2015年 8月4日
責任の所在、明らかに

透明性ある見直し作業を 

 東京五輪・パラリンピックのメーン施設となる新国立競技場建設計画では、2520億円もの建設費が激しい批判を浴びた。安倍晋三首相は7月17日、白紙撤回を表明。各紙社説は当然の措置とする点でおおむね一致し、責任の所在を明らかにするよう求めている。

支持率意識した首相判断

 読売は「『ゼロベースで計画を見直す』とする首相の決断を評価したい」とし、国際コンペで審査委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏が「コストについて、徹底的な議論はなかった」と釈明したことを挙げ、「当初から関係者にコスト意識が乏しかったというわけだ」「工費がかさむことが分からなかったのだとしたら、専門家として、お粗末である」と指摘した。

 産経も18日付で「遅すぎたとはいえ、首相の決断は妥当」とし「国民や選手に祝福される聖地を完成させなくてはならない」と強調。24日付では、混乱の責任について「事業主体として当事者能力を欠いた日本スポーツ振興センター(JSC)と、これを放置してきた所管官庁の文科省は、責任を免れない」と名指しした。

 朝日は政権の批判を前面に出した。「わずか1週間前、国会で『時間的に間に合わない』と否定したのは首相自身だった」とし、17日に安保関連法案の衆院本会議での採決が行われたこととの関連で「せめて競技場の問題では、民意にこたえる指導者像を演じることで内閣支持率の低落傾向に歯止めをかけたい。そんな戦術と勘ぐられても仕方ない」と疑問を呈した。

 毎日も18日付で「安保法案が支持率低下の要因となる中、国民の支持をつなぎ留めたいとの思惑があったのではないか」とした上で「安保政策、沖縄の普天間移設問題、原発政策についても国民の声に謙虚に耳を傾ける姿勢を示してほしい」と政権に注文を付けた。23日付でも「混乱を招いた責任をうやむやにしてしまっては国民は納得しないだろう」と強調した。

 白紙撤回の表明と、世論調査で内閣支持率の低下が明らかになったこととの関連性は、日経も17日付で「気になるのは、安倍政権への支持のかげりと時期を合わせるようにして新競技場を見直す考えが政府・与党内で浮上したことだ」と言及した。

政権批判そらす思惑 

 ブロック紙・地方紙では、中日・東京は「国民の反対の声に真摯(しんし)に向き合った結果だと、だれが素直に信じられようか」と厳しいトーンで疑問を示した。「建設計画の白紙撤回で支持率低下を食い止めようとの思惑があるとすれば、それこそ筋違いだ」(北海道)「国民の関心を法案からそらし、政権への批判を回避しようという思惑も見え隠れする」(山梨日日)「支持率低下が加速しかねない中、新競技場問題で政権批判の目をそらす思惑が透けて見える」(京都)などと、厳しい見方を示した社説が少なくなかった。

 建設計画が一から出直しになるのに際して、信濃毎日は「五輪のためとはいえ、威容を誇る施設は要らない。競技場として十分な機能を備えていれば簡潔でいい。財源の手当てが難しいならなおさらである」と、建設費の大幅削減を主張。愛媛も「例えば、開閉式の屋根も見直したい。屋根にこだわったのは遮音効果を上げ、音楽イベントなどでの収益を見込んだためであり、五輪のためではない」と指摘した。北國は「新デザインの選定に時間はかけられない」として「国際コンペで高評価を得た作品の中から採用するのも一案ではないか」と提起した。 

 河北は「身の丈にあった新競技場は超高齢社会、人口減少時代における公共事業の試金石となる」「適正な事業規模で持続可能な開催をうたう国際オリンピック委員会(IOC)の改革方向に沿い、震災復興事業へのしわ寄せを懸念する被災地の思いにもかなう」と被災地の視点から指摘した。

問われる見直し方

 西日本は「五輪大会組織委員会会長の森喜朗元首相と会談して自らの政治決断を印象付けた安倍首相だが、国政のトップとしてこれほどの混乱を招いた責任は免れまい」と首相の責任を指摘した。中国も「誰もが当事者意識を欠き、引き返す機会はあったのに事実上放置してきたといえる。この無責任体質を、安倍政権はしっかり反省してもらいたい」とした。

 「見直し方こそが問われる」と強調したのは高知。「これまでの経緯はあまりにも不透明で、無理な計画を強引に推し進めてきた責任がどこにあるのかさえ分からない」と指摘。その上で今後の見直し作業について「国民に負担を求める以上、決定までの経緯が透明でなければならない。国会での議論はもちろん、すべての過程を公開で行うべきだろう」と主張した。(審査室)

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