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総務省「公共放送ワーキンググループ」の検討に対する意見

2023年8月10日

総務省「公共放送ワーキンググループ」御中

一般社団法人日本新聞協会
メディア開発委員会

当委員会は、総務省「公共放送ワーキンググループ(WG)」で検討されているNHKのインターネット業務の必須業務化について改めて反対する。放送のために受け取った受信料を大規模にネットの無料コンテンツに使ってきた現行の「理解増進情報」と同様に、なし崩し的な業務の拡大を招くことを強く懸念している。

まず、理解増進情報について改めて問題点を指摘したい。理解増進情報は受信料を財源としており、かつ「無料」で展開されている。ネットでも放送と同じ内容か、あるいはそれ以上のコンテンツが無料で見られる現状は、「受信料を払ってテレビで視聴するのは損だ」と視聴者に感じさせているのではないか。NHK 自身が、受信料を払う人との間で「不公平感が存在している」「タダ乗り」「フリーライド」などの課題があると述べている。その問題についてなぜ議論を尽くさないのか。まず受信料制度と現状の理解増進情報の矛盾についてNHKの考え方をただし、整合性がとれるよう見直すべきではないか。

当委員会の新聞・通信社は全て民間企業である。受信料のような収入はなく、全ての業務は厳格にコストを考慮して実施している。本業である報道・ニュース配信に関しても、本質的な意味で「無料」はあり得ない。ユーザーがネットで無料で閲覧できる情報も、提供する側は広告収入を得ていたり、購読への誘引戦略があったりする。対価を得ず収支を意識せずに済む理解増進情報とは、とてもフェアな競争はできない。この機に地方紙からも改めて意見を聞いたが、「理解増進情報はやめるべきだ」という声が相次いだ。当委員会は必須業務化の議論の前提として理解増進情報の問題をWG でも真摯に取りあげてほしいと考え、「NHK は無料のテキスト(文字ニュース)業務から完全に撤退すべき」と主張する。

次に、必須業務化について意見を申し上げたい。必須業務化の目的は何か。WG 事務局が作成した資料では「テレビを持たない人がNHK のコンテンツに触れるようにする」との意見が多く提示されている。しかし、これまで述べた通り、ネットでは既に「ニュース・防災」アプリや「NHK NEWS WEB」などで大規模かつ無料のNHK コンテンツに触れることができる。地方紙を含め多くの新聞社が「アンフェアな競争だ」と主張するほどの規模だ。「いまはネットで見ることができないから、必須業務化で見られるようにすべき」と受け取れる表現をあえて打ち出す狙いはどこにあるのか。当委員会は「必須業務化の真の目的は何か。必須業務化しなければできないことは何か」と繰り返しWGに質問・意見を提出してきたが、いまだにこの根幹部分に明確な回答はない。理解増進情報の総括をせず、あたかも現状では取り組めないから新たにネット業務をするかのような論理はとても受け入れられない。「現状でも理解増進情報として、NHK はネットでコンテンツを無料で提供している。だが、新たにしなければならない業務があるため、必須業務化をすべきだ」という論理を明示するのが筋ではないだろうか。

前回WGでは、インターネット活用業務の利用者に対して費用負担を求めることが必須業務化の前提として議論された。国民の立場からすれば、この点の方がはるかに関心が高いのではないか。「ネットで見られるようにする」は現状でも実施している一方、「費用負担を求める」は現状では実施していない新たなテーマだ。WGの議論を見る限り、スマートフォンを所有すればすぐに受信料支払いの対象になるわけではないことはわかるが、ネットで視聴する人に費用負担を求める「ネット受信料」の導入こそが、必須業務化の「真の狙い」ではないかとの疑念も生じてくる。当委員会はこれまでも、必須業務化を議論するのであれば、受信料制度の在り方も根本から検討するべきだ、と主張してきた。現状の受信料制度を維持した上で、ネットでの費用負担を国民に求める「ネット受信料」を導入しようとするのであれば、国民の理解を得られるよう丁寧な議論をすべきではないか。受信料制度の拡大に強い懸念を抱く。「放送」のための受信料と、「ネット」のための負担を受け取るのは同じNHKだ。NHKの在り方とともに受信料制度を根本から検討し、明確に必須業務化の政策目的を示した上で議論をするべきである。

WGの資料では「二元体制」について繰り返し言及されているが、新聞・通信社や多様な事業者が存在するネット空間にNHKが進出する影響は大きい。地方紙からは「有料のデジタル会員制のサービスにシフトしつつあるが、経営安定の柱となるまでにはまだ時間がかかる。必須業務化によって無料配信が際限なく拡大すれば、地方紙のデジタル収入への影響は甚大である」「コスト度外視のコンテンツ制作と広告の全くないネット情報の発信はNHK に絶対的優位がある」など強い懸念の声が出ている。NHKがインターネットという伝送路にニュースを配信する以上、本質的には民間報道機関への影響は避けられず、必須業務化は放送政策にとどまらない影響がある。一度毀損(きそん)されたメディアの多元性や言論空間が元の姿を取り戻すのは難しく、WGは早急に結論を急ぐべきでないと考える。

以上

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