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2020年 1月28日
「地域発」で人口減に対抗

長期政権のおごり懸念

 地方紙の元日付社説は、新元号「令和」になって初めての年明けであることや今夏開催の東京五輪・パラリンピックをにらみ、時代の転機として地方が活気づく年になることを望むものが目立った。長期化に伴う安倍晋三政権の「おごり」や、加速する人口減・少子高齢化を懸念する声もみられた。海外情勢では今秋の米大統領選などに触れ、「分断と対立」の広がりや揺らぐ民主主義の先行きを注視するとの論調が多かった。

五輪は外国人誘客の好機

 東京五輪・パラリンピックが半年後に迫り、山口は「1964年の前回大会に続き、東日本大震災からの復興と『共生社会』を理念に掲げる『復興五輪』を『おもてなし』の心を発揮して成功させたい」と訴えた。全国を巡る聖火リレーは福島県から出発する。福島民報は「県民一人一人が震災以来の歩みをたどり、県土再生の新しい道筋を見いだそう」と呼び掛けた。

 陸奥は「多くの人々が世界各地からわが国に訪れる見込みだ。日本の文化、高い技術力、治安の良さなどをアピールする絶好の機会であり、五輪・パラリンピック後のインバウンド振興につなげたい」と願った。上毛も「平和や社会の在り方などを内外に発信するとともに、多様性に富んだ共生社会を築く試金石にすることが重要だ」と説いた。

 一方で課題を問う声も上がった。国際オリンピック委員会は熱中症で選手が倒れるのを危惧してマラソンと競歩の会場を札幌市に移転したが、福井は「馬術やトライアスロンなど暑さの影響が心配される競技はそのままだ。台風が襲来する可能性もあり、万全の態勢を求めたい」とくぎを刺した。京都は「かつてのような経済成長の再来を夢見られる時代ではない。五輪関連施設への膨大な投資が『負の遺産』になる懸念すらある」とした。

 国政では支持率が低下する安倍内閣に対し、「『安倍1強』のおごりや緩みばかりが目立つ」(秋田魁)などと批判する新聞が複数あった。中国は「政治はさらに劣化が進んだ。昨年秋、『政治とカネ』絡みで大臣2人が相次いで辞職した。安倍晋三首相は任命責任を果たすつもりはないようだ。2人は国民への説明を果たさず雲隠れしたまま。首相自身も『桜を見る会』の私物化疑惑をきちんと説明していない」と主張。山口は「森友・加計学園問題も含め、首相が疑惑究明に指導力を発揮しなければ、政権への飽きも重なって求心力は失われていくだろう」と分析した。

 安倍首相は持論の憲法改正に意欲を燃やすが、高知は「自身のレガシー(遺産)づくりのためではないのか」と疑念を示した。熊本日日は「世論調査では、安倍首相の下での憲法改正に反対が半数を超えた。納得できる説明も議論もないままに改憲を推し進めようとする首相の姿勢を、主権者である国民が危惧していることは明らかだろう。拙速は厳に慎むべきだ」と注文を付けた。

 官僚や国会の在り方に疑問を呈する向きもあった。東奥、日本海などは「7年にわたる長期政権がもたらしたものは、異論を遠ざけ、説明から逃げる風潮、権力者にこびた官僚による記録の廃棄や隠蔽の常態化だ」と論じたうえで「公文書の保存と情報開示がないがしろにされ、民主主義の土台が崩れつつある。行政監視の役割を担う国会の権威は失墜、三権分立がゆがんでしまった」と嘆いた。

 人口減や少子高齢化を巡っては、危惧するだけでなく、地方の活力を引き出して乗り切ろうと訴える社説も少なくなかった。北日本は「明るい兆しはある。少しずつだが、日本でも地方移住の流れが出てきた」と注目。山陽も「地域の活力の大きな力になっているのが『Iターン』の移住者」とし、「地域の長所を生かし身の丈にあった事業を立ち上げる。経済やエネルギーの地産地消を目指す。そうした〝地域発〟の動きがますます重要となる」と唱えた。

