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学習指導要領改訂に向けた日本新聞協会の意見

2026年2月6日

文部科学大臣
 松本洋平殿

一般社団法人日本新聞協会
会長 中村 史郎

 2024年12月の諮問を受け、中央教育審議会初等中等教育分科会は、学習指導要領改訂に向けた議論を進めています。新聞協会は、次期指導要領において、新聞報道が民主主義社会で果たしている役割を教える必要性、また、総則および各教科等において「新聞の活用」がそれぞれ明記されるよう、強く要望いたします。

 デジタル技術の進展に合わせ、学校では一人一台端末による学びの環境整備が実現しました。家庭でも児童生徒のスマートフォン所持率は高く、生成AIなどの便利なツールにいつでもアクセスが可能となっています。他方、学校現場からは「『読む・書く・考える』といった知的活動の基本動作ができない児童生徒が増えている」との声も聞かれます。25年7月に公表された貴省の「経年変化分析調査」でも、小・中学校ともに各教科のスコアが下がり、原因としてSNS等の長時間利用が挙がっています。教育を取り巻く環境が大きく変わる中で、2030年を見据え、どのような力をどう育てるかが問われています。

 新聞協会は1985年、次世代の育成に寄与するべく、NIE(Newspaper in Education=教育に新聞を)を提唱し、社会性豊かな青少年の育成や活字文化と民主主義社会の発展などを目的に掲げ、教育界と協力してNIE活動を展開してきました。学校現場では、教材としての日常的な新聞活用のほか、「社会参画」や「メディアリテラシー」に関する学びも様々な形で展開されています。

 新聞協会が2024年に実施した調査では、新聞活用が「読み書き」の能力向上に寄与し、教師の指導力向上にもつながることが示されました。言語能力は、全ての教科等における学習基盤となる資質・能力であり、日常的な新聞閲読で培うことのできる力です。貴省の全国学力・学習状況調査結果からも、各教科で新聞閲読と正答率との間に相関関係があることが明らかになっています。

 また新聞は、記者による入念な取材、デスクや校閲による複眼的な事実確認など多くの工程を経て、正確性と公正性が担保された情報を発信している信頼性の高い媒体です。公権力を監視し、民主主義を支える公共的役割、すなわち「健全な言論空間=世論形成」の役割も担っています。こうしたジャーナリズムの意義そのものを、教育課程で取り上げることを強く要望いたします。

 生成AIの普及やネット空間に行き交う偽・誤情報、また、世界的な民主主義の退潮傾向のなか、事実をもとに論理的・合理的に判断する「クリティカルシンキング(情報対応スキル)」への向き合い方を義務教育の中で醸成することの重要性が増しています。新聞の活用を通じてそうした力が育まれることを期待します。

1.情報活用教育の推進とメディアリテラシーの育成

 現行の学習指導要領では、小・中・高校の全校種で「総則」の教育課程実施上の配慮事項に「新聞の活用」が明記されました。次期学習指導要領においても、この方針が踏襲されるよう求めます。

 中央教育審議会の下部組織では「情報活用能力の抜本的向上」に関する議論が進んでおり、発信源の確認、複数媒体の比較、ファクトチェック等といったメディアリテラシーの育成が課題として挙がっています。

 生成AIにより瞬時に大量の情報を生み出せるようになり、偽・誤情報が氾濫する中、信頼できる情報を見極める力の育成が重要性を増しています。情報の出典を確認する習慣を身につけることも必須となっています。学びの場で、確かな情報を基にメディアリテラシーを育むことが一層求められています。

 新聞は、入念な取材や事実確認、校閲等の多くの工程により正確性と公正性を担保し、個人の好みや関心に偏らない多様な情報、日々更新される新鮮な情報に出合える媒体です。また、公権力を監視し民主主義を支える公共的役割も担っています。小中高校を通じて、こうした新聞の機能・役割について学び、デジタル社会の中での存在意義や価値に気がついてほしいと願います。

2.主権者教育の推進

 22年4月の成年年齢の引き下げや、16年6月に施行された選挙権年齢の引き下げとあいまって、主権者教育の重要性は教育界の中で認識され、中教審の下部組織や教科別の作業部会では、社会参画の促進や、主権者教育の在り方について検討が進んでいます。

 一方で、主権者教育が教育界を挙げての取り組みになっているとは言えません。主権者として主体的に社会と関わるために必要な資質・能力を、選挙権を持つ前の小学校段階から身につける学びの実現が求められています。

 子供たちの政治や社会への関心を喚起するには、身近な地域社会について知り、課題を発見し、解決策を考える学びを継続することが重要です。また新たな課題として、SNS上の偽・誤情報が選挙結果にも影響を及ぼすようになり、主権者として意思決定・政治参加していく子供たちには、正確な情報を見極める力の育成も欠かせません。

 新聞は、記者が取材する生きた情報を日々掲載する媒体です。選挙時には倫理観を伴う公正な視点で多くの情報を集め、事実確認をした上で紙面化しています。候補者や政党の公約、主張を比較しやすい形で掲載するなどの工夫もしています。

 子供たちが新聞を通じて日々変化する政治や社会に接することで、我がこととして政治や社会への興味関心を培ってほしいと願います。

3.持続可能な社会を実現するための学び

 中教審の下部組織では、主権者教育にもつながる「より主体的な社会参画」が課題に挙げられています。民主的で持続可能な社会のつくり手となる子供たちが、当事者意識をもって自分の意見をしっかりと持つためには、学びの中で、地域・社会の情報や報道に日常的に触れることが非常に重要です。

