2023年 8月22日
動物との共生の在り方問う

荘内「クロと八重治さんの32年――保護グマ物語」 7月19~26日(全4回)

 7月1日。「人と暮らすツキノワグマ」として注目された「クロ」が32歳で息を引き取った。32年前にクロを保護し、世話をしてきた山形県鶴岡市の佐藤八重治さん(80)はクロとの生活を「かけがえのない日々」だったと振り返った。

 庄司雅人記者はクロを保護して間もない当時の佐藤さんを取材。体長が30センチほどだったクロを抱かせてもらった。クロの死後、数十年ぶりに佐藤さんのもとを訪れ、保護生活について聞いた。

 「人と自然の関わり」をテーマに取材してきたという庄司氏。クロと佐藤さんの物語を通じ「動物との共生の在り方について読者に問い掛けたかった」と話す。

 佐藤さんはかつて猟友会の一員だった。山に出掛けた際、子グマを連れた母グマが人の気配に気付き、片方の子グマだけを連れ去った。「命をつなぐ」ための母グマの行動だったと佐藤さんはみる。残された子グマが自然の中で生き抜くことは難しいと考え自宅に引き取った。

 佐藤さんは「母グマのことを思うと今でも胸が苦しくなる。クロも野生の暮らしをしたかったはず」と吐露した。ただ、庄司氏は佐藤さんが罪悪感だけでクロを育てたわけでなく深い愛情があったとみる。佐藤さんがクロの大好物の山菜を山に採りに行っていたなどの逸話を連載で取り上げた。

 「自然との共生」に関する課題にも焦点を当てた。昨年度に山形県内で有害駆除されたツキノワグマが県内の生息数全体の1割以上に当たると報じた。クマが人を襲う可能性や保護にかかる費用の問題を挙げ「保護と人の安全確保の両立は難しい」と説明する。

 それでも読者には「思考を止めないでほしい」と強調する。人とクマの生活圏をすみ分け、共存を試みる鳥取県の事例を連載で紹介。「弱い者を助けようとする佐藤さんのような『人間らしい共生の心』を持ち、課題に向き合いたい」と語る。(浅)

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