「知的財産推進計画2026」の策定に向けた意見
2025年12月23日
一般社団法人 日本新聞協会
日本新聞協会は、知的財産推進計画 2026の策定に向けた意見募集に対し、以下の通り意見を述べる。
(A2)AIと知的財産権
AI時代に即した新たな法整備を求める
「知的財産推進計画2025」は、法、技術、契約の三つの手段が相互に補完することで、「AI技術の進歩と知的財産権の適切な保護が両立するエコシステム」の実現を目指すとしている。極めて重要な指摘ではあるものの、現状、法、技術、契約いずれの手段においても課題があり、「知的財産権の適切な保護」は十分とはいえない。
報道コンテンツを無許諾で利用する生成AIサービスは後を絶たず、ユーザーが情報発信源のウェブサイトを訪問しない「ゼロクリックサーチ」などの問題は深刻化している。このままでは、コンテンツから得た収入をさらなる報道活動に投下する再生産サイクルが損なわれ、報道機関の機能が低下し、国民の「知る権利」を阻害する結果となりかねない。民主主義の在り方などにも関わる極めて重要な問題であり、生成AI時代に即した新たな法整備を求める。
データの透明性確保が必要
知財計画2025は、「AI事業者による情報開示が進んでいないことにより、自己のデータが利用されているかが不明であるためライセンスによる対価還元の機会が得られない」と指摘し、透明性を確保する必要性を示している。透明性の課題は報道コンテンツの無断利用が広がる中で、極めて重要な論点であり、実効的な取り組みを求めたい。
「AI時代の知的財産権検討会」は、透明性確保のためのガイドラインの策定を検討している。学習データだけでなく、検索拡張生成(RAG)で利用される参照用の「知識データ」の存在も視野に入れ、知財計画2026で検討課題として盛り込むよう求める。検索連動型の生成AIサービス(AI要約)をはじめRAGが前提となり、知識データの重要性が高まる一方、データ収集を専門とする業者の存在も明らかになっている。サイトからデータが直接収集される場合と比べ、迂回したデータ収集の場合、権利者がコンテンツを保護することは構造上、難しい。複雑化するデータの流通構造を踏まえた検討を進めてほしい。
オプトアウトの意思表示が尊重される制度を
当協会会員社の主要なニュースサイトは「robots.txt」を設定してコンテンツを保護する意思を示しており、新聞・通信社が記事を提供している国内の主要なポータルサイトの多くも同様の設定をしている。それにもかかわらず、「robots.txt」の無視が広がっており、知財計画2025が掲げる「技術的措置の活用によるAI学習・提供・利用の適正なコントロール」は全く実現していないのが現実だ。
実際に「robots.txt」を設定してオプトアウトの意思表示をしているにもかかわらず、記事が無断利用されているケースが確認されている。「robots.txt」の設定に必要なクローラーの名前(ユーザーエージェント)を開示せず、データを収集している事業者も少なくない。AI事業者が直接コンテンツを収集するのではなく、ユーザーエージェントを公表しない別の事業者が収集したデータを購入しているとの指摘もある。検索サービスのクローラーと、AI検索のクローラーが分けられておらず、報道コンテンツの権利者が適切に意思表示できない問題も存在する。
「robots.txt」の設定に不可欠となるユーザーエージェントの公表をAI事業者だけでなく、データ収集事業者全般を対象に義務付けるべきだ。併せて、権利者側が公表情報を容易に把握できるような制度を早急に設けるべきである。
権利者保護のための法整備を求める
知的財産の適切な保護に向けた法整備は喫緊の課題だ。著作権法の47条の5第1項1号には、サービス提供者が「robots.txt」などの技術的措置によるオプトアウトを尊重するという要件が定められている。一方、情報解析に関する30条の4や47条の5第1項2号には、こうした要件が明文化されていない。この点について、「AI時代の知的財産権検討会」では複数の委員から問題意識が共有され、制度改正を求める声もあった。短期的には少なくとも、47条の5第1項2号にも、1号と同様に機械可読なオプトアウトの尊重を法的義務として導入すべきだ。EUではすでに、学術研究目的を除くテキストデータマイニング(TDM)においてrobots.txtなどの意思表示の尊重が法定されており、国際調和の観点から留意してほしい。
データの学習に関し、国内事業者の多くが文化庁「AIと著作権に関する考え方」などに沿った対応をしているとみられる一方、権利者の許可を得ずにクローリングし事業を展開する海外事業者もいる。競争条件の不均衡が放置されれば、海外事業者によるAI市場の寡占につながるだけでなく、AI生成物を含めたコンテンツ市場における日本の知的財産・コンテンツの国際競争力の低下にもつながりかねない。公正競争を確保するためにも制度の整備を進め、不均衡を是正することは喫緊の課題だ。
長期的には、適正なコンテンツ保護が実現されるための制度を検討してほしい。当協会の会員社である、読売新聞東京・大阪・西部の3本社と、朝日新聞社・日本経済新聞社は8月、報道コンテンツの無断利用で米パープレキシティーを提訴した。12月にも毎日新聞社・産経新聞社・共同通信社の3社が同社に抗議書を送り、地方紙など48社が抗議の声明を発表した。個別企業の取り組みではあるものの、当協会としても問題意識を共有している。大量の報道コンテンツが無許諾で使われている実態があり、訴訟などの強い対応を取らざるを得なかった事実を重く受け止めてほしい。動画生成AIを巡っても、出版社や放送局の関連団体などがコンテンツの無断学習などの課題を訴えている。コンテンツの権利がより適切に尊重されるよう、さらなる法整備が必要だ。
以 上



