民主主義の退行に警鐘

日本が多国間協調の先頭に

 ベルリンの壁が1989年11月9日崩壊した。その約1か月後に米ソ首脳が地中海・マルタで会談し、冷戦終結を宣言している。核戦争の脅威は減り、自由や人権を守る民主主義が拡大していくものと国際社会は歓迎したはずだ。ところが今、その期待は裏切られ、分断と混沌の時代を招いている。「崩壊30年」前後の各紙社説を読み解くと、日本の役割は民主主義を守る砦になることだという意思がうかがえた。

貧富の差と分断拡大

 「自由主義陣営の中心であるべき米国の大統領には『自国第一』を唱えるトランプ氏が就き、世界に対立と不確実性の種をまき散らしている」。日本農業はそう記した上で、「中国、ロシアでは強権的なリーダーが長期政権を続け、自由主義や民主主義の価値観に挑戦している」と現状を分析した。

 「欧州は岐路に立っている」と論じる毎日は「懸念されるのは、排外主義的な潮流の広がりだ。グローバル化や欧州連合(EU)に対する人々の不満に乗じて、ポピュリズム(大衆迎合主義)的な政治勢力が伸張している」とみる。北海道も「権威主義的な勢力が台頭し、ポピュリズムが社会の対立をあおっている。自由や人権、民主主義といった価値観が揺らぎ、岐路に立たされている」と指摘し、欧州の苦難を典型的に示す壁崩壊後のドイツの歩みを論じた。

 「岐路に立つ」とのキーワードを同様に使った読売は、東欧諸国が抱える課題を考えた。壁崩壊は「民主化運動が拡大し、共産党独裁体制が次々と倒れた『東欧革命』のクライマックスだった」と指摘。「東欧各国で民主的な選挙が実施され、市民は言論や移動などの自由を享受できるようになった。西側の市場経済が導入され、経済のグローバル化が加速した。非人道的な独裁を打倒した意義は今日も失われていない」と強調した。「懸念されるのは、民主化に逆行する動きが近年、東欧で顕在化してきたことだ」との見方を示した。

 なぜこうした状況が生まれたのか―。山形、茨城、岐阜、山陰中央、大分などは「市場経済は現代史上例がないほどの富の偏在を生んだ。だが、政治はこれを是正できていない。政治は移民など少数派と多数派の激しい対立にも対応できていない。むしろ政治家は国家を分断し、解決を難しくしている」と、民主主義陣営が後退する理由を指摘した。

米中新冷戦の懸念

 米中関係の対立激化を危惧する南日本は「今後、本格的な覇権争いに発展することになれば、それは世界中を巻き込む冷戦に30年ぶりに突入する危険をはらむ」と強調する。日経も「貿易、先端技術、安全保障面など多岐に及ぶ対立はその落としどころが見えず、世界の不安を助長している」とみる。さらに「1987年に米国とソ連が署名した中距離核戦力(INF)廃棄条約は今年失効した。米ロに中国を巻き込んだ核兵器開発競争は激化している。北朝鮮はミサイル発射実験を繰り返し、イランは核開発を再開した」と、核の脅威が増しているとの視点も掲げた。

 西日本は立ちはだかる諸問題について、「地球温暖化に歯止めがかからず、核兵器廃絶も後退。異常気象や地域紛争は貧困や飢餓を招き、大量の難民を生み出す。それがまた分断につながる負の連鎖を断ち切らねばならない。危機を直視し、国家や民族、宗教などの『壁』を超えて行動することが求められる」と論じた。

 日本の役割は何だろうか。中国は多国間協調を進める重要性を説き、「日本も、EU各国と国際協調の先頭に立ち、格差拡大に歯止めをかけ、社会の分断を食い止める役割を担うべきだ」と主張した。産経は「国力を高め、自由、民主主義、法の支配が魅力的な繁栄の道であることも示していかねばならない。変化の速度が格段に速くなった世界にあって、どのような民主主義や市場経済が最適解なのかを探る努力も欠かせない」とした。日本農業は「資源の少ない日本の方向は多国間主義以外にない。日米関係を最重視しながらも、アジア全体を視野に中国との経済協力関係も強めるべきだろう。むしろ米中の仲介役を果たし、協調的な多国間主義を掲げ政治力を発揮すべき時だ」と論評した。

 国際社会の在り方も問い掛けた。「あのとき自由主義は『勝った』のではなく、新たな試練の起点に立たされていたのだ」と論じた朝日は「格差と憎悪という内なる『壁』と、一国主義という対外的な『壁』を取りのぞき、寛容と包含性に富んだ共生のための国際規範づくりに動き出すときである」とまとめた。高知も「人間の自由と連帯を阻む『壁』は、まだまだたくさんあるに違いない。それでも人間がつくった壁なら、人間の手で壊せないはずはない。ベルリンの壁崩壊から得た教訓を忘れてはならない」と結んだ。(審査室)

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