 地域づくりを主導する若いリーダーを育てていくため、「学校教育の場で地域の魅力や課題を繰り返し伝え、子どもたちに参画意識を植え付けていく。そんな取り組みも必要」(西日本)という。山陰中央は「都会に比べて『何もない』と環境を嘆き、手をこまねいていては、地域は縮むばかりだ。まずは高い目標を掲げ、『あるもの』に磨きをかけてアピールしなければ、明るい未来はやってこない」と叱咤激励した。

 国や地方の財政への影響も大きな論点だ。高齢化による社会保障費の膨張に合わせ、将来世代が返済することになる国や地方の借金も積み上がる。静岡は「給付と負担の聖域なき改革を断行しなければ、未来は見えない。消費税の再増税についても、議論を避けては通れない」と問題提起した。

 人口減少問題について、違った角度からの見方を示したのは京都だ。「日本の人口は江戸時代後半の約150年もの間、3千万人前後を保った。今後減少が続くが、出生率が上向けばある時点で下げ止まり、江戸期のように一定水準で安定する『定常状態』となりうる」と予測。「そうした新しい視点に立って、社会の仕組みを考えていかねばならない」と求めた。

自国第一主義に警鐘

 厳しさを増す国際情勢への言及も目立った。11月に大統領選を迎える米国について、神奈川は「行き過ぎた自国第一主義を少しでも軌道修正できるか否か。世界が固唾をのんで見つめる」と指摘。中国は「トランプ氏が大統領になり、歴代大統領や各国の首脳が苦心して積み上げた国際的な約束事をほごにした。温暖化防止の枠組み『パリ協定』やイラン核合意からの離脱である。今秋に再選されれば、世界は引き続き振り回されそうだ」と予想する。福井は「特に中国や北朝鮮への対応を誤れば、経済や安全保障面など日本への悪影響が避けられない」とみる。

 英国は欧州連合(EU)からの離脱を決めたが、「国際協調をけん引するEUは加盟国の結束に腐心し、域内課題に専念する懸念がある」(北海道)。山形は「自国第一主義がはびこり、国際協調の精神は後退している。民主主義に危機が迫っているともいえる」と警鐘を鳴らした。

 沖縄の2紙は、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設問題を巡り、政府の対応を強く批判した。昨年2月の県民投票で投票者の7割超が辺野古の埋め立てに反対したのを踏まえ、琉球は「沖縄の民意は完全に無視された。これは民主主義の正常な在り方ではない。国民の意思に従って政治を行うという基本がなおざりにされている」と断じた。沖タイは「安倍晋三首相が『沖縄に寄り添う』なら新基地を断念し、普天間の閉鎖・返還の道こそを探るべきだ」と迫った。

ニュース31紙、企画・連載43紙

 【1面トップ】31紙がニュース、28紙が企画、15紙が連載でスタートした。ニュースと連載の主な見出しを拾う。

 《ニュース》北海道「HKKが新航空会社 道内路線充実へ検討」、河北「定禅寺通の車線縮小検討 歩道広げ、にぎわい創出」、静岡「水利権 目的外使用か 日軽金 精錬せず売電」、北國「金沢城 二の丸御殿仕様書発見」、神戸「教員暴行問題 学校運営 弁護士ら支援」、愛媛「南海トラフ臨時情報 事前避難10市町以上」、熊本日日「豊肥線 今秋復旧へ」、琉球「徴用船員 県民700人超犠牲」

 《1面連載》秋田魁「つながる力 社会減と向き合う」、山形「災害から命を守る 県内『安全神話』を問う」、下野「なぜ君は病に... 社会的処方 医師たちの挑戦」、上毛「近づく超スマート社会」、岐阜「つなぐ自治再生 郡上・石徹白の挑戦」、新潟「300キロのコントラスト 上京 夢のあとさき」、北日本「デポルターレの扉」、奈良「聖火再び 受け継がれる記憶」、日本海「未来切符 幸せを探して2020」、西日本「中村哲という生き方」、宮崎日日「激流その先 口蹄疫から10年」、沖タイ「首里城 象徴になるまで」(審査室)

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