6月 2日付 近代日本への評価を歓迎

隣国との歴史学ぶ契機に

  国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)が5月4日、「明治日本の産業革命遺産」を世界文化遺産に登録するよう勧告した。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、日本が産業国家として急速に発展する礎となった遺構・施設に対し、文化遺産としての価値が認められたものだ。今年6~7月に開催されるユネスコの世界遺産委員会で登録の可否が最終判断されるが、遺産の保存の在り方や、一部施設で強制的な労働が行われた歴史問題を批判する韓国との摩擦など、克服すべき課題も残されている。

波及効果に期待

 今回のイコモスによる勧告について、歴史的価値に目を向けた点などを評価する社説が目立った。読売は「殖産興業を通じ、近代国家の建設を急いでいた明治期の日本人の技術力が、世界史的にも高く評価されたことは、喜ばしい」と評価した。日経は「日本は西洋の技術を吸収して伝統文化と融合させ、炭鉱や製鉄所、造船所などを設けて近代国家の礎とした。非西洋への産業化の広がりとして世界史的にも意義のある流れだ」と指摘。北海道は「西洋以外でいち早く造船、製鉄、石炭産業の重要性に着目し、技術を積極的に導入・開発して軌道に乗せた日本の近代化は、世界史上でも特筆に値する。正当な評価と言えよう」と歓迎している。

 登録が実現した場合の観光面などの波及効果について地元から期待する声も多い。長崎は「近代化に幕末・明治の長崎が非常に大きく貢献した事実を日本中、世界中の人々にあらためて知ってもらう機会ともなる。観光立県を目指す本県にとって、観光客を世界中から誘致する絶好の機会が到来したともいえる」と期待を込める。

韓国との摩擦

 イコモスによる今回の勧告は一方で、近代日本が歩んだ歴史に関する日韓の認識の隔たりをあらためて浮き彫りにした。朴槿恵(パク・クネ)大統領自らが産業革命遺産の登録を批判するとともに、登録反対の動きを強めている。韓国の姿勢について、産経は「登録勧告は専門家機関が世界文化遺産にふさわしいと認めたものであり、政治的主張を持ち込むべきではないはずだ」と批判。韓国が非難している朝鮮半島出身者による一部施設での労働が主に第2次大戦中だったことを踏まえて、北日本は「明治の開国直後と昭和の戦争末期は、日本人の感覚でも大いに時代が異なる。この点は韓国側にも理解を求めたい」と主張した。

 毎日は「今回の産業遺産は、日本の近現代史を近隣諸国との関連を踏まえながら学ぶ大切さを教えている」と指摘。朝日はさらに踏み込んで、「多くの朝鮮半島出身者が強制労働させられたのは史料などでわかっている。日本がそのことと誠実に向き合う姿勢を国際社会に示すことは明治日本のめざましい発展を誇るのと同じく、大事なことだ」と訴えている。

保全対策を呼び掛け

 登録に向けて突きつけられた課題も少なくない。中国は「とりわけ勧告でも指摘された長崎市の端島炭鉱(軍艦島)の保全対策である。かつて5千人が暮らし、高層住宅などが残るが1974年に無人島となって荒れるに任せていた。一転して永久的に残すとなると技術的にも費用的にも難しさを伴う」と指摘する。

 産業遺産の中に稼働中の施設が含まれていることについて、西日本は「三菱長崎造船所(長崎市)や官営八幡製鉄所(北九州市)、三池港(福岡県大牟田市)などでは、今も稼働中の施設が含まれる。企業の経済活動に支障が出ないよう配慮する必要があろう」と注文を付けた。保全方法について南日本は「これまでは国の文化財指定が条件だったが、今回は景観法や港湾法などに基づいて保全する特例を導入した。企業が改修などを求めた場合の対応など詰めておかなければならない」と強調。山陰中央は「稼働中の工場を見せる産業観光が注目される。これら施設をモデルケースとして、安全を確保しながら公開するルールをつくるよう検討すべきだ」と主張した。

 今回の勧告を機に、各地で産業遺産に関する登録や保全への取り組みが活発になると予想される。新潟は「(今回、登録対象となる)産業遺産は富岡製糸場(群馬県)などに続き3例目だ。同じ産業遺産といえる『金を中心とする佐渡鉱山の遺産群』の2017年度登録へ弾みとしたい」と呼び掛けた。韮山反射炉が登録対象となった静岡県では、保全のための資金確保が大きな課題。静岡は「できる限り原型をとどめ、長期間保全可能な工法を研究し、いち早く改修工事に着手できることを望みたい」とした上で、「使い道を反射炉など文化財の保全に限定した『ふるさと納税』を呼び掛けてもいいのでは」と訴えている。(審査室)

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