 同じ事象を異なる視点から取り上げた複数の情報に接することで、子供たちはものの見方や考え方が一つではないこと、世の中は多様性に満ちていることを理解します。また、自分の主張とは異なる他者の意見も尊重できるようになるとともに、事実を多面的・多角的に考察し、公正に判断する力を養う一助にもなります。

 教室で新聞の複数紙を読み比べることで、一つの事柄でも様々な見方、考え方があることに気づきます。対立する問題を取り上げた記事から意見や争点を読み取り、解決策を考える学びも重要です。課題解決に向けて、協働する力や、合意形成する力を身につけることにもつながるこうした学びが、とりわけこれからの教育には求められています。

4.探究的な学びとNIE

 中教審の下部組織や教科別の作業部会では、「質の高い探究的な学びの実現」について検討されています。現状では、学校や教師がテーマを設定し、児童生徒の主体性や興味関心が考慮されにくい例もあるといった課題も上がっています。

 新聞は、地域の話題やスポーツ、暮らし・文化から経済・社会問題、国際情勢まで、幅広いテーマを扱う情報の宝庫で、信頼性も高い媒体です。探究的な学びの入り口で、子供たちが多様な情報の中から自分の興味関心に沿ったテーマを見つけ出すのに最適です。

 またテーマに沿ったニュース記事や情報を集めたスクラップを作成すれば、情報を継続的に追うことができ、探求する際の有用な個人のデータベースとして使うこともできます。

 情報量が多く、内容も多岐にわたる新聞を日常的に読むことで、子供たちの情報処理能力、情報活用能力が培われるとともに、学習指導要領が目指す、質の高い探究的な学びを実現することができると考えます。

5.多様性の包摂

 教育課程部会特別部会の論点整理では、今後の議論を貫く三つの方向性の一つとして「多様性の包摂」が挙げられています。この実現には、個々人の特性や、国籍、宗教、ジェンダーなど子供たちを取り巻く社会課題を知り、理解することが不可欠です。

 社会で起こる様々な事象や、多種多様な人々を日々取り上げる新聞は、多様性を反映した媒体であり、自分とは立場の異なる人たちの意見や存在に触れることのできる教材として最適です。児童生徒だけではなく、学校の先生方にもぜひ、学びの可能性を広げるツールとして新聞を活用いただきたいと思います。

6.新聞に触れるための環境整備

 「主体的・対話的で深い学び」をうたう現行の学習指導要領は、学校図書館の活用推進を掲げています。学習センター・情報センターとしての役割も持つ学校図書館に複数の新聞を置くことで、子供たちが主体的に学ぶ学習環境が整い、情報活用学習の一助となります。

 学校図書館で出来ることを挙げてみます。学校司書、司書教諭との連携により、各校のカリキュラムに沿ったタイムリーな新聞記事を授業で活用することが可能になります。学校司書の協力を得てテーマごとに新聞スクラップブックを作成しておけば、授業の内容に合った記事を容易に探せます。記事データベースの導入により、過去も含めた最適な新聞記事の活用も可能となり、学習センター・情報センターとしての機能がさらに高まります。

 現在、22年度からの第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」に基づき、新聞配備に年間38億円(小学校2紙、中学校3紙、高校5紙の費用として5年間で190億円)の地方財政措置が講じられています。学校図書館への新聞配備率は年々上昇しており、教育界が新聞を必要としていることの証左であると考えます。地方財政措置のさらなる充実を求めます。

 新聞協会では、学校図書館での新聞を活用した学びの場づくりについて地域全体で考え、関心を高めてもらうよう、新聞記事や新聞広告を通じて、地域の保護者や教育関係者に訴えています。また毎年、NIE実践指定校を認定し、一定期間、学習用の新聞を無償で提供しています。25年度は全国の小・中・高校計514校を認定。この制度の下でNIEに取り組む実践教師の数は年間4千人超に上り、制度開始から30年間で延べ1万3千校を超える学校がNIEに取り組んできました。今後も重要施策として継続していきます。

7.NIEの学習効果

 貴省の全国学力・学習状況調査では、児童・生徒の意識調査と平均正答率のクロス集計結果から、新聞をよく読む児童生徒ほど正答率が高いとの調査結果が出ています。

 また新聞協会は、NIEの学習効果を測る調査を実施しており、24年に行った調査では、NIEの実践により、児童生徒の「書く力」「読む力」など学習面における力が向上したと回答する学校がおよそ9割に上りました。さらに、「教師自身の指導力・授業力」も伸びるとする学校が9割を超えました。

 新聞記事は、訓練された記者による正確で分かりやすい文章で構成されています。学びの場で新聞に日常的に触れることで、子供たちの言語能力の向上に大きな効果が期待できます。NIEに携わる先生方からは、日常的な新聞活用が子供たちの「読み書き」をはじめとする様々な力を伸ばし、学力の向上にもつながるとする声が当協会にも届いています。言語能力は全ての教科等の基盤となる資質、能力であることから、国語のみならず全教科の学力の底上げに役立つはずです。新聞協会は今後も、NIEの学習効果を調べる調査を継続的に行っていきます。

以  上

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