実施状況の評価時に、市場競争への影響も考慮・勘案することを定めている。しかし、貴省が指摘するように、どのような形で考慮・勘案するのか具体策が示されていない。貴省は「実施計画及び実施状況の評価結果の公表に当たって、その策定等においてどのように市場競争への影響を考慮・勘案したかについて明記することが期待される」としている。しかし、考慮する指標や基準は基準案の段階で明らかにすべきではないか。また、市場競争への影響を確実に考慮するためには、関係者への意見聴取の機会を事前に設けるのが適切であり、事前聴取の枠組みについて基準案に盛り込むよう求める。
試験的提供について
試験的提供の成果は、NHKの公共性に鑑み、実際の配信にかかった費用や視聴データも含め詳細に公表すべきだ。
その他
子会社・関連会社によるインターネット事業は、改正放送法が求める実施基準への記載事項ではないと貴省は説明しているが、市場への影響に配慮する観点から、NHKが自主的に子会社・関連会社についても透明性を確保するよう要望しておきたい。
以 上