生成AIにおける報道コンテンツの無断利用等に関する声明
2024年7月17日
一般社団法人日本新聞協会
日本新聞協会は、生成AIの事業者に対して、報道コンテンツを生成AIの学習等に利用する場合には許諾を得るよう繰り返し求めてきました。しかしながら事態は一向に改善されないまま、サービスの拡大が図られています。ウェブ上の検索に連動させてAIが回答を生成するサービス(検索連動型の生成AIサービス、検索拡張生成=RAG)では情報源として、報道コンテンツを無断で利用しているうえ、記事に類似した回答が表示されることが多く、著作権侵害に該当する可能性が高いと言えます。
報道コンテンツは、新聞社や通信社が多大な労力とコストをかけて作成した知的財産であり、報道各社が著作権等の法的権利を有します。報道コンテンツを利用するのであれば、利用者が報道各社から許諾を得て、対価を支払うのが原則です。新聞協会は報道機関の努力へのタダ乗り(フリーライド)が許容されるべきではないと考えます。
検索連動型の生成AIサービスでは、報道機関の記事を不適切に転用・加工し、事実関係に誤りのある回答を生成するケースが見られます。そうした回答が生成されれば、ユーザーの不利益となるだけでなく、参照元として表示される報道機関の信用の低下を招く可能性もあります。問題が解消されないままサービスを幅広く提供することには疑念があります。
当協会は、生成AIサービスを提供する事業者に対し、報道コンテンツを利用する場合は著作権者の許諾を得ること、またサービスのリリースは正確性、信頼性を十分に確保した上で行うよう求めます。知的財産権の軽視とも言えるような風潮は、関係法令が十分に整備されていないことが背景にあるのは明らかであり、政府に対して、著作権法の改正を含め、「生成AI時代」に見合った法制度の整備を急ぐよう求めます。
1.検索連動型の生成AIサービスは著作権侵害の可能性が高い
著作権法の「軽微利用」規定(第47 条の 5)は、検索サービスが他人の著作物を許諾なしに利用する場合について、①検索対象の情報の所在提供(URLの表示など)等に付随した利用である、②検索目的に照らして必要な限度内で、かつ、軽微な範囲の利用にとどまっている、③著作権者の利益を不当に害していない――のすべての条件を満たすことを求めています。
しかし、グーグルやマイクロソフトなどが提供する検索連動型の生成AIサービスは、上記の条件を満たしておらず、著作権侵害に該当する事例が多いと当協会は考えます。例えばグーグルは「検索連動型の生成AIサービス」は「検索サービス」を進化させたものだと主張しています。「検索サービス」は、ネット上から情報が載っているサイトを探し出して所在情報を利用者に提供することを主な機能としています。
これに対して「検索連動型の生成AIサービス」は、利用者が求める情報をネット上から探し出し、それを転用・加工したコンテンツを提供することを主な機能としています。参照元の複数の記事の"本質的な特徴"を含んだ「軽微な利用」とは到底言えない長文の回答を生成、提供するケースが多数みられます。従来の検索の延長線上ではなく機能が全く異なる別のサービスだと考えます。
検索サービスはネット上のさまざまな著作物への「道案内」の役割を担うものとして、著作権法では軽微な範囲で他人の著作物を無許諾利用することが認められてきました。しかし、検索連動型の生成AIサービスによって行われるのは、「道案内」ではなく「種明かし」であり、それが生成AIの力で量産されています。多くのユーザーが生成された回答で満足し、参照元のウェブサイトを訪れない「ゼロクリックサーチ」が増え、報道機関に著しい不利益が生じることは容易に推測できます。
検索に連動させてAIに回答を生成させ、報道コンテンツを無断で利用する行為は現行著作権法でも違法である可能性が高く、当協会は、報道機関の著作物を利用する場合は、報道機関の許諾を得るよう求めます。
2.著作権法等の抜本的な見直しが必要
