2017年 6月6日
9条と自衛隊問い直す

「2020年目標」に賛否

 施行から70年の5月3日の憲法記念日を中心に、各紙社説は憲法を論じた。安倍晋三首相が同日、改憲派集会に寄せたビデオメッセージで「9条に自衛隊を明記し、2020年に施行したい」などと考えを表明したことに対しては、様々な意見が表明された。

議論喚起を評価

 3日付朝刊で安倍氏のインタビューを掲載した読売は社説で「あえて改正の目標年を明示して、議論の活性化を図ったことは評価できよう」と論評。現行の9条を維持し自衛隊を明記する考えは、公明党や民進党への配慮との見方を示し、丁寧に意見交換して戦略的に取り組むよう求めた。高等教育無償化のための改正に前向きなことは、これを公約とする日本維新の会との連携強化が狙いとしつつ、慎重な検討が必要とした。

 4日以降、他紙も社説で取り上げた。産経は「核心である9条を取り上げ、期限を定めて改正に取り組む姿勢を支持する」と表明。「平和主義は踏襲しつつ、自衛隊には日本の国と国民を守る『軍』の性格を与えなければならない」と主張した。日経は「そのまま議題にするかどうかはともかく、もう少し具体的に論議することは有意義ではなかろうか」と前向きに評価。「国会で突っ込んで話し合い、それに伴って国民の考え方が徐々に整理されていくのが理想的な憲法論議である」と論じた。

 毎日は「改憲派も護憲派も9条を憲法論議の要と捉えるなか首相の提起はそれなりに重要だ」としつつ「議論のテーブルに載せるには、あまりに多くの問題がある」。施行時期を東京五輪開催年に重ねていることには、両者には何の関係もないと批判した。

 朝日は自衛隊明記に「平和国家としての日本の形を変えかねない。容認できない」と反対。集団的自衛権の行使容認の閣議決定を挙げて「改めるべきは9条ではない。安倍政権による、この一方的な解釈変更の方である」と断じた。中日・東京も「集団的自衛権の限定なしの行使を認めたり、武器使用の歯止めをなくすような条文を潜り込ませようとするのなら、断じて認められない」と強調。山梨日日も「国民的な議論を起こすとしたら集団的自衛権容認の時だった」と疑問を呈した。

 南日本は、北朝鮮情勢が緊迫化する中で9条改正に国民の理解を得やすいと踏んだのでは、との見方を紹介。「そうであるなら、国民の不安につけ込む手法であり、看過できない」と断じた。

国会軽視と批判

 北海道は、安倍氏は従来、改憲内容は国会に委ねる姿勢だったとし「衆参の憲法審査会の議論が本格化する矢先に一転、時期まで明示した」「首尾一貫しない国会軽視の姿勢」と問題視。信濃毎日は「憲法を尊重し、擁護する義務を負う首相が憲法記念日に改憲を主張する」と「強い違和感」を表明した。「なぜ期限を区切ってまで急ぐのか。改憲が自己目的化していると言わざるを得ない」(河北)との疑念も示された。

 高等教育の無償化について中国は、自民党が民主党政権の高校授業料無償化を猛烈に批判していたことを指摘。日本維新の会が無償化を公約に掲げていることも挙げ「こうした多数派工作を子どもにどう説明するのか。改憲論議と切り離すべきである」と強調した。

地方の視点反映を

 沖タイは「沖縄の負担が半永久的に固定化し、米軍・自衛隊が一体となった『不沈空母』と化すのは避けられないだろう」と危惧。琉球も衆院憲法調査会で4人の参考人全員が沖縄の自治権強化を求めたことを挙げ「改憲を唱える前に、現憲法の平和希求や地方自治の理念を実現するよう努力すべきだ」と主張した。

 熊本日日は「変える必要があるのならば、『情』ではなく、地道に『理』を積み重ねていくべきだ」と主張。愛媛は「『変えないこと』も有力な選択肢であることを忘れてはならない」と訴えた。

 このほか3日付の社説では、西日本は憲法前文の普遍性と先進性を強調。日本の諸問題が憲法の条文の過不足によるのか見極める必要があると主張した。山陽は地方自治法も70年を迎えたことに触れ「国と地方の関係や地方自治の在り方を憲法にどう反映させるべきなのか。地方の視点を踏まえ、丁寧に議論を重ねていくことが欠かせない」と論じた。神戸は「緊急事態条項」について、阪神・淡路大震災に触れながら「必要なのは改憲でなく、災害対策基本法などを最大限活用した救援や復興計画の拡充だ」と指摘した。

 北國は憲法学者の大半が自衛隊を違憲と解釈する9条は、国民の安全を守るにふさわしい条文とは言い難いと強調。憲法審査会に「より良い憲法の姿を最終決定権者の国民に示す責務を果たしてもらいたい」と求めた。(審査室)

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