ネット上の報道機関のニュースは有料記事のほか、無料で読める場合もあります。しかし、無料部分であっても閲覧に応じた広告収入や、ニュースポータルからの収入が生じており、これらの収入は報道機関の新たな取材活動に活用されます。報道分野だけでなく、他の分野の著作物においても同様のサイクルがあり、民主主義や文化の発展を下支えしています。
無許諾での検索連動型の生成AIサービスはこうしたサイクルを破壊すると当協会は考えますが、問題はそれだけに限りません。生成AIの学習段階におけるコンテンツの無断利用や、検索サービスにおいて「ゼロクリックサーチ」をもたらすような行き過ぎた結果表示についても、同様の問題があると考えます。
文化庁が3月にまとめた「AIと著作権に関する考え方について」は、無許諾での検索連動型の生成AIサービスに対して厳しい見方を示したうえで、情報解析用のデータベースを販売、または販売を予定している報道機関等のサイトから、生成AI事業者が無断で記事等を複製する場合は著作権侵害に当たる可能性があるとの判断を示しました。当協会はこの動きを評価していますが、解釈に曖昧な部分(グレーゾーン)は残っています。生成AIの急速な技術進化を踏まえ、タダ乗りを防いで著作権者を保護し、将来にわたり文化の発展を促す点では、不十分だと考えます。
デジタルサービス提供者が知的財産権を軽視し、コンテンツを生み出す営みにタダ乗りする現状を放置した結果、コンテンツの再生産がやせ細れば、民主主義の基盤や、国民の文化に取り返しのつかない不利益をもたらすことになります。政府に対し、著作権法をはじめとする知的財産諸法の見直し・整備を早急に行うよう求めます。
3.誤情報を生む完成度の低いサービスは提供すべきではない
報道機関のニュースコンテンツは、誤りが無いよう社内で何重ものチェックを行い、相応のコストをかけて読者に届けています。
検索連動型の生成AIサービスには、参照元となる報道機関の記事の文脈を考慮しないで言葉を抜き出したり、端折った文章を組み合わせたりしているため、事実とは異なる内容や、歪曲した内容を表示する事例もあります。さらに、誤った回答は訂正されることがありません。技術革新による社会の効率性や生産性の向上は意義がある一方で、誤情報を生むようなサービスが提供されることは看過できません。
完成度の低いサービスを一般消費者に広く提供することで、利用者に誤情報をもたらし、ひいては社会に不利益が及ぶことを懸念します。また、利用者が誤りに気付いた場合も、あたかも元記事が誤っているかのような印象を生じさせ、参照元の記事を出した報道機関の信頼性の毀損につながる恐れがあります。サービス提供者には、情報発信者としての責任ある対応を求めます。
4.検索連動型の生成AIサービスの強行には公正競争上の懸念がある
公正取引委員会が昨年秋に公表した報告書は、「ニュースサイトに一定の送客を行う検索を運営するインターネット検索事業者は、独占禁止法上の優越的地位にある可能性」があると指摘しました。
軽微利用に当たらない検索連動型の生成AIサービスは、報道機関の著作権を侵害しており、許諾が必要であることは前述のとおりです。許諾を得ないまま生成AI事業者が報道コンテンツを利用することは、独禁法に抵触する可能性もあると当協会は考えます。生成AIサービスの中には、記事のスニペットの表示範囲を権利者がコントロールできることをもって、生成AIが参照する情報の範囲を報道機関で制限できると説明する事業者もいます。しかし、検索サービスの市場がほぼ独占状態にある場合、ニュースサイト側にとって検索結果の表示順位が下がることを覚悟してスニペットを短くしたり、いわゆるペイウォールの先にある有料域の記事情報を検索エンジンに見せないようにしたりすることは現実的ではありません。実情を無視して検索連動型の生成AIサービスにおける報道記事の無断利用が強行され、市場の公正性を阻害することを当協会は懸念します。
米国では5月末、北米の新聞社等で構成するニュース/メディア連合(NMA)が、司法省や米連邦取引委員会に対し、一部の事業者が新聞社や出版社の記事を不正に活用し、トラフィックを奪っていることについてサービス拡大の停止を求めるよう要請しています。生成AI事業者や公正取引委員会は海外の動向も踏まえて、適切な対応をとるよう求めます。
以上